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ぶったん箸休め

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物理探査のことを略して、物探(ぶったん)と呼びます。ここでは、物探とチョッとだけ関係ある話題を集めました。智の箸休めです。楽しんで下さい。
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記事一覧

上が正解? 下が正解?

野外フィールドで電気探査を実施する場合、電線(ビニール線)を数kmにわたって設置することがしばしばありました。電気探査は2点間に電流を流したり、2点間の電位差を測定したりするので、2点間が電線によって接続されている必要があります。 この電線の長さは5-6kmにも及ぶことがありました。基本的には道路わきを利用して敷設しますが、山間部の調査では、森や茂みの中を通さないといけない場合もあります。こんな時は、野生生物による電線の切断のリスクがあります。 通常、電線は地面のうえに這

アクティブセンサとパッシブセンサ

物理探査では、目に見えない物性値の変化を、目に代わるセンサを使って測定します。多くのセンサは、様々な物性値を最終的には電気信号に変えて出力します。これは、電気信号に変えることで微小な信号を増幅したりできるからです。 センサは大きく分けると、受動的なパッシブセンサ(passive sensor)と能動的なアクティブセンサ(active sensor)に分類できます。パッシブセンサは、人工的な信号源を必要としないセンサで、多くのセンサがこのタイプになります。現在、MT法プロジェ

『自衛隊の裏側ぜ~んぶ見せちゃいます!』から問い合わせがありました。

今日の午前中、『自衛隊の裏側ぜ~んぶ見せちゃいます!』(テレビ東京系列)という番組を作っている制作会社のスタッフさん(ADさん?)から電話がありました。会社名は電話で聞いてはいますが、覚える気がなかったので忘れてしまいました(笑)。短い電話の中では番組の内容を説明してもらえませんでしたが、問い合わせ内容は不発弾に関することでした。 「日本にはあと何年分くらい、不発弾が残っているのでしょうか?。先生のご意見をお聞かせください」という質問内容でしたので、「私の意見ではありません

商用電源の東西対決 50Hz vs 60Hz

日本の商用電源は、電圧100Vの交流が使われています。交流は直流と違い、電圧の大きさが時間とともに変化する電流です。交流では波のような振幅の変化が何度も繰り返されます。その波が1秒間に何回繰り返されるかを、数値で表わしたものが周波数で、単位はHz(ヘルツ)です。 日本では地域によって商用電源の周波数が異なり、大雑把に言えば東日本は50Hz、西日本は60Hzとなっています。日本で電気が使用され始めた明治の頃、まだ電気事業は全国展開されていませんでしたから、周波数は各地域や発電

MT法の必須アイテム 水準器

水準器は、物体の表面に密着させて、水平または鉛直に対する物体の角度や傾斜を確認する器具です。水準器は、水平器あるいはレベルとも呼ばれています。一般的な水準器は、気泡管水準器や円形水準器ですが、水平からの角度を数値表示するデジタル式などもあります。また、赤や緑のレーザー光線で水平を教えてくれるレーザー水準器というのもあります。水準器は、土木・建築・測量などの分野を中心に広く用いられています。 水準器は、物理探査でも役に立ちます。特にMT法では、水準器はインダクションコイル設置

高感度にもほどがある#2 重力計

重力探査は、地下の岩石や土壌の不均質性から生じる密度変化を捉えることで地下構造を推定する方法です。おもに石油鉱床や地熱貯留層などを探すときの概査などに使われます。 重力探査では微小な重力の差を測定する必要があるので、高精度な重力計が必要です。ここまで説明なしに”重力を測定する”と書きましたが、厳密には重力加速度を測定します。高校の物理では、重力加速度は一定の9.8m/s^2と教わりますが、実際はそうではありません。地球は自転しているので、物体には引力と遠心力が働きます。この

高感度にもほどがある#1 超電導磁力計

現在進めているMT法探査の機器開発の重要部品に、磁気センサがあります。我々が使っているのはMI素子と呼ばれるセンサで、低周波領域の感度が一定というMT法には持って来いの性質を持っています。このセンサでは、地球磁場の数万分の一の微小な磁場変化を測定することができます。MIセンサではnT(ナノテスラ)レベルの磁場変動をとらえる必要があります。 磁場測定の感度だけで言えば、MIセンサよりも凄いセンサがあります。それが超電導磁力計です。超電導磁力計はnTの1000分の1であるpT(

遺跡探査の研究者は絶滅危惧種

動植物が絶滅しそうになれば、レッドリストに登録され、保護の対象になりますが、これが同じ生物でも人間の研究者となれば、保護の対象にはなりません。 ハイテク機器を使った遺跡探査は最先端の研究分野ですが、日本には研究する人がほとんどいません。私も数少ない遺跡探査の研究者ですが、遺跡探査はメインの研究分野ではないので、地方自治体の教育委員会などの依頼を受けた際にだけ”副業的に”遺跡探査を引き受けています。 現在、遺跡探査の研究者は日本にいるトキの数より少ないと思います。日本のトキ

分野が違うと専門用語が違う

以前にも同じような記事を書きましたが、専門分野が違うと同じ意味のことでも、異なる名称で呼ばれることが結構あります。例えば、物理探査の専門用語に比抵抗というのがありますが、これは高校の物理の教科書では抵抗率と書かれています。また、昔の教科書などには固有抵抗と書かれていたりします。また、物理探査では比抵抗の逆数となる物理量を導電率と呼びますが、その他の分野では電気伝導度と呼ばれたりします。 物理探査では、飛行機やヘリコプタなどを使った空中からの磁気探査や重力探査などがありますが

伝達関数について

伝達関数とは、「システムの入力と出力の関係を表し、入力を出力に変換する関数」のことで、制御工学でよく出てくる専門用語です。タイトル画のように、ある回路に時系列信号を入力すると、それに応じた時系列の出力信号が得られます。このブラックボックスの関数のことを伝達関数と言います。 伝達関数には、入出力の関係が簡潔に書けるので、ラプラス領域での数式がよく使われます。ラプラス領域は、複素周波数(s)を使って記述できます。タイトル画の伝達関数を使うなら、出力は” C(s)=G(s)R(s

ソロモン諸島で不発弾 沖縄でも・・・

数日前、ソロモン諸島での不発弾処理の支援(専門知識の供与)のため、防衛省の自衛隊職員がソロモン警察に派遣されるという記事を読みました。 ソロモン諸島には、太平洋戦争の激戦地・ガダルカナル島があります。戦後からすでに75年が経過していますが、いまだに大量の砲弾などが不発弾として残されています。その数は、100万発とも推定されています。この不発弾は、爆発の危険性があるだけでなく、経年劣化しているため、有害な化学物質が浸出していることもあるのだそうです。 現地では不発弾の爆発で

考古学は答えのない謎解きだ!

考古学はしばしば、謎解きに例えられます。そのため、『考古学の謎解き』や『考古学は謎解きだ」などのタイトルの書籍も出版されています。そもそも、数百年から数千年も前の話なので、かなり確実な証拠がない限り、本当のことは土壌が分かりません。また、今まで本当の事だと信じられてきたことも、新しい証拠が出てきたら一気に仮説が覆ることも少なくありません。 私は、地下資源の探査の他に、遺跡探査の研究もしています。こちらの研究はメインではないのですが、県や市町村などの地方自治体に頼まれることが

物理探査と野生生物 鹿との出会い

物理探査を実施するために山中に入ると、様々な野生生物に遭遇します。哺乳類では、エゾリス・ウサギ・イノシシ、鳥類ではキジ、ヤマドリ、オオミミズクなどです。今年のフィールド調査では、これらの野生生物にニホンジカが追加されました。 野生の鹿は、奈良では街中で普通に見られるので、それほど珍しい動物ではありませんが、山中で出会うと違った感動があります。福岡市内の街中でニホンザルを見たことはありますが、まだ山中では見たことはありません。カモシカも遠目で見たような記憶があるのですが、少し

フィールド調査日記@由布PART2 3日目(最終日)

今日は最終日ですが、現場での調査は無く、回収した測定機器とデータを無事に大学まで届けるのが仕事です。初日に回収した分は、車に搭載できないので二日目の朝に、宅配便で送りました。来週の月曜日には伊都キャンパスに届く予定です。 宿泊先の別府は、多少の寒さは感じましたが、雪の影響は殆どありませんでした。ただし、別府ICから高速道路に乗ると標高が高くなるほど気温が下がっていきました。別府湾が一望できる別府湾SAでは、残雪があり、アイスバーンのように凍っている箇所もありました。現場付近