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物理探査のデータ解析

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物理探査データの解析法に関する記事をまとめました。
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インバージョンについて

物理探査に限らず、観測データの解析には二種類の方法があります。一つは順方向のデータ解析です。この解析は、順解析またはシミュレーション(simulation)などと呼ばれます。物理探査の例で説明します。ある地下構造を仮定すれば、その地下構造を離散化して数学モデルに落とし込むことで、そのときに得られるであろう観測値を予測することができます。これが数値シミュレーションです。シミュレーションは、モデル空間からデータ空間への変換と捉えることもできます。 もう一つの解析は、逆解析または

コヒーレンシーという言葉を知っていますか?

コヒーレンシーというカタカナ言葉を聞いたことがありますか?。コヒーレンシー(coherency)は、一貫性や干渉性と訳されますが、日本語の意味がいまいちハッキリしない言葉です。 ”干渉性”という文脈で使われるのは、レーザー光のコヒーレンシーの場合です。一般的な可視光は自然放出光なので、光波の位相やエネルギーがランダム(バラバラ)であり、干渉することはありません。しかし、レーザー光は人工的に誘導放出される光であるため、光波の位相やエネルギーが揃っているので干渉可能です。 ま

数値計算の境界条件について

コンピュータの進歩に伴って、有限要素法や有限差分法を使った数値シミュレーションが、比較的簡単にできるようになりました。私が学生の頃は、2次元のシミュレーションを”大型計算機センター”でやっていました。たぶん、この頃の大型計算機よりも、今のパソコンの方がメモリも多いし、計算速度もかなり速いと思います。 数値シミュレーションも、複雑な3次元形状が扱えるようになり、昔は一部の人しかできなかった計算が、パソコン上でもできるようになりました。いまでも、有限要素法(FEM) や有限差分

反省! ノイズ除去を舐めてました

MT法の見掛比抵抗の計算のため、観測で得られた時系列データを処理するプログラムを開発中です。時系列データが理想的に観測ノイズが無い場合なら、プログラムは正しい結果を出しますが、実際には観測データには複雑なノイズが含まれていて、一筋縄ではいきません。 いま問題になっているのは、ランダムな高周波ノイズの問題です。同じ信号が繰り返し観測される場合は、スタッキングという加算処理でランダムノイズを減少させることができます。しかし、時々刻々と変わる自然の電磁場を観測値とするMT法では、

電磁探査の有限要素法を理解したい

これまで有限差分法に始まり、有限要素法、境界要素法、と次々とプログラムを作ってきました。最初に作ったプログラムは、差分法による電気探査の2次元シミュレーションプログラムでした。そのころは、大型計算機も非力で、大きなメモリーが取れなかったため、反復法を使ったプログラムを書きました。 ところで”有限差分法”という名称は、今では一般的ですが、昔は”有限”が付いていないシンプルな”差分法”と呼ばれていました。現在の有限差分法は、有限要素法に近づけた日本語名称のバージョンアップです。

プログラミングとシミュレーション

複雑な物理現象や自然現象を解明する場合、最初にすることは”現象の規則性を見つけること”です。不規則な現象の場合、その現象を簡単には解明できませんが、あるルールに基づいた規則性があれば、それを数式にすることができます。科学では”モデル”という言葉を使いますが、最初の現象が”物理モデル”で、それを数式化したものが”数学モデル”です。ここまでの作業は手作業です。 現在、多くの物理現象が数学モデル化されています。数学モデルで出てくる数式が微分方程式や偏微分方程式です。一方向にしか物

Juliaで物理探査#1 弾性波探査・屈折法

弾性波探査の屈折法は、地中を伝わる弾性波の中で、地層の境界面で屈折し、そのあと地層の境界を伝わり,再び屈折して地表に戻ってくる波を利用して地質構造を推定する方法です。地中を伝播する弾性波にはP波やS波がありますが、屈折法では”P波の初動”を利用した測定方法が一般的です。主に土木・建設の分野で利用されています。屈折法で求められる弾性波速度は、地盤強度と関係があるので、岩盤分類や地山区分の情報として利用されていて、構造物の設計・施工時の有益な情報となっています。このように屈折法は

地震波干渉法

 地震波干渉法は、スタンフォード大学のクレアボー教授のアイデアが元になった新しい弾性波探査法です。  この理論を簡単に言ってしまうと、”地中にある様々な振動を地表で観測し、その記録の相互相関を取ることで地表に人工震源を設置した場合の反射波記録を合成できる”というものです。これは地中に満ちている雑音と考えられている波動(都市部であれば地下鉄などの交通機関や、人間活動が作り出す振動、火山地域であれば火山性の微動、波浪による振動、また地震の場合は、本震や余震などなど)を観測し、そ

地震波トモグラフィ

 地震波トモグラフィとは、地震波の伝播時間を用いて地球内部の3次元速度構造を求める手法のことです。生体内や物質を非破壊的に観察するために、コンピュータ断層撮影(CT)、核磁気共鳴(NMR)、ガンマ線などを用いるように、地震波を用いて地球内部を観察することができます。  この方法は医学のX線CTと原理は同じですが、X線CTが人体の密度の分布を画像化するのに対し、地震波トモグラフィでは、地球内部を通る地震波の速度の分布を画像化します。現在のところ、地球内部を数十キロメートルから