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【Review】#1 中野崇 『多彩なタレントを束ね プロジェクトを成功に導く ビジネスプロデューサーの仕事』

今回は、この本について自分の経験を踏まえてレビューしていきます。

なぜこの本を読もうと思ったか

自分は今、新規事業開発をテーマに仕事をしています。会社での現在の職位はアソシエイトなのですが、その1つ上は「事業プロデューサー」になります。この事業プロデューサーというのが、なんとなく分かるようで分からない職種だなと思っていました。自分が目指すべきポジションではあるのですが、事業プロデューサー=”事業をプロデュースする人”というトートロジーでしか語ることができておらず、何をするべき人で何ができなければいけないのかということが見えていませんでした。

入社から少し時間が経ち、そんなことを考える余裕が出てきた頃に、たまたま本屋で見かけたのがこの本でした。自分にどのようなスキルが必要か、どのような状態になれば事業プロデューサーになれるのか、自分では言語化が難しいのなら、他の人の定義を学んでみようと思い、この本を読むことにしました。事業プロデューサーは自分の会社で使っている呼称であり、意味合いとしてはビジネスプロデューサーと同じだと理解しています。

気づき/学び

この本を読んで特に印象に残った点、学びになったと感じた点を3点ご紹介します。

1.新規事業の定義

本文中で中野さんは、新規事業を「企画・開発・販売という一連のプロセスを新しく構築し、継続的な売上を生み出す事業を創ること」と定義しています。そのうえで、アンゾフのマトリクスも引用しつつ、以下のようなパターンは新規事業の定義には含まれないとしています。

  • 日本(既存市場)で開発された商品を仕入れて海外で売るための販社立ち上げ

  • 既存の商品・サービスを改良して既存の販売プロセスに乗せて売る活動

図1.アンゾフのマトリクス(本文中の図を筆者にて再作成)

なぜなら、企画・開発・販売の一連のプロセスのどれかが含まれていないからです。「ある特定のプロセスのみを新しく構築するのと、企画・開発・販売の一連のプロセスすべてを新しく構築するのでは難易度が全く違う」うえ、「本格的に新しい価値創造に取り組む場合は、一連のプロセスを新規構築、あるいは再構築しなければならないことが多い」ため、上記2つは新規事業とは呼べないのです。

さらに、「新しい企画・開発・販売プロセスを構築したとしても、売り上げはサービスリリース後に何件か受注したのみで、安定的に継続していないという状態」なら、それも新規事業ではないとしています。これは「案件として受注実績ができたに過ぎない」というのです。

新規”事業”であるためには、安定的な売り上げ(正確には収益)が必要と述べられています。採用面接で「数多くの新規事業を作ってきた」というプレゼンをされるとき、実はその事業が売上を生んでいなかったり既存商品の改良提案を行って、既存の販売プロセスに乗せただけだったりするということがあるとのことです。

個人的には、ここがドキッとした部分でした。自分は今、会社で新規事業の0→1フェーズを支援する仕事をしています。企業の新規事業創出、特にアイデア検討から事業立ち上げまでを一緒になって進める仕事です。ただ、0→1と1→10でハッキリ分かれているわけでありません。自分の部署は0→1フェーズの色が強いですが、あくまで強いだけで1→10フェーズのことを考えなくていいわけではありません。でも目の前の仕事にかかりきりになってしまって、正直それを忘れてしまっている部分がありました。

企画・開発までは頭にあったのですが、それが売れるものなのか、そして安定的に売り上げられるようにしていけるのか、頭がそこまで回っていなかったと思います。しかし、考えてみれば新規事業といっても「事業」であり、拡大・発展していけるものを目指すことが必要です。当然のことながら、この本を読んでそのことに気付かされました。

2.ビジネスプロデューサーの仕事/役割

本書はそのタイトル通りビジネスプロデューサーという仕事について、具体的にどんな役割を担うのか、プロジェクトに関与する他の仕事とは何が違うのかということを解説しています。正直「なんでも屋」ぐらいの言語化しかできていなかったのですが、決してただ何でもする人ということではありません。

プロジェクトにはさまざまな役割を持った人が関与します。プロジェクトオーナー、プロジェクトマネージャー、プロジェクトリーダーなど統括的な立場の人を初めとして、営業やエンジニアなど現場で専門的な仕事を推進する人なども当然必要です。ビジネスプロデューサーは、性質的にプロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーと似ており、実際兼ねられることもあるのですが正確には異なります。

ビジネスプロデューサーに求められる役割の一つは、プロジェクトの成功に必要な人材を把握し、各所から連れてきて適切なチーム編成を行うことです。社内だけで足りなければ、業務委託や新たに採用するなどして社外の人材も含めたチームを作ることが必要です。初期段階である程度必要な人材の要件にあたりをつけて確保しておけるかどうかでプロジェクトがうまく行くかは大きく変わります。

この点、個人的にあまり意識が至っていないポイントでした。自分の仕事がいわゆるコンサルティング、より正確には壁打ちをするメンタリングが多かったからかもしれませんが、ビジネスプロデューサーに求められる役割として想像していたものに入っていませんでした。というよりもプロジェクトの初期の初期、本当の立ち上げフェーズから関与したことがまだないからかもしれません。

プロジェクトを進める中で必要な役割が増えてきたら、そのために最適な人材はどういう人か、誰かを検討して巻き込む動きを担うことは頭にありましたが、それだけでなく初期のチーム編成を推進し、責任を負うのがビジネスプロデューサーでした。

考えてみればタイミングに関係なく、プロジェクトの状況を把握し、必要な人材に前もって声がけ巻き込む動きというのは当然重要です。プロジェクトを成功裏に導き、事業化させる人がビジネスプロデューサーである以上、チーム編成も必要な役割なので改めて強く意識していくべきだと考えています。

図2.プロジェクトのフェーズと職種ごとの関与範囲(本文中の図を筆者にて再作成)

図2は、著者が本文中で紹介している、プロジェクトの各フェーズにおけるポジション別の役割と関与する範囲を示したものです。これを見ると、いかに多くの人(役割)を巻き込んでいかないといけないかが分かるとともに、穴の空いている箇所があることが分かります。この穴を埋めることがビジネスプロデューサーにとってのもう一つの大事な役割です。

適材適所で人材を配置できていたとしても、プロジェクトの推進に必要な役割を全てカバーできないことは起き得ます。また、チームのメンバーの調子や他の仕事の状況などによってはカバーに入る必要が出てくることもあります。そういった時にビジネスプロデューサーは、自分もプレイヤーとしてプロジェクトの穴を埋め、人と人を繋ぐことが求められるのです。

これは実際自分も一年目ながら感じていることでありました。どれだけ効率化していても、依頼できることは他の人に依頼していたとしても、キャパシティを超えてしまうことはあります。まずは自分でなんとかできるよう踏ん張るのですが、それでも難しいときはヘルプを求めます。そういったとき、私の会社の事業プロデューサー(ビジネスプロデューサー)は一緒になって解決まで走ってくれる人たちだと感じています。

そのため、自分もビジネスプロデューサーになるためには、さまざまな分野に対する理解を深め、いざというときは自分がヘルプに入れるようになっておくべきと感じています。これは3つ目のポイントである、身につけるべきコアスキルにも繋がります。

3.身につけるべきコアスキル

本書では、ビジネスプロデューサーが身につけるべきコアスキルとして9つのスキルが提示されています。

  • 行動力

  • 重層的な知識

  • 柔軟な思考力

  • チームビルディング力

  • 方向づける力

  • 会議運営力

  • 伝達力

  • プロジェクトマネジメント力

  • 包容力

上記1つ1つのスキルについて全て紹介することは避けますが、基本的には確かにそのとおりだなというスキルばかりです。それ以上に重要であり、なるほどと思わされたのがこれらのスキルは「論理優位型」スキルと「情理優位型」スキルの掛け合わせである「両利き」のスキルであるということです。この「両利き」であるということこそが、ビジネスプロデューサーに必要な資質なのです。

言葉にしてしまえばそのとおりではあるのですが、分析や論理が得意でも、優しさや情に欠けていては人を率いることはできないし、逆に情に厚くても、論理的な思考、行動ができなければビジネスを推進することはできません。

論理的で考える力に長けた論理優位型スキルと、人間的で感じる力に長けた情理優位型スキルをどちらも使いこなせる必要があります。両利きだからこそ多様な人材とつながり、巻き込んでいくことができるのです。

図3.身につけるべきコアスキル(本文中の図を筆者にて再作成)

図3は、身につけるべきコアスキルを論理優位型と情理優位型に分解したものです。ビジネスプロデューサーは、行動力と知識を土台とし、幅広いスキルと思考の柔軟な思考によって多様な人材を巻き込み、チームのパフォーマンスを最大化することが求められます。

いずれも必須だと思ったのですが、特に包容力はビジネスプロデューサーであるために重要だと感じています。どのような状況下でもチームのさまざまな可能性を信じて、粘り強く温かく働きかけ続けることが必要です。そのためには、どっしり構えていられるよう1~8のスキルを常に向上させておき、最終的に自分が頑張ればなんとかなると言えるようにできるかがポイントになるのです。先にも述べましたが、私の会社の事業プロデューサーは、皆最終的に自分が頑張れば帳尻を合わせられる、という人たちで、だからこそ余裕を持っていられるように思います。

この本の学びをどのように活かしていくか

本書においてビジネスプロデューサーは、「ビジネスの目的・目標達成を実現するために必要な経営資源(情報・ヒト・カネ・モノ)を調達し、多様性を持つチームのパフォーマンスを最大化させ、顧客への提供価値を最大化する責任者であり伴走者」と定義されています。これを体現するために、具体的に求められる役割と身につけるべきスキルが提示されていたわけですが、おかげで今の自分には足りていないことがクリアになったと感じました。

この本は定期的に読み返して、ビジネスプロデューサーに必要なコアスキルを身につけられているのか、磨き込まなければいけないスキルは何かを確認しようと思います。もちろんビジネスプロデューサーという役職や肩書にこだわるのではなくそのスキルを持った人になるということを目標として努力していければと考えています。

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