雨の中で

朝4時に眠い目をこすりながら布団から這い出た。

緯度が高く白夜のため、外はこの時間でも薄暗い程度だ。周りにムースなどの動物がいないか安全を確認しながら扉を開け、離れのキッチンへと向かった。
鍋に火を入れオートミールとシリアルを混ぜて軽く煮込む。前の晩に用意していたブリトーとサンドウィッチを冷蔵庫から出し袋に詰め直す。ミルクをたっぷり入れたコーヒーを水筒に注げば準備完了。簡単だが温かい朝食を外のデッキに持ち出し、いただきます。

朝一番のバスに乗り込み公園の深部西へ西へと向かう。
今日はバックカントリーレンジャーと行くディスカバリーハイクだというのに、道中生憎の雨が降り始めた。その雨は目的地に到着してからも降り止まず、我々参加者は雨具を着て濡れながらのスタートとなった。足場はツンドラ特有の背の高い草本が生い茂り、ぬかるみも多い。そんな中を小一時間も歩くとブーツにも水が侵入してくる。ゴアテックスのブーツを履いてこなかったことを悔やむ。身体も冷え、正直もう早く帰りたいなと思いはじめた。

そんな時、眼前の小高い丘に動く謎の黒の点々が現れた。なんだろう。正体はカリブーの群れ。
それに気付いた我々は皆雨に濡れて疲れていたことなど忘れ、大興奮。その群れは30頭前後で構成され、どんどんこちらへ近づいてくる。そして我々から100~200mほどの距離の場所で立ち止まりこちらを見た。丁度もののけ姫で森を駆けるシカの群れの中でシシガミだけが立ち止まりこちらを見るシーンのように。
カリブーは好奇心旺盛で見たことのないものを見ると敵か味方かどうかを伺うそう。我々は刺激せぬよう息をひそめじっと彼らを観察していた。

群れは満足したのか、何も気に留めなかったかのように、地鳴りを響かせ去って行った。

ほんの一時のことだが、その衝撃と感動は半端ではなかった。まさにBBCのドキュメンタリーのワンシーンが目の前で起きているような感覚。テレビのそれで撮られるようなさらに北部に生息する群れと比べると今回の群れの規模は極めて小さいが、実際にこの目で見たという感動は図りしえなかった。

好まない嫌な状況でも前を向いて進むことで、思いがけない出会いや幸運があるもんだ。なんてことを思った。

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