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とある夜、密やかな春の気配。


なんだかそわそわする夜は、その心の声に耳を傾けて、例えば外に繰り出してみる。
何も持たずにあてもなく家を出て、夜の街を歩く。
誰もいない通りでふと立ち止まり、深呼吸。


ふわっと漂うそわそわする匂い。そうそう、これだ。
捉えきれなかったそわそわの正体を、ちょっとだけ鼻先で感じる。
昨日はポケットに手を入れていないと凍えるくらい冷たかったのに、今日はほんの少し涼しいくらいの気温。ささやかな風。
明日はきっと、いい天気なんだろう。

どきどき、わくわくするような不思議な気持ち。


あぁ、春が来る。


私はこの、春の気配と明日の快晴を思わせるふわふわとした夜の空気が好きだ。大きな安心と、何かが始まるような少しの不安。

「始まりの気配」を感じやすいのはいつも春、そして決まって夜だ。
しんとした今日という終わりの隙間から、新しい明日の予感がする。


明日はどんな日になるだろう。
これから来る春は、どんな春になるだろう。
そんなことを考えながら、ひらりと舞うように歩く夜の散歩道は、いつもの夜よりもなんとなく贅沢で特別な瞬間に思えるのだ。

春が来る。
新しい明日がまた始まる。

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