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#マーク・フィッシャー
憑在論と幻想文学 アーサー・マッケン篇
まえがき何度も当note/当資料室内で述べてきたことだが、日本の憑在論と音楽の接続は、ほぼすべてマーク・フィッシャーと彼がウォーリック大学在籍時代に所属したサイバネティック文化研究ユニット経由の資本主義リアリズムが入り口になっている。それは(生活圏内に大学、クラブ、程度の差はあれど文化的な施設があるような)都市生活者のサイクルが孕む矛盾を呪い、反面その永劫的な再生産から抜け出せないという前提を受
パストラル憑在論 Andrew ChalkとRobert Haighについて
『MUSIC + GHOST』で主に取り上げた英国のGhost Box Recordsは、本国の音楽ジャーナリズム内で憑在論(hauntology)の実例とみなされている。マーク・フィッシャーやサイモン・レイノルズが指摘した、失われた未来を幻視する方法論としてのサンプリング、過去を現在に召喚することへの執着という共通項で、Ghost BoxはBurialなどの作家と同じカテゴリに入れられていた。
もっとみるブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック③
記憶の中にある曖昧なイメージを、音とヴィジュアルにコピーするのではなく、置き換えることがGhost Boxの創造的ポリシーである。それは頭に描いた図と、実際におこしたそれが一致することを意味しない。自身の内面を延々とさまよい歩く過程の、ログのようなものかもしれない。こうした創造面は「自分たちのやっていることを完全に理解できる相手としかビジネスをしない」という理念の根拠となり、それは経営でも貫徹され
もっとみるブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック②
60年代の社会的な波瀾は、パリ、プラハ、西海岸、日本、もちろん英国にもその余波が到達した。69年までの時点でアフリカ大陸にある旧大英帝国の植民地はほぼ独立し、所謂エスタブリッシュメント(主に保守党政治家)に対する敬意めいたものが薄まっていたことは、当時人気を博したエンターテインメントの核が風刺であったことからもうかがえる。事実、63年に短期間放映されたテレビ番組『The Frost Report
もっとみるブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック①
https://note.com/embed/notes/n2abbc42d2ff
Ghost Boxのカタログやレーベルの周辺にいるアーティスト(たとえば「ビクトリア朝時代のゲーム・ミュージック」をシミュレートするMoon Wiring Club)が英国以外から生まれることは考えにくい。そこにはマーガレット・サッチャーが推し進めた新自由主義化の過程で失われた古き英国の風景があるからだ。頭の中に
Ghost Box的憑在論・Radiophonic Workshopから英国地下音楽まで
マーク・フィッシャーが2014年に上梓した『わが人生の幽霊たち――うつ病、憑在論、失われた未来』によって、憑在論(Hauntology)の名は音楽ジャーナリズム内に広く伝播した、という前提で話を進める。憑在論とはジャック・デリダが提唱した概念で、大雑把に言えば「すでにないもの」と「いまだ起こっていないもの」、過去と未来という不在のつがいが、現在に幽霊のような普遍性を放つ状態を説明したものである。フ
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