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資料(Esoteric & punk)

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主に(ポスト)パンク、ヨーロッパ的秘教音楽。忍冬資料室 https://atochietebura.com/DATA/esotericindex.html の転載。
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#憑在論

憑在論と幻想文学 永井荷風からあがた森魚まで(ラフ)

憑在論と幻想文学 永井荷風からあがた森魚まで(ラフ)

『FEECO』Vol.5 (2月発売予定)には昨年の研究の進捗を報告するページがあり、そこではパストラル憑在論の日本版について思索している。単に思いついたことを書いているだけといえばそうなのだが、先出し的にこちらにも書いておく。一つの文章としてはまだ完成させていないので、あらかじめそのつもりで。「パストラル憑在論」などの語はこちらの記事を事前に読んでいただければ。

パストラル憑在論の源泉の一つが

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憑在論と幻想文学 アーサー・マッケン篇

憑在論と幻想文学 アーサー・マッケン篇


まえがき何度も当note/当資料室内で述べてきたことだが、日本の憑在論と音楽の接続は、ほぼすべてマーク・フィッシャーと彼がウォーリック大学在籍時代に所属したサイバネティック文化研究ユニット経由の資本主義リアリズムが入り口になっている。それは(生活圏内に大学、クラブ、程度の差はあれど文化的な施設があるような)都市生活者のサイクルが孕む矛盾を呪い、反面その永劫的な再生産から抜け出せないという前提を受

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エルフの子供たち~サイケデリックとJ.R.R.トールキン

エルフの子供たち~サイケデリックとJ.R.R.トールキン

『ユリイカ』2023年11月臨時増刊号「総特集=J.R.R.トールキン」購入に伴い、同誌1992年7月号のトールキン特集号を棚から引っ張り出して併読している。前者は今日ならではの視点(木澤佐登志『トールキンを読むシリコンバレー』、井辻朱美『ファンタジーの祖型はなぜトールキンなのか』など)もあるが、新しい視点が得られるというよりは、見え方が変わるといった方が正しいか。古典だけに時代が持つモラルの変化

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パストラル憑在論 Andrew ChalkとRobert Haighについて

パストラル憑在論 Andrew ChalkとRobert Haighについて

 『MUSIC + GHOST』で主に取り上げた英国のGhost Box Recordsは、本国の音楽ジャーナリズム内で憑在論(hauntology)の実例とみなされている。マーク・フィッシャーやサイモン・レイノルズが指摘した、失われた未来を幻視する方法論としてのサンプリング、過去を現在に召喚することへの執着という共通項で、Ghost BoxはBurialなどの作家と同じカテゴリに入れられていた。

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Music Is Myth : The Incredible String BandとBoards Of Canada

Music Is Myth : The Incredible String BandとBoards Of Canada

来月発行予定の『MUSIC + GHOST』には、The Incredible String Bandによって分かれた二つの英国的ノスタルジアについて記述している。一つは将来のネオフォーク運動の呼び水となったCurrent 93のフォーク・ミュージック転向。もう一つがBoards of Canadaである。文章が長くなったせいで、当初の予定よりもチャプターを一つ増やすことにした。
今回は当該の文章

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英米フリーフォークの幽霊的地図

英米フリーフォークの幽霊的地図

 サイモン・レイノルズ『Retromania』のあるチャプター「Spectral Americana」冒頭で、著者は「音楽における憑在論は、当事者たちが生まれ育った国や世代ごとの特色を持つのではないか」と推測している。英国のHauntologist(憑在論者)は幼い頃の文化的な記憶を現代に召喚しようと試みており、Ghost Boxのようなテレビとラジオに夢中のインドア派が、当時の公共放送や奇妙なS

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ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック③

ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック③

記憶の中にある曖昧なイメージを、音とヴィジュアルにコピーするのではなく、置き換えることがGhost Boxの創造的ポリシーである。それは頭に描いた図と、実際におこしたそれが一致することを意味しない。自身の内面を延々とさまよい歩く過程の、ログのようなものかもしれない。こうした創造面は「自分たちのやっていることを完全に理解できる相手としかビジネスをしない」という理念の根拠となり、それは経営でも貫徹され

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Ghost Box的憑在論・Radiophonic Workshopから英国地下音楽まで

Ghost Box的憑在論・Radiophonic Workshopから英国地下音楽まで

マーク・フィッシャーが2014年に上梓した『わが人生の幽霊たち――うつ病、憑在論、失われた未来』によって、憑在論(Hauntology)の名は音楽ジャーナリズム内に広く伝播した、という前提で話を進める。憑在論とはジャック・デリダが提唱した概念で、大雑把に言えば「すでにないもの」と「いまだ起こっていないもの」、過去と未来という不在のつがいが、現在に幽霊のような普遍性を放つ状態を説明したものである。フ

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