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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第二章「槻の木の下で」 中編 22(了)

 —— 皇極天皇の治世4(645)年6月14日

 宝大王は、軽皇子に史上初の生前譲位を行った —— 孝徳天皇の誕生である。

 葛城皇子は立太子し、中大兄となった。

 軽大王は、安倍内麻呂と蘇我倉麻呂を大臣に指定した。

 中臣鎌子は、臣姓を賜り、中大兄の補佐兼監督役となった。

 —— 6月19日

 軽大王は、群臣を飛鳥寺の槻の木の下に集め、君臣の盟約を誓わせた。

 そこは嘗て、蘇我入鹿と鎌子が、国の未来を熱く語り、硬く握手を交わした場所であった。

 鎌子は、朗読される盟約文を聞きながら、大伴の兵たちが婢を引きずって行くのを眺めていた。

 これが、蘇我殿の望んだ世界なのだろうか?

 周囲の群臣は深く頭を下げた。

 鎌子も我に返り、頭を下げた。

 この日、初めて年号が定められた。

 —— 大化 —— である。

 さて、船史恵尺が蘇我家から持ち出した巻物は、厩戸皇子と蘇我馬子が編纂した歴史書『国記』の一部であった。

 恵尺は、それを中大兄に献上した。

 これが『日本書紀』の原型となる。

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