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P09_キャラクターとキャスティング │ 『東京彗星』オンラインパンフレット

「映画はキャスティングが命」、とは誰が言った言葉か忘れましたが、
とくに昨今の映画はほんとに出演者を観に行くものになりましたね。

テレビドラマが内容よりもまず役者のスケジュールをおさえる
という話も嘘かほんとかわかりませんが、
そういうこともあるんだろうと思います。

それくらい、キャスティングは大事です。

先行して知名度の高いキャストがいなかったにもかかわらず
大ヒット中のカメ止めはほんとにすごいです。

ワークショップで集まった俳優さんたちに
アテガキ(その人が演じることを前提として役を書くこと)
をして脚本を仕上げたそうで、
それがうまくいくとあんだけハマったキャラが
現実としてカメラの前にあらわれる
んですね。

前々回の記事で触れましたが、『東京彗星』では
謎のトラックドライバー役の榎本"CHAMP"光永さんのみアテガキですが、
あとは脚本を仕上げてからキャストを探していきました。

今回は主なキャストと
彼らが演じたキャラクターを紹介していきたいと思います。


大西利空さん(主人公・ショウ役)

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大西利空

もう、すっかり有名ですね。
ドラマ『シグナル』や映画『blank13』、CMなど
最近テレビを観ていて「あ、利空くんじゃん」と思うことも増えました。
このままどんどんいってくれー!

主人公・ショウ役を演じてくれた大西利空さんは、
なにを隠そう「子役」でググって見つけました。

ちょうどその頃、
彼が出演した『ぼくのおじさん』『金メダル男』が公開終了していて、
ソフトリリース前という時期だったので、
実際のお芝居を映像で確認することはできませんでした。

しかし、ネットにあった
『金メダル男』のメイキングインタビュー動画を見て、
感じるものがあり、オファーしました。
この動画ですね。

この動画を見て、「この人は、頭がいいぞ」と思ったのです。
つまり、脚本が読めるはずだ、と。

子役の芝居がときどき寒いのは、
文脈を無視して記号として泣く笑うをその場で演じているからです。

演じる人物がどんな気持ちなのか、
どういう流れでこういうセリフを言っているのか、
これを理解してないままのお芝居は寒いです。

僕の師匠の言葉ですが、

「いい脚本があれば、役者はどういう芝居をすればいいかわかる。 
 演技指導以前に、いい脚本を書く方が大事」

という考え方があります。

僕も、

「役者が輝いて見えるときは、脚本がいいとき。 
 作品が輝いて見えるときは、役者がいいとき」


という持論があるので、
『東京彗星』の脚本がそういういい脚本かどうかはおいといて、
脚本が読めれば、その脚本がちゃんと成立していれば、
この人には演じることができるはずだ、と
大西さんのインタビューを見て感じた頭のよさに賭けました。

いま思えばバクチですが、
大西さんはそのバクチに勝たせてくれました。

おかげさまで、アメリカのAction On Film映画祭と
Hollywood Dreamz国際映画祭という2つの映画祭で、
Best Young Performerにノミネートされました。

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惜しくも受賞は逃しましたが、
言葉を超えて大西利空さんの芝居が届いたということ、
とてもうれしく思います。

なぜ子供が主役なのかというと。

逆に大人だと実は「避難した岩手から家族を探しに東京へ戻る」という話は
短編において成立しない
のです。

大人なら、自分で避難します。
大人なら、危険を回避します。

「強制的に疎開させられる」という困難に、
「無茶して危険な東京に戻る」という立ち向かい方をする
という話を成立させるには、子供が主人公である必要がありました。

「東京へ戻る」という無茶をさせる動機が
「ひとりは嫌だ」という単純で強いものであること。

「一緒に生きよう」という兄への提案が無垢でまっすぐであること。

とにかく話を一直線に進めるには、子供の
"つべこべ言わずがむしゃらに人生をドライブさせる力"が必要でした。

そして、大西利空さんはそのようなまっすぐさ、無垢さを表現しつつも、
兄をハッとさせるほど、ものごとの本質を見ている感じも出して
見事に演じてくれました。

ありがとうございました。


篠田諒さん(ショウの兄・ソラ役)

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この映画はショウから見た世界です。
自暴自棄になり東京に残った兄ソラの心は、
最後までよくわかりません。

よくわからないけどそれでも助けたい、
一緒に生きたいというショウの思いが、
映画をドライブさせます。

いろんなことが重なって、
とにかく自暴自棄になってしまった、
でもベースは弟を思う優しい兄。

そんな兄ソラを演じてくれたのは、
篠田諒さんです。

兄役をどうしようか考えていたところに、
アソシエイト・プロデューサーをしてくれた千村利光さんが
「こいつはちゃんと芝居ができる」と太鼓判つき
紹介してくれました。

一度合って1シーン演じてもらったのですが、即決でした。
僕が思い浮かべてた以上にリアルなソラが、そこにいました。

兄・ソラは崩壊していく東京に残る役ですが、
劇中では動機やきっかけが明確に提示されません。

以前の記事でも書きましたが、
正しく言うと、明確な動機がないのです。

映画では一般的に、ちゃんと行動の動機を描くべし
という暗黙の掟があります。

「○○だから、●●している」
つまり、「失恋したから、海に叫ぶ」みたいなことです。

いろいろと日本の現状を調べたうえで
僕も脚本と絵コンテの段階では、
ソラが自暴自棄になる明確なきっかけをつくっていました。

それは身体的なものです。

貧困のなか肉体労働でなんとか生きていても、
肉体労働中の不意の事故などで
大きな怪我をしてしまうと、
この国ではあっというまに文字通り転落してしまいます

悪い職場だと労災はおりず、
怪我しているので新しい肉体労働もできない。
ギリギリで生きていたのに、
怪我がきっかけで若年ホームレスになってしまう例

多いそうです。

そのように、
ソラも足を怪我してひきづっている設定でした。
途中までは。

でもそれは違う、と考え直しました。

怪我のせいじゃない。
怪我はきっかけにすぎない。

人が自暴自棄になったり、希望をなくしたりするのに、
わかりやすいひとつの理由はない。

ずっとずっと我慢して耐えていたことが、
コップにたまる水が表面張力でギリギリこぼれないくらいで
とどまっていたような心が、
最後のほんの一滴で、溢れて崩れてしまう。

この東京においては特に、そういうことだろうと思いました。

「明確な理由がないけど、生きていく気がない」
この方がリアルだと、師匠もアドバイスしてくれました。

「理由がわかんない」という観客のツッコミは
想定通りたくさんいただきました。

描き方はもっといろいろあったかもと思いますが、
怪我や障害など、
なにかのせいにして短絡的に"その人を理解した気になる"ことは
避けられたと思います。

なにかに理由を求めてしまうと、
そこを解決すればいいじゃん、となってしまいます。


怪我がなおればいい、
金が手に入ればいい、
仕事を見つければいい。

現代の東京を覆う謎の希望がない感じは、
そういうことじゃないと思います。

怪我してるから、障害があるから、じゃない。

死にたい理由が"ある"んじゃなくて、
生きたい理由が"ない"のです。

苦しいときに頼れる人がい"ない"。
明日もがんばろうと思える気持ちが"ない"。

"ない"ことを描くのは、映画は不得意です。
"ある"ものを映すことが、映画の主な表現手法なので。

だから気をぬくとなにかを映してそのせいにしたくなるのですが、
今回ばかりはその、心のよりどころが"ない"という不在の表現を、
篠田さんの芝居だけに頼りました。

彼は見事にその感じを演じきってくれました。
ありがとうございます。

その他の役は、ギルドの太田あやさんが
キャスティングしてくれました。


藤田信さん(疎開担当のおじさん役)

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ショウが岩手に疎開する際の引率係の人の役は、藤田信さんです。
この役はおそらく行政の人、東京都職員です。
児童を引率してそのまま疎開施設に避難して生活することになります。

「東京に彗星が落ちる」という事態に、
なにか役に立とうとはりきって働いています。

明るい雰囲気で子供たちを不安にさせないようにしていますが、
それがショウにとっては
「あんまし僕の気持ち考えてくれてないな」という具合に
逆に余計に不安や孤独を煽る感じになってしまいます。

集団を仕切ろうとするとこのように
大人はちょっと繊細さにかけるコミュニケーションをとってしまう
よなぁ
ということを以前から思っていたので、
藤田さんにはその感じが出るように演じてもらいました。

疎開先でショウと同じ部屋にやってくるレオくんを紹介するシーンも、
「仲良くしてね」と、やや雑な対応。

担当のおじさんに罪はありませんが、
子供の心に渦巻く不安な気持ちを、大人は見逃しがち
ということを表現することにおいて、
藤田さんの芝居には助けられました。

ありがとうございます。


橋本匠海さん(レオくん役)

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疎開先のショウの部屋に後からやってきた少年、レオくんの役は
橋本匠海さんに演じてもらいました。

レオくんはややお金持ちのおうちの子です。
ハワイ旅行には行けるくらいの世帯収入、
だから疎開カバンのひとつはハワイのWhole Foodsです。

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しかし家財道具の整理運搬をもたもたしていたので避難が送れ、
ついに治安が悪化した東京で放火にあい、家族を亡くしてしまいます。

生気をなくしたレオくんに、
自分も唯一の家族である兄を失う恐怖が湧き上がり、
それがショウを東京へのヒッチハイクへ走らせます。

「いまは、友達になる元気がありません」
という閉じた態度であるレオくんのお芝居は
短いシーンですが、大事なシーンです。

橋本匠海さんが、抑えた演技でやりきってくれました。
ありがとうございます。


藤夏子さん(銭湯のおばあちゃん役)

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ショウたちが立ち寄る銭湯のおばあちゃん役。
彼女は戦争経験者で、夫もすでに亡くなっています。

東京から人々が避難していなくなっていくなか、
自分は東京に残って、誰も来なくても最後まで店を開けて、
東京と一緒に死のうと思っている女性
です。

彼女にとって、"疎開"という言葉は戦時中を思い出させます。
幼い頃、彼女も疎開していました。

「疎開は、コリゴリなんだよ」というひとことで
覚悟を決めた女性の感じを出してもらいました。
ありがとうございます。


武田一馬さん(不良①役)

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岩手から東京へヒッチハイクするショウに絡む不良の役は、
武田一馬さんが演じてくれました。

不良役のキャラクターモデルは
「幽遊白書」の3巻で桑原の愛猫・永吉をさらった不良です。

あいつも見た目は真面目な感じなのに
鬼にあやつられて不良を束ねていた感じが、
印象に残っていました。

この「不良にからまれる」というシーン、
日本の映画やドラマでよくあるのですが、
どうもしょぼいシーンになっていることが多いなと
ずっと思っていました。

わかりやすく金髪で、ジャージで、
「わたし不良でーす!」という大げさな芝居。

監督の演出なのか。役者がかわいそうです。
いつの時代の不良なんでしょうか。

不良にからまれる怖さ「あ、やばい」っていう感じが
微塵もないシーンばかりです。

だから、不良役は不良不良していない人にしようと思いました。

ガルフィーのジャージとか着てるわかりやすい人が
大げさな芝居をするんじゃ、冷める。

普通に見える優しそうな青年が、
非常事態にのっかって東京へ悪さしに向かう。

途中で見つけた子供に、自分より弱い相手だから絡む。

そういう痛々しさや嫌な奴感を出したいと思ったので、
わかりやすいオラつき系俳優ではなく、
武田一馬さんに演じてもらいました。

武田さんは実際に空手の実力者なので、
ガチ喧嘩最強のチャンプさんにぶっとばされるシーンも
安心でした。

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実際の武田さんは優しい好青年なので、
そんな感じの人が弱いもの相手にいきがって、
さらに強いやつにボコられる、
というシーンがうまくできたと思います。

ありがとうございます。


西村涼太郎さん(不良②役)

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正確に言うと"半不良"です。

このシーンではほんとに悪いやつは
彗星にのっかって東京で悪さをしようとした
ドライバーの男です。車から出ても来ませんが。

西村さんに演じてもらった役は、
ただ友達に誘われて東京へ行こうとした悪気のない男です。

だから最初にショウに話しかけるとき
「彗星見に行くの?」と
ただただ素朴なことを言います。

友達である武田一馬さん演じる不良がショウにからんでも、
「あんまいじめんなよ」と、
止めるでも参加するでもなく、
ただのっかっています。

武田一馬さん演じる不良①がぶっとばされると、
早々に撤収してその場をおさめようとします。

どっちかというと、わりといいやつなのです。

なんか不良とつるんでるけど、悪いやつじゃない。
かといって、わるいことをやめさせようとするほど
正義感があるわけでもない。

不良じゃないのに不良に呼ばれてつるんでるけど、
不良ぶってるわけでも不良になりたいわけでもない。
学級委員方向でもない。

こういう人、クラスにいませんでしたか。

ハンサム好青年だけどガッチリしている西村涼太郎さんが、
適任でした。

ワルめな雰囲気なのにいいひと感もある
絶妙な感じを出してくれました。
ありがとうございます。


植村喜八郎さん(???)

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この役は…ネタバレになるので多くを語れません!

しかし植村さん、さすがのベテランです。
セリフのひとつひとつから、広がりと重ねた時を感じる芝居で、
あのシーンの味わいをつくってくれました。

ありがとうございます。

詳しくはVimeoとU-NEXTにて全編配信中の本編でお確かめください。

その他にも、
バスで疎開する子どもたち、
ヒッチハイクする親子、
老人ホームに身を寄せる人たちなど、
モブシーンでもたくさんの方に出演していただきました。

キャストクレジットを記載します。
みなさんありがとうございました!


〈キャスト〉
大西 利空
篠田 諒
榎本"CHAMP"光永

藤田 信/橋本 匠海/藤 夏子
武田 一馬/西村 涼太郎
Yeo Hee/Mar.na/楠野 功太郎

石田 浩子 / 西村 真二 / 谷部 央年
さえば とむ
中山 さおり / 大矢 晃弘

船木 七海
山口 綾子 / 大渕 民雄
坪坂 美葉 / 蕪木 虎太郎
加納 友葉 / 静野 耀 / 杉本 光

松尾 有香 / 松尾 衣真 / 松尾 羽珠

大岡 俊彦 / 水落 豊 / 廣岡 わかな / 畔柳 惠輔
西井 舞 / 金澤 善風
上田 祐也 / 清水 泰平 / 加瀬 博康
中川 慧 / 森 沙織 / 金田 唯里 / 貝谷 理穂
未来 / 和田 敏子 / 中村 悦子 / 山岸 輝代
西村 昌志 / 西村 雪 / 山根 正雄 / 山根 正雄
田野 久雄 / 高山 宗久 / 菊池 清 / 高橋 義徳
鈴木 恒治 / 野辺 勝宏 / 野辺 真美子
川辺 剛士 / 大道寺 勇人

植村 喜八郎

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