「あとがき、そして謝辞」(『香港の男 The Man from Hong kong』2019年より)

「あとがき、そして謝辞」

 あとがきとして、僕がこの「香港の男」を書くに至った経緯と、そしてそれに関わり大いなる手助けをしてくださった方々への謝辞をここに記したいと思います。

 二〇一八年が終わろうとしている辺りから、僕は「自動記述(オートマティスム)」という表現方法に麻薬的にはまり込み、しばらく実験のつもりで書くことをつづけていたのですが、翌年二〇一九年の二月の初めに急用ができ、近畿方面へと一週間ほどの旅に出ることとなりました。久しぶりの旅であり、それまで部屋に籠もりきって、ひたすら「自動記述」で以って書くことに向き合っていた僕にとってこの旅は一種の大きな、そして激しい気分転換ともなりました。

 近畿二府二県を点々と巡る旅は、旅自体が久しかった僕の体力と精神にはある程度の負担となりましたが、親友たち知人たちとの再会や新たなひととの出会い、様々な体験や発見を得られたという点において、かけがえのない旅となりました。なにせ、この旅のおかげで「香港の男」が誕生したのです。

 まず大阪を訪れた際に、昔大阪で暮らした頃、馴染みのあったところを数軒回りました。中には大阪を離れる時に別れの言葉を告げずに去ったところもあり、そういったところへはある種の「謝罪」と近況報告に向かったわけです。その内の一つが東心斎橋のヨーロッパ通りにあるアイリッシュパブでした。よく見知ったバーテンダーのブラジリアンは健在で僕が訪ねた時も幸いカウンターに立っていました。同じく親しかったフランス人の店長とも話したかったのですが、その日は残念ながら不在で会うことはかないませんでした。

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