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ゲゼモパウム 第四話

A 

「二等兵、オアシスに井戸があるぞ!」玉置伍長は言った。
 彼は重要なことに気付いていた。そのため、私に用件を伝えると、どうしても気が気でないみたいにあたふたしはじめた。井戸は深さ30m以上あった。まるで時代に取り残されたように青いカビが生えていた。ちょうど、私がオアシスで喉の渇きを癒やしていた時だ。湧いていた水を水筒に入れた。私は上官に敬礼すると言った。
「上官殿、それは本当でありますか?」
「ああ。井戸からレーダー探知機に反応がある」
「む! これは!」
 私は興奮していた。先ほど述べたように、オアシスの下に深い井戸があるのを示唆した。
「下に入ってみる必要がある」兵長は決断した。
「ゲゼモパウムは砂漠の中にいるのではないのですか?」
「分からん」兵長は言った。「しかし、砂漠に存在していると思い込んでいるのは私たちの幻想だった。と、考えることもできるではないか?」
 私は仲間たちに強い意思が感じられたことが嬉しかった。あるいは彼らも同じ考えだったに違いない――砂漠の未開地で見せる彼らの力強い顔は不安で落ち潰されそうな気持ちを変えた。私たち調査団は薄い生地の軍服に着替えると、ゲゼモパウムが一体どのような生態系をしているのか調査に乗り出す必要があった。命綱を使うことにした。太くて持ち運びが可能だった。私を先頭に、一等兵、上等兵、伍長、兵長の順に降りて行った。何としても、ゲゼモパウムの尻尾を掴まなければという想いが、私たちにはあった。順繰りに井戸の底を降りていくと、独特の臭いを放つ空間に足を踏み入れた。
「上官殿、確かにここから異様な臭いがします」
「気にするな二等兵、行くぞ」
「!?」
「ここから声がします」
 私たちは井戸の下の空間、何もない空間に立ち眩みがするほどの異様な感覚を覚えた。そして地下通路を歩いた。だが、そこには奇妙な生き物が生息している訳ではないし、普通の井戸と勝手が違っている訳でもない。大量の鼠が颯爽と横切る気配はしたが、蜘蛛が糸を張っている他は、特に変わった所は見当たらない。私は司令官の命ずるままに、ゲゼモパウムの調査にやってきた。けれども、真っ暗な上に乾燥したこの地に一種の嫌悪感を覚えた。とはいえ、確かにここから何かしらの気配した。
「上官殿、ここにゲゼモパウムがいたら、スペースフォックの使用を許可して頂けないでしょうか?」
「もちろんだ」兵長は真剣な表情で言った。「スペースフォックで一気にゲゼモパウムを捕獲するためにここまできたではないか」

 ――スペースフォックというのはNASAで開発された対ゲゼモパウム用の捕獲機だ。まるで掃除機みたいな形をしているのだが、機敏性が良い上にコンパクトで使い勝手が良かった。吸収能力があり、ポンプのように底にたまるのも魅力だ。つまり、女、子どもでも簡単に持ち運びが可能なのだ。

「ここからが正念場だ」なぜか兵長はゲゼモパウムがここに生息していて、私たちの命運は全て彼らにかかっているとばかりに宣言すると、声を張り上げた。「ゲゼモパウムがどのような姿形をしても怯む必要はない! なぜなら、ここにやってきた時点で私たちには命をかける覚悟はあるからだ!」
「絶対にこの任務を遂行致します!」と私は叫んだ。そして上官に敬礼した。
「私も同じ考えであります!」
「心を燃やします」――最早、上等兵にゲームオタクの陰はどこにもない。ただ、そこに仲間を信頼して任務を遂行するという信念だけが感じられた。   私たちを警護するように率先して歩く彼は命が尽きても構わない、強い決意があった。「こんな浮世離れした話を真面目に聞いてくれる人なんてこの世に存在しないのかもしれない。でも。」
「でも?」兵長は訊ねた。
「私、藤崎上等兵はこれ以上、逃げてばかりの人生ではいけないのであります!」
「そうだ!」兵長は呟いた。
「私も同じ意見だ」玉置伍長は言った。「私たちがこのような地に来た理由は一つだけだ」――そして言葉を捻り出すように続けて、言った。「それは私たちを馬鹿にする奴らを見返すためだ!」
 伍長は信念によって、初めて人間として機能する。そう思った時に彼は静かに闘志を燃やしていた。

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