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<何でも歌いこなすボーカリスト「阿部サダヲ」の可能性>映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』を見て聞いて感じたこと

※2019年1月22日に掲載された音楽文です。いろいろ訂正したい箇所はあるにせよ、あえてそのまま転載します。

去年6月のことだった。長年HYDEファンを続けている私は、ある映画にHYDEが作曲した楽曲が主題歌として、提供されることを知った。
それだけで十分楽しみだった。
けれど、さらにうれしいことに、その曲をその映画の主演を務める阿部サダヲが歌うと書いてあるのだ。
実はHYDEファンであると同時に阿部サダヲのファンでもある私は、さらに喜んだ。
秋に公開されるという『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』を楽しみに待った。

映画公開に先駆けて、主題歌と挿入歌が動画で配信され始めると私はたちまちその音楽の世界観に圧倒された。
HYDE作曲の主題歌を声帯ドーピングによって驚異的な歌声を持つ主人公シンになりきった阿部サダヲが圧倒的な歌唱力で見事に歌いきっていた。
マリリン・マンソンを彷彿させるヴィジュアルのシンに見事にハマるこれぞロックと言える「人類滅亡の歓び」。
後にHYDEが自身のシングル「FAKE DIVINE」のカップリングとして歌詞を変えて「監獄ROCK」と曲名を改め、セルフカバーしている。

阿部サダヲはバンドグループ魂のボーカル破壊として、何年も音楽活動をしており、歌が上手いことは既知であったが、グループ魂はパンク色が強いため、まさかこんなに本格的なロックも歌いこなせるとは驚愕だった。
しかも役柄は声帯ドーピングによって得た歌声という設定になっている。そんな難しい役柄なのに、素で歌っているからさらにすごい。
私はこの曲で俳優ではなく、歌手阿部サダヲとしての可能性がさらに高まったと実感した。

挿入歌の方はあいみょん作詞作曲「体の芯からまだ燃えているんだ」。
主題歌もさることながら、こちらの楽曲も素晴らしい。
最初は主題歌目当てだったのに、いつの間にか同じくらい、いやそれ以上に好きになってしまった。
映画でヒロインを務めている吉岡里帆がソロでも歌っているが、阿部サダヲとのデュエットバージョンも存在する。
阿部サダヲのファンとしては阿部サダヲのソロバージョンも聞きたいくらいである。
歌詞は映画のストーリーに当てて書かれており、世界観が見事に一致する。
曲はキャッチ―で一度聞いたら、覚えて歌いたくなる。
私はこの曲を車の中で聞きながら、ドライブすることにハマったくらいだ。

映画が大ヒットとまでは言えなかったため、テレビでこの曲が披露されたのは、たった一度きりのことだった。それでもデュエットバージョンを披露した二人の歌唱力は圧巻で、映画がもう少しヒットすれば、こんなに素敵な曲なのだから、様々な番組で披露されたのになと少しだけ悔しさも残った。

もちろん私はこの映画を見に行った。見に行く前は、まだ公開されたばかりだから、しばらくは大丈夫だろうと悠長に構えていた。音楽を聞くだけなら、動画と先に購入したサントラCDで十分だったから、慌てなかったというのもある。
映画の内容ではなく、むしろ映画の音楽の方に興味があったから、実は曲を聞けていれば欲求は満たされていた。
けれど阿部サダヲのファンとしては、映画をスルーすることもできない。
地元の映画館で公開最終日という日に慌てて駆け込んだ。

ちゃんと行って見て良かったと思った。
「人類滅亡の歓び」はイメージ通り、ロック中のロックだったし、「体の芯からまだ燃えているんだ」はイメージが少しだけ変わったから。
映画を最後まで見るとただの明るい曲ではないことがよく分かる。

<血の味混じりで 歌を歌っている あの日歌ったあの日うまれたロックを>(「体の芯からまだ燃えているんだ」より)

大袈裟だなと思っていた。

<言葉は死なない 歌い続けるさ ロックンロールに終わりはない>
(「体の芯からまだ燃えているんだ」より)

暑苦しい青春だなと思っていた。

でも違った。
映画を最後まで見たら、なんてせつない歌詞なんだろうと、明るい曲調からはまるで想像できない、感傷的な気持ちにもなった。
それは俳優阿部サダヲの演技力と歌手阿部サダヲの歌唱力の凄みに他ならない。

劇中ではクラシックの王道である「アヴェ・マリア」も阿部サダヲ本人の美しいファルセットで披露されている。サントラCDにも収録されている。
プロのオペラ歌手が吹き替えたのかと思っていたら、阿部サダヲ本人が歌っていると知って、仰天した。

阿部サダヲはどうやらオペラもいけるらしい。ロックもポップもクラシックも歌えるなんて、幅が広すぎる声帯だ。
まさに声帯ドーピング役はうってつけというわけだ。そもそもこの映画の脚本は阿部サダヲで当て書きされたという。阿部サダヲでしか成し得ない演技力と歌唱力であり、阿部サダヲがいなければ存在しない映画だったのかもしれない。

だからギリギリでも映画を見に行って良かったと思った。正確には見たというよりは音楽を聞きに行ったという表現の方が正しいかもしれない。
見に行く前に映画の口コミをネットで見ていて、ものすごい速さでカメラのアングルが変わるから酔う場合があるという情報を知っていたから、三半規管の弱い私は心して備えていた。
すべてのシーンが酔うわけではないから、酔いそうなシーンの時は音楽だけを聞いていた。
それでもストーリーはちゃんと理解できた。
映画を楽しめたし、使用された楽曲の理解を深めることができた。

2019年3月にはDVDが発売される。
劇場で見逃した人は是非見てみてほしいし、聞いてみてほしい。
最近は『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットで映画と音楽の親和性を実感することも多いが、他にも注目すべき映画と音楽があると知ってほしくて、『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』から歌手としての阿部サダヲを考察してみた。

私に阿部サダヲの存在を教えてくれたのは同じくHYDEファンであった友人だ。HYDEのおかげで、彼女と知り合い、彼女のおかげで阿部サダヲの存在を知った。誰かを好きになるとそこから好きなものが増えていくから楽しい。
好きな音楽を増やすことができるからうれしい。
今回の映画のおかげであいみょんの存在も知ったし、興味を持てた。
好きの連鎖はまだ続いているのかもしれない。

その友人は今や熱烈なHYDEファンではなくなっていたけれど、阿部サダヲのファンは続けているから、映画を見に行ったという。そこで妙に心に響く曲をみつけてしまったと久しぶりに連絡が来たのだ。
HYDE作曲という予備知識がないのに、阿部サダヲが歌う「人類滅亡の歓び」が気に入ったという話だった。後から調べたらHYDE作曲と知って、こんな偶然ってあるのかなと、しばらく疎遠だったけれど、好きな音楽は耳が忘れていないんだねと久しぶりにテンションの高いメールのやりとりをすることができて、私たちは、はしゃいだ。去年の秋の楽しい思い出だ。

今年は大河ドラマで忙しいのかもしれないが、これからもまだまだ秘めた可能性を持ち合わせていそうなボーカリスト阿部サダヲに注目していこうと思う。

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