読解力2

「子どもの作文」からの脱皮法

読解力を鍛えるには「書く」しかない(6)

連載で繰り返してきた通り、「お父さん問題」の狙いは、子どもの作文から大人の文章へ脱皮する「型」を身につけることです。
今回は連載(4)でとりあげたインターネットに関する問題の解答と添削をご紹介します。この回の続きです。

「子どもの作文」をどうやって脱皮させるか。
実はこれはそんなに難しいことでありません。大事なのは「上手くなくても良いので型通りに」という目標の低さです。
まずは問題文を振り返っておきます。

インターネットが普及して20年以上経ちました。以下の問いに答えなさい。問1 インターネットが本やテレビと比べてより便利な点は何ですか。5行でまとめなさい。
問2 インターネットが無かったときと今の生活はどのように変わりましたか。
問3 インターネットやスマホのいい点、悪い点をそれぞれ具体的に挙げて合計20行程度にまとめなさい。インターネットやスマホのいい点、悪い点をそれぞれ具体的に挙げて合計20行程度にまとめなさい。

問3に対する次女の初稿がこちら。

インターネットやスマホのいい点は、LINEやメッセージで、すぐ友達や家族と連絡を取ったり、写真やビデオを離れていても見せたりすることができることである。例えば、インターネットが無い場合は旅行先で撮った写真を一枚一枚カメラで見ながら選んで、現像して、郵送する。だが、スマホでは、選択のボタンを押せば、一気に選ぶことができるし、選んでいる最中に、ぶれているものなどを削除することもできる。選んだあとは、発信のボタンを押せば、相手に届く。それに、スマホの中で写真をダウンロードすれば、もう一度現像しなくても、他の人から渡された写真を、違う人に見せることも、ボタンを押すだけでできる。
悪い点は、相手の表情が見えないため、誤解されてしまうことだ。例としては、先ほど良い例で挙げたLINEやメッセージがそうだろう。画面上に映る文字だけでは、相手が本気で言っているのか、それとも冗談で言っているのかがわからない。よく、これは冗談だよ、と示すために、(笑)や語尾に「~」をつけたりしているが、それでも伝わらない時もあるため、直接話すより誤解されやすいと言えるだろう。二つ目は、自分の個人情報が気を付けていても、思わぬところから、漏れてしまうことだ。例えば、自分の家の前で撮った写真にお店の看板が映っていて、住所がわかってしまったりすることだ。それに、インターネットがもし、なかったとしたら、住所が誰かにばれたとしてもあまり大問題にはならないが、インターネットがあると、拡散するスピードがけた違いに速くなるため、大問題になってしまうのだ。

おまけ
早くスマホ欲しい(>_<)

子どもらしい、うねるような「悪文」です。今、読み返してもニヤニヤしてしまいます。「おまけ」はご愛敬。
ちなみに高井家は「受験で都立中高一貫校に受かったらスマホを買ってもらえる」という分かりやすい「エサ」で三姉妹を釣って大成功しました(笑)

閑話休題。この解答も「子どもっぽい表現は禁止」という無味乾燥な方針でひとまずリライトをさせました。第2稿はこちら。

インターネットやスマホのいい点は、なかったときよりも、便利になったことだろう。例えば、LINEやメッセージで、すぐ友達や家族と連絡を取ることができることがそうだ。仕事や学校から帰ってくるときに遅くなりそうな場合などは、すぐ連絡できるため、家の人が余計に心配しないですむし、逆に、家にいる人が、外に出ている人に、何かを頼むことなどもできる。特に、仕事などでは、インターネットがないと、やっていけない会社もあるだろう。
悪い点は、相手の表情が見えないため、誤解されてしまうことだ。例としては、先ほど良い例で挙げたLINEやメッセージがそうだろう。画面上に映る文字だけでは、相手が本気で言っているのか、それとも冗談で言っているのかが、直接話すよりわかりにくいため、誤解されやすいと言えるだろう。二つ目は、自分の個人情報が、気を付けていても、思わぬところから、漏れてしまうことだ。例えば、自分の家の前で撮った写真にお店の看板が映っていて、住所がわかってしまったりすることだ。それに、インターネットがもし、なかったとしたら、住所が誰かにばれたとしてもあまり大問題にはならないが、インターネットがあると、拡散するスピードがけた違いに速くなるため、大問題になってしまうのだ。
おまけ
早くスマホ欲しい(>_<)

前半、後半とも、少しだけ大人が書きそうな文章に近づいているのがお分かりでしょう。
リライト前に私が出した具体的な指示は、
①「話し言葉」は使わない
重複やくどい部分はすべて削る
「本や教科書で読んだことがあるような文章」で書く
という3点です。

「話し言葉」「ダブり」「列挙」を避ける

いったん初稿に戻って、これらの方法の実践例を挙げてみましょう。
リライトで丸々落ちている部分も含めて「大人の書き言葉」を併記していきます。

①写真やビデオを離れていても見せたりすることができることである。
 →写真などを離れた人とも共有できる。
②インターネットが無い場合は旅行先で撮った写真を一枚一枚カメラで見ながら選んで、現像して、郵送する。だが、スマホでは、選択のボタンを押せば、一気に選ぶことができるし、選んでいる最中に、ぶれているものなどを削除することもできる。選んだあとは、発信のボタンを押せば、相手に届く。それに、スマホの中で写真をダウンロードすれば、もう一度現像しなくても、他の人から渡された写真を、違う人に見せることも、ボタンを押すだけでできる。
 →インターネットがない場合、現像した写真は旅行先などから郵送しなければならない。スマホなら、写真を画面で選び、相手に送信するだけで済む。それを受け取った人は、別の人とも同じようにネット経由で共有できる。
③例としては、先ほど良い例で挙げたLINEやメッセージがそうだろう。
 →先ほど挙げたLINEなどが典型例だろう。
④よく、これは冗談だよ、と示すために、(笑)や語尾に「~」をつけたりしているが、
 →「これは冗談だ」という意味で「(笑)」などと末尾につけるが、
⑤それに、インターネットがもし、なかったとしたら、住所が誰かにばれたとしてもあまり大問題にはならないが、インターネットがあると、拡散するスピードがけた違いに速くなるため、大問題になってしまうのだ。
 →もしインターネットがなければ住所が外部に漏れたとしても問題になりにくい。ネット時代は拡散スピードがけた違いなため大問題になってしまう。

太字は「どこかで読んだような無味乾燥な文章」になっているのがお判りでしょう。このリライトは一定の作法を身に付ければ、それほど難しい作業ではありません。
順に見ていきます。

①写真やビデオを離れていても見せたりすることができることである。
 →写真などを離れた人とも共有できる。

この元の文章は「悪文」の典型例としてよく挙げられる、「~することができる」というパターンです。「見せたりすることができることである」と、ご丁寧に「こと」を2回も重ねています。

動詞を名詞化したうえで「できる」としてしまうのは、大人でもうっかりやりがちな冗長な書き方です。例えば「書くことができる」なら、単に「書ける」とすれば良い。書き換えでは「見せたりすることができる」を「共有できる」という言葉に置き換えました。
文章全体も6割ほど減量しています。「言わずもがな」の部分をコンパクトにするのは「大人の文章」の要諦です。ノイズを減らせば、「言いたいこと」にまっすぐと読者を導けます。

②インターネットが無い場合は旅行先で撮った写真を一枚一枚カメラで見ながら選んで、現像して、郵送する。だが、スマホでは、選択のボタンを押せば、一気に選ぶことができるし、選んでいる最中に、ぶれているものなどを削除することもできる。選んだあとは、発信のボタンを押せば、相手に届く。それに、スマホの中で写真をダウンロードすれば、もう一度現像しなくても、他の人から渡された写真を、違う人に見せることも、ボタンを押すだけでできる。
→インターネットがない場合、現像した写真は旅行先などから郵送しなければならない。スマホなら、写真を画面で選んで送信するだけで済む。受け取った人は、別の人とも同じようにネット経由で共有できる。

②には、「悪文の素」が詰まっています。良い題材なので詳しく見ていきます。

まず「ダブり型・説明過多型」。こんな短い文章で5階も「選ぶ」「選択」という言葉が出てきます。直した文章では1つになっています。
読点「、」の多様もよくある悪文です。「型」が身に着くまでは「読点は一文に2つまで」が大原則です。
削った部分、削り方を見ていきましょう。

インターネットが無い場合は旅行先で撮った写真を一枚一枚カメラで見ながら選んで、現像して、郵送する。
 →インターネットがない場合、現像した写真は旅行先などから郵送しなければならない

書き手(三女)は、一覧画面で簡単に写真が選べるスマホとの対比を意識して、「デジカメは面倒くさい」と説明したくなったのでしょう。三女はひところ、家族旅行でデジカメをよく使っていたので、その体験がにじんでいます。しかし、これは「インターネットの利便性」とは別問題です。

「写真を現像して、旅行先などから郵送しなければならない」と直すだけでも悪くはないでしょうが、ここで少々、小技をシェアします。
動詞が続くのは読みにくいものです。2つならそれほどでもありませんが、これがたとえば「写真を選んで現像して郵送する」と動詞3連発になるとかなり不格好です。
こうした場合は、名詞の前に動詞を1つもってくる、文法で言えば連体形にするとスッキリします。添削上、必須ではありません。あくまでご参考。
なお、この文章はデジカメを想定しているでしょうから、「現像」よりは「印刷」か「プリントアウト」の方が適切かもしれません。

スマホでは、選択のボタンを押せば、一気に選ぶことができるし、選んでいる最中に、ぶれているものなどを削除することもできる。選んだあとは、発信のボタンを押せば、相手に届く。
 →スマホなら、写真を画面で選んで送信するだけで済む。

この部分は見た目以上に根深い悪文です。
「選択」「選ぶ」が4つ出てくる時点で冗長さは明らかです。
さらに曲者は「最中に」です。この一語があると、読み手は「時制」を意識してしまいます。意識に上るのはほんの一瞬でしょうが、「最中」があるなら、「事前」と「事後」もあるだろう、連想してしまう。
実際にはこの一語には全く意味がないのに、文章の流れから注意がそれます。
「することもできる」がまた登場しています。

ここでもう1つ、テクニックをご紹介します。添削例を再掲します。

インターネットがない場合、現像した写真は旅行先などから郵送しなければならないスマホなら、写真を画面で選んで送信するだけで済む。

1文目を「しなければならない」、2文目を「~だけで済む」と締めてあります。こうして「制限・不便性」と「利便性」のペアを組ませると、前者と後者の繋がりとコントラストが強まって説得力が上がります。記事や論述文だけでなく、商品の宣伝文句などでも使われる書き方です。
これも「お父さん問題」の添削で必須なわけではありません。プロの小技です。通常はこんな書き方で十分でしょう。

インターネットがない場合、現像した写真は旅行先などから郵送する。スマホなら、写真を画面で選べば相手に送信できる。

最後の一文も説明過多で、手直しが必要です。

それに、スマホの中で写真をダウンロードすれば、もう一度現像しなくても、他の人から渡された写真を、違う人に見せることも、ボタンを押すだけでできる。
 →受け取った人は、別の人とも同じようにネット経由で共有できる。

説明過多の部分は「ネット経由で共有できる」とまとめてしまって問題ないのはおわかりでしょう。
「それに」という書き出しは、話し言葉的で、不要でもあるので「お父さん問題では削り対象です。

③例としては、先ほど良い例で挙げたLINEやメッセージがそうだろう。
 →先ほど挙げたLINEなどが典型例だろう。
④よく、これは冗談だよ、と示すために、(笑)や語尾に「~」をつけたりしているが、
 →「これは冗談だ」という意味で「(笑)」などと末尾につけるが

③は「例としては、先ほど良い例で」がダブりで不要。
④「よく」も話し言葉的で子供っぽい表現です。
いずれも交通整理しただけで「大人の文章」に近づきます。
繰り返しになりますが、こうした細かい部分で「うねり」を取っていくことが、文章の流れをストレートで速いものに変え、それが納得感を高めます。

⑤それに、インターネットがもし、なかったとしたら、住所が誰かにばれたとしてもあまり大問題にはならないが、インターネットがあると、拡散するスピードがけた違いに速くなるため、大問題になってしまうのだ。
 →もしインターネットがなければ住所が外部に漏れたとしても問題になりにくい。ネット時代は拡散スピードがけた違いなため大問題になってしまう。

ここも元の文章はうねりまくっています。読点も多い。「それに」「ばれた」は話し言葉的なのでアウト。美点は対比がうまくできている点でしょう。その美点を活かすには、文章にテンポが必要です。
その障害になっているのが、大人でもやりがちな「逆接の『が』でつないだ長文」です。
添削例では2文に分けて、あえて「だが」という接続詞も省いています。
これは好みが分かれるところかもしれません。「あった方が読みやすい」という人もいるでしょう。「省けるものは省く」が私の趣味です。
細かいところでは、原文では2回出てくる「大問題」を、「問題」と「大問題」という風に書き分けています。この方がコントラストが出ます。

リライトの際の指示を再掲します。
①「話し言葉」は使わない
重複や冗長な部分はすべて削る
「本や教科書で読んだことがあるような文章」で書く
具体例をご覧いただいて、意味するところや、添削のやり方のイメージはある程度つかんでいただけたのではないでしょうか。
参考までにとご紹介したテクニックを除けば、それほど大変なことではありません。この程度なら、文章を「磨く」というよりは「整える」の範囲内です。
リライトする側も、添削する側も、それほど根をつめて完璧を目指す必要はありません。2度、3度と書き直して、「前より読みやすくなった」と感じられれば十分です。

最後に、実際のこの回の問題について、私が書いた模範解答を掲げておきます。三女のリライトの方をベースにしていますので、添削例で細かくみた文章例の多くは落ちています。
なお、模範解答の提示は「お父さん問題」では必ずしも必要不可欠なものではありません。実際、私が模範解答を書いたのはこの回が最後でした。

インターネットやスマホのいい点は便利になったことだろう。例えばLINEやメッセージでは、すぐに友達や家族と連絡が取れる。仕事や学校から帰ってくるときに遅くなりそうな場合などは、すぐ連絡できるため家の人が余計に心配しないですむし、逆に、家にいる人が外に出ている人に何かを頼むことなどもできる。仕事などではインターネットがないと業務に支障が出る会社がほとんどではないか。
悪い点は、相手の表情が見えないため、誤解が起きやすいことだ。先ほど良い例で挙げたLINEやメッセージも、画面上に映る文字だけでは相手の本当の気持ちまでは判断しにくいことがある。直接話すよりも誤解されやすいと言える。
自分の個人情報が気を付けていても思わぬところから漏れてしまうこともデメリットだ。例えば自分の家の前で撮った写真にお店の看板が映っていて住所がわかってしまうことがある。インターネットが無かった時代なら住所が誰かに知られてしまったとしてもあまり大問題にはならなかったかもしれないが、インターネットではそうした情報が拡散するスピードがけた違いに速く、時にトラブルのもとになることがある。

おまけ
早くスマホ欲しい(>_<)
へえ。

文章を短く切り、語彙を「書き言葉=大人の文章」に変えただけです。最後の「へえ。」は親子の戯れ。
「模範解答」といっても、大人が書く文章としては及第点にはほど遠く、中学受験レベルでも「最低ラインぐらいが見えてきたかな」という程度でしょう。この辺でやめておいたのは、あまりギリギリやると、三女のやる気と自信を殺いでしまうからです。
「道はなお遠いな」とは思いつつも、季節はまだ夏でした。「このペースなら年明けの受験に間に合うかな」という手ごたえもありました。

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