読解力2

「正解のない問題」にこそ意味がある

読解力を鍛えるには「書く」しかない!(1)

連載初回は「お父さん問題」の成り立ちと内容を簡単にご紹介します。

親子の(ちょっといい加減な)誓い

2011年1月、私と長女(当時5年生)は以下のような契約書にサインしました。名前の部分は「長女」「お父さん」と直してあります。

契約書
◎契約事項

長女は下記の契約事項を順守する。
・塾に行く代わりに、お父さん先生の問題を週2回やる(小学6年生まで)
・環境インテリア大臣の職責を全うする(中学卒業まで)
なお、大臣は(1)新聞・本の整理整頓(2) 掲示物の管理・回収 (3)結露対策(4) その他住環境の改善提案・施行等に責任を負う。
・お父さんは長女に速やかにiPod Touch 32Gを買い与える
・iPodの使用(音楽以外)は1日45分(DS・Wii等との合計)までとする
・iPodの使用は午後8時までとする
・iPodの使用は原則として居間・和室に限る
・iPodはお父さん、お母さんが随時チェックできる
・インターネットの使用は許可制として、利用時は随時お父さん、お母さんにみせる
・課金サービス等は原則利用しない。利用時はお父さんと一緒にやる
・お父さんは土日続けてビリヤードにいかない(除く帰省時)
◎違約事項
契約事項に反した場合、長女は以下の刑罰を受けるものとする。
・学習面および大臣としての重大な職責違反を犯した場合
iPodを没収し、購入代金を弁済する。
・学習面および大臣としての軽度の職責違反を犯した場合
一定期間(1日から1ヵ月)使用を禁止する。期間はお父さん、お母さんが決める。
・iPodの使用規約に反した場合
一定期間(1日から1ヵ月)使用を禁止する。期間はお父さん、お母さんが決める。
・土日に続けてビリヤードに行った場合
 iPhoneの仕事以外の使用禁止および1ヵ月ビリヤード禁止。

長女が欲しくてほしくて仕方なかったiPodをエサに、半ば「ネタ」で作った契約書は、両者書名の上でリビングに数年、掲示してありました。
「環境インテリア大臣」の責務は全うされることはなく、私だけ「土日連続ビリヤード」禁止を馬鹿正直に順守する不平等条約となったのは大変遺憾でありましたが、長女は「お父さん問題」についての約束はちゃんと守りました。

前回書いた通り、長女はこの契約からほぼ1年後、都立中高一貫校を受験して見事合格しました。その4年後に次女、そのまた3年後に三女も「お父さん問題」を受講して、同じ学校に通うことになります。

第1問は米銃乱射事件

では、「お父さん問題」の具体例をご紹介します。
これが2011年に長女に出した第1問です。

米国のアリゾナ州の政治集会で銃が乱射され、9歳の女の子が死亡した。米国の銃問題について、次の3つの問いに答えなさい。

問1 乱射事件について、5行程度で簡潔にまとめなさい。
問2 「銃を減らそう」という主張がなかなか実現しない理由を3つ挙げなさい。
問3 事件について、感じたことや考えたことを10行程度で書きなさい

「お父さん問題」はWordで出題・解答のやり取りをします。5行は原稿用紙半分、10行は原稿用紙1枚程度の分量になります。
問題に出てくる銃乱射事件については以下のリンクをご参照ください。

出題の多くは、この「3問形式」になっています。
1問目と2問目はネット検索でも本でも何でも参照して良いというルールです。ここは「いかに手際よくファクトをまとめるか」と「論点整理」の練習であり、この設問のように、時事問題について子どもに考えさせる機会とすることもあります。
1問目と2問目は、3問目の準備体操です。「原稿用紙1枚程度に自分の言葉で自分の考えを論理的に書く」ことこそが、「お父さん問題」のキモになります。

イメージをつかんでもらうため、2つほど別の問題を挙げてみましょう。

地球は太陽の周りをまわっていますが、昔の人は地球の周りを太陽やほかの星が回っていると思っていました。これを[天動説]といいます。地球が回っていると考えるのは「地動説」といいます。

問1 天動説から地動説にかわった歴史的な経緯を5行でまとめなさい。
問2 そもそも、どうして人々は天動説を信じていたのでしょうか。理由を2つあげなさい。
問3 地動説を唱えた人々は迫害されたりしました。そのことについて、感想を10行で述べなさい。
キリスト教、イスラム教、仏教の3つを世界の三大宗教といいます。

問1 それぞれの特徴を5行×3の合計15行程度で簡潔に述べなさい。
問2 上の3つと、日本の神道の違いを5行程度でまとめなさい。
問3 日本人は宗教色が薄いといわれます。その長所と短所をあげて考えを述べなさい。

ご覧のようにパターンは同じです。

最初のうちは、1問目と2問目の準備体操にも子どもはてこずります。
でも、ここは適切な分量で書けていれば「コピペ」でもOKとしているので、そのうちネット検索などを使いこなして手慣れてきます。
添削の際も、「てにをは」を直して文章を整える程度の指導が中心になります。

「正解のない問題」に向き合う

前述のとおり、キモは3問目。ここには「正解のない問題」を出題します。
なお、3問目については、ネットや本の引き写しは禁止で、自分の頭で考え、自分の言葉で答えるルールとしています。

・銃乱射事件について感じたことや考えたことを書きなさい
・地動説を唱えた人々が迫害されたことについて感想を述べなさい
・日本人の宗教色が薄いことの長所と短所について考えを述べなさい

いずれも、ぼんやりとした解答の方向性は見えるでしょう。
銃乱射なら「こんなことがあってはならない」、地動説なら「真実にフタをすべきでない」といった価値観に基づいて解答すれば成立するだろうという見当は付きます。
でも、3つ目の日本人の宗教観となると、自由度が極めて高いので答えはヒトぞれぞれ、千差万別でしょう。
こんな3問目の「お父さん問題」もあります。

「モノポリー」の強い、弱いを分けるポイントを10行程度で書きなさい。

これは高井家の3大教育ツール、「マンガ」「ボードゲーム」「お父さん問題」のうち、ボードゲームを絡めた出題です。
モノポリーはよくできた複雑なゲームなので、「サイコロ運」「交渉力」「家を建てるタイミング」などなど、どこに力点を置くかで幅広い回答が可能です。

「お父さん問題」のキモは、この「正解がない」という点にあります。
日本の学校教育では、自由度が高い「正解のない問題」に向き合う機会はほとんどありません。
多少、社会問題に踏み込んだり、ディベートに近い手法を取ったりしていても、そこには期待される模範解答があるのが常です。ちょっと目端の利く子どもなら、教師が望むそつのない答えを忖度できてしまう。
それでは「自分の頭で考えて論理を組み立てる訓練」にはなりません。

大人になれば、いや、もっと早い思春期の段階から、否が応でも人間は「答えのない問い」に直面します。
この問題に正面から向かう基礎体力は論理的思考力です。
単なる受験対策をこえて、こうした知的訓練を早くから積むことの重要性はどれだけ強調されても良いと思います。

「論理展開力」に添削の焦点を絞る

それぞれの問題について、出題者である私には自分なりの見解、意見があります。
でも、「お父さん問題」ではそれが「正解」ではありません。
どんな答えだろうと、見解や内容の是非は採点対象としません。
求められるのは論理展開力、つまり「自分の意見をどれだけ説得力を持たせて読み手に伝わるように書けているか」だけです。
重要なので繰り返します。
「この意見はおかしい」という添削は一切しません。
代わりに「この主張を伝えるのに、この書き方は適切ではない」という点については、かなり突っ込んで指導します。

添削の具体的な例は今後の連載で紹介することとして、今回はプログラムの流れだけ整理して締めくくりとします。

最初の出題時には、問題のテキストだけを「ポン」と与えます。ヒントなどはなし。自分の頭で考えてもらうためです。
それを元に、数日から1週間ほどかけて、第1稿を子どもが書きます。それをプリントアウトして、私が「なぜこのままでは『伝わらない』のか」を指摘しながら「赤」を入れます。
それを元に子どもは第2稿を書きます。
その日のうちに書けることもあれば、数日後になる場合もあります。提出期限はあまり厳しくしていません。子どもは子どもなりに忙しいのと、「やらされ感」をもたないようにするためです。
私もそうですが、作文なんて、気が向かないとやってられないですよね。

第2稿が出てきたら、最初と同じように膝を突き合わせて「伝わらない部分」を指摘して、「こうすれば伝わる」というやり方を教えます。
この際も、「こんな手もある」「こう書いてもいい」とできるだけ複数の選択肢を提案します。子どもが自分の主張したいことを、自分なりの方法で選べるように促すためです。

第3稿で「キャッチボール」は終了です。この時点ではそこそこの文章になっているので、「100点満点で80点から90点まで来た」と及第点を出します。一緒に第1稿を並べて、最初はどこがまずかったか、どこかが改善されたかを点検します。

場合によっては、第2稿、第3稿の後、私が「模範解答」を書いてみせることもあります。その際も、自分の見解は脇に置いて、「この主張を展開するならこう書くと効果的」という形で書きます。
これは私が「本職の書き手」だからできる手法でしょう。やってみせると「お父さん、すごい」となるので気持ちは良いですが、教育効果がどこまであるかは疑問です。プロのレベルの作文能力までは、受験でも一般のビジネスの場面でも求められることはないでしょうから。
もし読者のみなさんが同じような手法でお子さんなりに教える際には、模範解答までは不要だと思います。

次回は三女の学習記録をもとに、実際の添削例を紹介します。

お楽しみに!

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