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悲しみの底で猫が教えてくれた大切なこと

 猫を通じて登場人物の過去が浮き彫りになっていく ヒューマンドラマ。
 良書である。国語辞典で説明される、所謂、良書(りょうしょ)「価値が高いとみなされた図書、読んでためになる本、有益な本」とは違うかもしれないが、それでも、紛うことなく良書である。
 本書は童話である。大人が読める童話。いや、心の底に悲しみを抱える大人にこそ読んで欲しい、大人向けの童話である。登場人物の奇跡のような優しさ、出来過ぎた展開も清々しい。
 感動をテーマにした小説は、時に、押し付けがましさを感じる場合もあるが、本書は童話であるから、語り口は、あくまでも控え目で優しい。瀧森古都さんのお人柄が偲ばれる。
 主要登場人物は、猫と、過去に心の傷を持ちながら前向きに生きる平凡で善良な愛すべき人たち。
 本書には毒がない。心が病んでいる時でも、安心して読める。
 もしも、あなたが悲しみの底で、この物語に触れたとき、その悲しみは多少なりとも癒されるに違いない。
 


 あとがきに書かれているとおり、本書は実話に基づく四編からなる連作短編集である。どの物語も素晴らしいが、一つだけ紹介するとすれば、私なら「第二話 絆のかけら」
 主人公が見た写真は、バケツの中で溺れそうになっている子猫が写っていた。動物虐待か?
 子猫を救うべく奔走する主人公たち、バケツに子猫を入れたのは、悪意でなく善意だった。なぜ?
 意外な事実を知った、ある男は、ひとり行動する。そして不幸な運命に…。決してハッピーエンドではないが、ハッピーエンドのように心があたたまる。人の死は悲しいだけじゃない。なんと見事なストーリーテリング!
 

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