タバコの糸


コロナ禍でつぶれた

工場の裏路地

捨てたタバコの

紫煙の穂先は

薔薇の形を

していた

少年はその薔薇を掴もうと

必死に

飛び跳ねた

成人し

地獄に落ちた


ある日そこに

蜘蛛の糸が

降りてきた

それを握り

両足で綱を挟み

夢中で天を目指した

登ってくる人々は

躊躇なく蹴落とした

地獄と天国の

真ん中くらいまで登った時

糸がタバコの煙だということに

気づいた

再び地獄に落ち

落ちる途中で

目が覚めた

全ては夢だったのだ

青年は名前を変えて

生きるために

仕事をしている

尻の形が綺麗な女と暮らし

大嫌いな薔薇の絵を

描き続けている 

生活のために

戸籍のために

子供のために

別の地獄を

生きている

時々タバコの煙を

夢で見る

その先端は

薔薇の形をしている

薔薇の向こうに

富士山がみえる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?