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【吃音】「治したい…」の裏にあるもの-吃音のある方や保護者の複雑な心理-

吃音のある方が抱きやすい心理

まずは、吃音のある方が抱きやすい心理についてお伝えします。

1.状況や相手、音や単語によっても違うから、なぜそうなるのか、本人も理解できない
2.不意に吃音が出るのでいつも気をつけている(緊張・不安)
3.症状に出ない複雑な心理コンプレックス

  -1日中、吃音のことを考えてしまう
  -抑うつ気分が長く続き、自分は生きている価値がないと思う
4.吃音を知られないことが最優先 ⇔ でも理解して欲しい
  -吃音が出ることや話すことを避けるためのあらゆる努力
  -言いやすい姓の人と結婚する、忘れたふりをする、電話しない 等
  -自分でもおかしいと自覚、しかし吃音が怖いからどうにもできない※1~4にすべての人が当てはまるとは限りません。

吃音は、直接話してみて初めて分かることも多くあります。
また、同じ状況・場面でも吃音が出るときと出ないときがあり、表面には見えにくいものでもあるため、本人は困難感を感じていて悩んでいるのに周囲は気づいていないということも起こりえます。
吃音のある方自身の中でも、「どうしてなるのかが分からないから怖い・不安…」という方も多いです。

大事なことは、本当の主訴と問題点を捉えること

初回相談の方には『相談に来た理由』を記載していただいています。
「(吃音を)治したい」という内容が多いかと思いますし、「治したい」と思うこと、吃音を軽減させたいと思うことは、みなさんの正直な気持ちです。

では、これに対して、専門家は何ができるでしょうか?
吃音症状を軽減するだけで、本当に困り感や不安が取り除かれるでしょうか?

大事なのは、ひとりひとりの本当の主訴と問題点を捉えることです。

『相談に来た理由』の他に、『これまでにあったこと』もご記載いただいています。(下記は一例です)

  • クラスメイトから「何、その話し方」と言われ、からかわれた。

  • 音読のときにどもって、笑われて、恥ずかしい気持ちになった。先生も「はい、次」と言って、後ろの人に順番をすぐ回してしまった。音読の時間が嫌になった。

  • 上司から「治してこい」と言われた。落ち込んだ。

  • 同じ社内の人への電話で、掛けたときに第一声が出なくて、いきなり切られてしまった。

  • 日直で号令をかけるとき、「起立」と「礼」は言えたけど、「着席」がなかなか出なくて、みんなを立ったまましばらく待たせてしまった。クラスメイトがざわざわしていた。

以前の投稿で、吃音症状の悪化要因についてお話させていただきました。
(周囲からのからかい、笑われる、マネされる、話し方を指摘・否定、無理解など)

話し方を笑われた… → 嫌な気持ちになった… → 治したい

上記のような例では、「話し方を笑われて、嫌な気持ちになった」ことで『治したい』と思うようになった考えの流れがベースにあり、元となる「笑われる」という環境を何とかしないことには、吃音での悩みや症状は軽減しにくくなってしまいます。
この場合、相談者への直接的なアドバイスや練習と併行して、学校等に対して正しい配慮の方法を書面で情報提供するなど、環境に対してのアプローチも必要となるでしょう。

吃音には、様々な側面が絡み合っている

これは私個人の考え方だと思うのですが、以下の5つの面のバランスをみています。

吃音には、様々な側面が絡み合っています。
また、吃音は「口でどもっている」わけではなく、『全身でどもっている』とも言えます。
話し方(口)だけをコントロールしようとしても、身体全体の使い方が正しくコントロールできていないと、すぐ状態は崩れやすくなってしまいます。
良い状態に変えていくためには、様々な側面を多角的に正しく評価しながら、状態に合わせて練習・調整・実践していくことにあります。
ただし、自己流で行うときは注意が必要です。場合によっては、吃音が悪化してしまう方法・環境で気づかずにやってしまって、「困り感が減った気がしない…」とか「…もしかして、悪化してる?!」なんてことになる恐れもあります。

自分自身ではなかなか気づきにくいこともありますので、そんなときは、第3者である専門家からの目や手を借りて、謎解きをしていくのも良いかもしれません。

相談する時期、症状の改善、困り感の解消には、遅い/早いというのはない

「吃音は、7~8歳頃までに治らないと、もう治らないと聞いた・知った」

そうおっしゃる方がおります。
「7~8歳以降は何をしても無駄だな…」と感じてしまう方もいるのも事実です。
研究論文等でいわれている内容としては、7~8歳頃になると症状が固定化してくるという内容です。

しかし、多くの方の吃音支援を行ってきた経験から感じるのは、年齢関係なく改善する方は改善するということです。

これは、吃音に限らず発達全般にもいえることですが、

  • 各々の状態・状況に合う、正しい方法で支援しているかどうか

  • 画一的な対応ではなく、ひとりひとりに合わせてちゃんとカスタマイズしているかどうか

  • 発達段階や年齢に合わせて、どんな方法で支援するのが良いかも変わってくること(能力を向上させるのか、環境を調整していくのか、両方か、など)

支援していくうえでは、これらが大切かと感じます。

「この子/この方のために、本当に必要なことは何か」
それを考えることのできる・考え方のしっかりしている専門家、しっかりと情報を受け取り、分析し、簡潔な説明・対応をしてくれる事業所や専門家を選んでいくと良いかもしれません。


私の運営している吃音相談室、そして、これから非常勤で勤務していくことになった児童デイサービスでも、選ばれる専門家や事業所になれるといいなと思います。

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