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【note感想文】川べりからふたりは|誰かと生きることの意味を知る

今朝ひょんなことから…篭田雪江さんの小説『川べりからふたりは』に出会いました。

まだ洗濯も掃除もしていなかったので「少しだけ読んで、続きは後で…」と読み始めたのですがこれが大間違い。途中で止めることが出来ずに全17話を一気に読んでしまいました。

胸に込み上げる感情…
あふれ出る涙と鼻水…

私は鼻をかみながら洗濯を干すことになりました笑。

下半身にハンディを持つ車いすの青年「涼」と、ある秘密を抱えた健常者の女性「奈美」がお互いを優しく照らし、固まってしまった心を溶かしていく物語です。

1.登場人物

主な登場人物は2人。

関村涼:7歳から脊髄の病気で下半身にハンディを持つ車いすの青年。人との関わりを断ち、たったひとりで生きていくことを決意している。

鈴木奈美:涼の職場の同僚。休憩時間はひとりで寂しげに携帯電話を眺めて過ごしている。

この2人がゆっくりと心を通わせ、やがてお互いの心を溶かしていく姿を描いています。

2.奈美と母親

物語の背景には涼と奈美の母親の姿が深く絡んでいます。

奈美は母子家庭で育ちました。母親はたっぷりの愛情で彼女を育て、夢であるデザインの仕事ができるように専門学校へ進学させてくれます。しかし無理がたたり…奈美の就職を見届けると、安心したように心臓の発作で亡くなってしまうのです。

母の死後、ひとりぼっちになった奈美の心はからっぽになってしまいます。まわりがよく見えなくなり…なんとなく紹介された男性と付き合い、子どもを宿し結婚するのです。

息子を出産後、家に入り家事と育児に専念して欲しいという夫と義父母の願いを退け、奈美は忙しく働き続けます。しかし不慮の事故でたった2歳の息子を亡くしてしまうのです。そして離婚。

奈美が休憩時間に携帯電話の中の息子の写真を見つめていたんですね。

奈美は母親が自分の命を削って働き、専門学校へ通わせてくれたと思っています。だから、結婚後も仕事を辞めたくなかったのです。
デザインの仕事を母の形見のように考えていたんですよね。

だから夫や義父母とぶつかっても仕事を続けたのです。

でも…私はそんな生き方を天国のお母さんは望まなかったと思うんですよね。ただ家族と幸せに、笑って生きて欲しかったんじゃないかな?

3.涼と母

涼の生き方にも母親との感情が深く絡んでいます。

7歳の時に足が動かなくなったと涼に伝えたのは母親でした。
その時お母さんはぽろぽろと泣きました。

 母は私の髪を撫でながら泣き続けた。涙は後から後から流れ、止まることがないように感じられた。私はなにも言えずおろおろしながら、母の溢れる涙を見つめ続けた……。

母の涙は幼い涼にとって自分の足が動かなくなったことよりも衝撃的だったのですよね。

そして彼は足が動かなくなったことを、静かに受け入れたのです。

母の涙を見たのは、後にも先にもあの夜一度だけだ。
 母は、よく笑う人になった。

涼は二度とお母さんを泣かしたくなかったのでしょう。

奈美に辛くなることはないのかと聞かれて

「辛いとか苦しいとか、正直もうよくわかんないです。でも、こんなだからこそ、自分の始末は自分でつけられるようにだけはしてきたかな。これからもそのつもり。一応、ですけど」

と答える涼。

15話では涼がひとりで生きていこうと考えるようになるたくさんのエピソードが語られるのですが、私は修学旅行の話が辛かったな。

中学二年の秋、楽しみにしていた東京への修学旅行を、付添の母とだけで過ごして終わったこと。
努めて明るく振る舞う母とふたりだけで見つめた池袋サンシャイン水族館の熱帯魚…

この時のお母さんの悲しみはどれほどのものだったでしょう。
明るく振る舞うお母さんの顔を見る涼はきっと、
自分が友だちと行動できないことよりも、母の悲しみを考えて辛くなったんじゃないかな…。

4.心の鎧が砕ける

『川べりからふたりは』はそんなふたりが心を寄せて、固まった心を少しずつ溶かしていく過程が素晴らしいんです。

奈美の亡くなった息子の名前は「光」というのですが、お互いのがお互いの人生を照らす「光」になっていくんですよね。

そっと近づき、優しく心を癒やし合うふたりですが、
クライマックスの16、17話は恋愛小説というよりも、涼と奈美の心と心のぶつかり合いです。
涼の心の鎧が叩き割られる音が聞こえるくらい、生々しくて激しいです。


涼のこのセリフ。

「それでも……。おれはもう、ひとりで生きていたくなんかない」

涼の心の鎧がくだけて、奈美を受け入れた瞬間です。
ホントに今までよく頑張って生きてきたね…と奈美と一緒に抱きしめてあげたくなりました。

そして最後に涼は、物語の冒頭のこの言葉…亡くなった友人野口君のこの言葉への答えを見つけるのです…。

触れてて、って言うんだよ、彼女。変だよね。

涼のみつけた答えは…?ぜひ読んでみてください。

☆まとめ

『川べりからふたりは』は恋愛を越えた人間愛の物語だと思いました。

頑なにひとりで生きてきた青年と、人生の光を失った女性が出会い…心を通わせて…
モノクロだったふたりの人生が美しい天然色へと変わるまでを描いた素敵な物語です。

朝、一気に読んでしまった私は…
涼さんが奈美ちゃんを連れて実家に行き、涼さんのお母さんが涙をポロポロ流すシーンを想像しながら洗濯を干しました。
ホントによかった!

篭田雪江さんの小説『川べりからふたりは』のマガジンです。
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