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ラーメン屋と学習塾

1、九州じゃんがら

東京で九州ラーメンが食べられるお店があります。「九州じゃんがら」というお店です。都内に複数の店舗があります。

今でこそ九州ラーメンのお店は東京にもたくさんありますが、九州じゃんがらの1号店がオープンした1984年、つまり今から30年以上前の当時は、東京で九州ラーメンはとても珍しいものでした。

創業者は下川高士さん。熊本県出身。慶應義塾大学卒業後、株式会社ヤクルトに就職し、退職した後に1979年に始めたのがラーメン屋…ではありません。学習塾である「ブルカン塾」でした。

ラーメン屋と学習塾…。一見、何のつながりもなさそうな両者ですが、下川さんはこの2つを見事につなげたのです。ブルカン塾のホームページには、ラーメン屋を始める際のエピソードが載っています↓。

このホームページによると、通塾費用が払えないという保護者がいた、しかし保護者の都合で子どもの通塾を断ることはできない、しかし授業料をもらえないケースが増えると塾の経営基盤が傾いてきた…。そこで考え出したのが『昼はラーメン、夜は塾』という方法とのこと。ラーメン屋で経営基盤を立て直して、塾の運営にも力を注げるようになったそうです。

当時の九州じゃんがらのメンバーたちの「ありがとうございます」には、2つの意味が含まれていたとのこと。ホームページの文章から引用します↓。

ひとつ目はもちろん、「お召し上がりいただきまして、ありがとうございます。これで私たちは生活していけます」という意味でした。
そして二つ目は、「お客様からいただいたお金で、子供たちのために何かできています。感謝いたします」という意味でした。
『ブルカン塾』開設33年、『九州じゃんがら』開店28年、私たちは決して脇目を振ることなく、この両輪に情熱を注いでまいりました。

学習塾からラーメン屋が生まれ、ラーメン屋が学習塾を潤す。この両輪で下川さんは経営を進めてきました。両者には、共通の思いがあると言います。再び引用します↓。

創業以来、『ブルカン塾』と『九州じゃんがら』を結ぶ共通の思いがあります。
つまり、「"頑張る気持ち"を決して忘れず、夢に向かって明るく元気に歩む」、そして 「人は決して一人では生きてはいけない。だからこそ、"思いやる心・感謝する心"を絶えず心に抱いて生きていく・・・」という思いです。「ブルカン精神」が私たちひとりひとり全員の心に熱く宿っていることは、昔から今、そして未来へと、決して変わるものではありません。

実際に、『ブルカン塾』では学習指導に全力を注ぐとともに、この経験を生かし、子供たちへ「生きる」ということを伝えています。『九州じゃんがら』を思いついた発想、それに向かう研究、努力、気合い、乱れぬチームワーク、味や店作りのこだわり、夢に向かってあきらめない精神...などなど。こんな話を通じ、勉強に励む子供たちに「あきらめないで夢に向かって出発しよう」と声をかけています。これこそ、実録ブルカン式生きる教育!と自負しているところです。

「ブルカン精神」が、今の「九州じゃんがら」の味を支えている、「九州じゃんがら」が、子どもたちに「生きる」ということを伝えている、とも言えそうです。

2、ラーメン屋と学習塾の共通点

「九州じゃんがら」と「ブルカン塾」のように、実際にラーメン屋と学習塾を両輪で経営しているケースは少ないとは思いますが、実はこの両者には共通点が多い。色々ありますが、次の5点を挙げてみます。

①サービス業である

②営業時間が昼~夜のことが多い

③塾長・店長のカラーが雰囲気に反映される

④個人経営が多いがチェーン店もある

⑤トッピングに課金が必要

では、これらについて吟味していきましょう。

①の「サービス業」については、ラーメン屋が「飲食サービス業」、学習塾が「教育サービス業」ということです。給食や学校とは、似て非なるものです。

②の「営業時間」についても、最近はラーメン屋でも「朝ラー」と言って朝からオープンしているところもありますが、基本は昼と夜に営業しているところが多いと思います。どちらも夜は遅いところが多いです。なお、営業時間外の「仕込み」についても、ラーメンのスープを炊く仕込み、授業の準備をする仕込み、いずれも必要です。

③の「塾長・店長のカラー」は、そのまま当てはまります。その人の個性、パーソナリティが、ダイレクトに反映されます。芸人の河本準一さんのネタ「お前に食わせるタンメンはねぇ!」のようなイメージの、頑固なラーメン職人は多い。そして頑固な塾長も多い。そもそも、自分で店を出したり塾を作ったりしているわけですから、個性が出て当然、とも言えます。

④の「個人経営/チェーン店」も共通していますね。ラーメン屋では、一軒家や屋台のスタイルもあれば、チェーン店もある。学習塾では、自宅を改装した個人塾もあれば、駅前の一等地にドンと構える大手塾もある。

⑤の「課金」については、ビジネスである以上、どうしても必要な部分があります。もちろん中には、ほぼボランティア、授業料を取らない、というケースはあるかもしれませんが、サービス業である以上、追加のサービスを受けるために課金が必要です。ラーメンのトッピングしかり、勉強合宿や特訓講座しかりです。

3、ラーメン屋と学習塾の経営

次に、両者の「経営面」に絞って見ていきましょう。共通点としては、次の5点が挙げられます。

①難しい資格は基本必要なし

②初期費用が比較的安い

③拡大するとサービスが薄くなる危険性がある

④開業・廃業が多い

⑤若者のバイトをアシスタントに使うことが多い

①の「資格」について。もちろん飲食店を構えるには「飲食店営業許可」「食品衛生責任者」が必要ですが、ラーメンを作る人に「調理師免状」が絶対必要、というわけではありません。同様に、塾講師が必ず「教員免許」を持っているかというと、そういうわけでもありません。資格に頼る仕事ではありません。あくまで個人の力量です。何十年も修業してようやく、という感じではなく、ある程度力量がついたら独立する人も多いです。

②の「初期費用」については、ラーメン屋を自宅開業する人は少ないと思いますが、「居抜き」で物件を借りれば比較的コストを抑えることができます。「屋台」で始める人もいます。学習塾は、自宅でも始められますし、出張サービス(いわゆる家庭教師的なスタイル)も可能です。そう言えばラーメン屋でも「出前サービス」はできますね。

③の「拡大」については、これは経営者の考えや目配りともからんでくる問題です。1つの場所で成功したら、他の場所でもやろう、拡大しようという気にもなるでしょう。しかし、塾長や店長のカラーが「色濃く」反映されていますので、複数の場所でサービスを行おうとすると、チェックが行き届かなくなり、サービスや雰囲気が「薄くなる」危険性があります。ラーメン屋で言えばスープを共通で作るとか、学習塾で言えば塾の方針や教材、マニュアルを共有化するとかの方策が必要です。

④の「開業・廃業」については、①~③から導き出せます。つまり、初期コストが他の事業に比べて比較的低く、個人の力量と判断次第ですので、始める人も多ければ、やめる人も多いのです。もちろん、やめる場合は、常連さんや通塾生へのケアは必要だと思われますが…。いきなり貼り紙ひとつで閉まるところが多いのも、寂しいものです。

⑤の「バイト」は、個人1人だけでやっている店や教室も多いので、一概には言えませんが、サービスをより充実させるためにはアシスタントとしてのバイトは欠かせません。「夜主体の肉体労働」の面があるので、どちらかというと若い人の方が使いやすいでしょう。雇われるバイトの方も、比較的ラーメン屋や学習塾になじみがある人が多いので、雇われやすい・働きやすいと思います。

4、何よりも大事なことは…

以上、この記事では、ラーメン屋と学習塾について考えてみました。まとめにかえて、ラーメン屋と学習塾を扱った漫画を、それぞれ紹介します。

まずはラーメン屋より。久部緑郎さん・河合単さんの『ラーメン発見伝』です。ラーメンそのものだけでなく、ラーメン屋の経営にも言及しているので、とても読みごたえがあります↓。

次に学習塾。高瀬志帆さんの『二月の勝者』です。都会の中学受験の進学塾の話なので、地方や高校受験主体、あるいは補習塾とは若干異なる部分もあるかもしれませんが、根本は同じです。

それぞれにおけるサービス、つまり「飲食サービス」「教育サービス」は手段に過ぎません。「ラーメン代」「授業料」は結果に過ぎません。目的は、「お客さん・通塾生と保護者を満足させること」。これが、両者のビジネスにおける共通点だと思います。もしビジネスでなければ、つまり無償のボランティアなどであれば、たとえ満足させられなくても自分の思いさえ満たせば良いのかもしれませんが…。

この目的を見失って、独りよがりのサービスを提供したり、過剰な利益を追い求めたりして、「手段や結果が目的化」してしまうと衰退してしまう。これも両者の共通点ではないでしょうか。

もちろん、サービスの作り手の、熱い思いは必要だと思います。「究極のラーメンを作り上げる」「最高の教育を作り上げる」など…。しかし、ビジネスでしかも消費者への人間相手である以上、目の前のお客さん・通塾生と保護者をいかに満足させるか、が大事です。もちろん、理想と現実とのはざまで、揺れ動くこともたびたびです。理想を追い求めるあまり、資金繰りが苦しくなって、廃業に追い込まれることも多々あります。

では、何よりも大事なことは何でしょうか。…それは、どのようなビジネスにも共通することだとは思いますが、店長や塾長が常に学び続け、考え続け、実行し続けることであるように思います。思考停止したり惰性で動いたりしたら、終わりです。あきらめたらそこで試合終了です。MAXさんのnote記事を引用して、この記事を終了します↓。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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