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【短編小説】転生した世界で勇者として活躍したがラスボスが会社の上司だった

「勇者よ!よくぞここまでたどり着いた!だがお前の活躍もここまでだ!我が魔力の前にひれ伏すがよい!……とか、やっぱり違和感あるよな。」

 長い旅路のはてにたどり着いた魔王の棲む城の最奥部、魔王の間で待っていたのは、王様や村人が話していた恐ろしい悪の魔王のはずだったが、この世界に迷い込む前に勤めていたゲーム会社の直属の上司だった。

 魔王の間といっても石畳で天井の高い大広間ではなく、黒っぽいパンチカーペットに長机がコの字に並んでいて、3メートル弱の高さの天井には蛍光灯が埋め込まれていた。よくある会議室だった。魔王の玉座も、キャスター付きの事務椅子で、そこにワイシャツ姿の上司が座っていた。背もたれにジャケットがかかっている。その背後に赤と青のマグネットが幾つか張り付いたホワイトボードがある。

「こっちの方の手下に同じように転生してきたヤツがいてさ、そいつが向こうの世界の事務用品を取り寄せる特殊能力持ってたの。特殊能力と書いてスキルって読ませるやつ。それを使って会議室を作ってみたんだよ。こっちの方が落ち着くだろ?パイプ椅子並べて寝たりとかさ。」

 ゲーム会社で上司と最後に作った企画がRPG定番の世界観を否定するものだった。中世の剣と魔法の世界なんていうけど、どこかフワッとした共通認識で、王様やラスボスの言葉遣いは一種の時代劇だよな?なんていう、よく飲み会で盛り上がる話を飲み会の夜の熱量そのままでまとめた力作だった。
 企画を作っている間、上司は魔王のセリフとデーモン小暮のモノマネの区別がつかなくなり、自分はスライムという存在がゲシュタルト崩壊した。雨もスライムの一種じゃないかと言い出して同僚を心配させた。

 企画はプレゼンで大ウケだったが、社運を賭けた本格派を謳うRPGがリリース間近なこともあり当面は見合わせになった。ラスボスの声は本当にデーモン小暮が担当した。

「それで、どうする?俺を倒して世界の平和を取り戻しました、めでたしめでたしにする?それでも良いよ。どうせ元の世界に戻れないなら、知らない勇者や謎のモンスターに食われるより君にやられた方がマシだし。」

 企画での最終的な勝利条件は悪の魔王を倒すことだった。そこは普通なんだなとプレゼンでも指摘された。
「この企画はロールプレイそのものをイジっている訳ではありません。ロールプレイするための題材がなんとなく大勢が知っているからという理由で安易な世界観になっていることをイジっているのです。」
 堂々と言い切った上司は格好良かったが、社運を賭けた本格派RPGチームの人達は下を向いていた。他人事のようにこの場面は使えるなと思った。

「この企画はロールプレイそのものをイジっている訳ではないのじゃ!ロールプレイするための題材がなんとなく大勢が知っているからという理由で安易な世界観になっていることをイジっているのじゃ!……白髭の賢者が杖を振り回しながら演説してるみたいだよな。精神攻撃というやつだ。」
 上司もプレゼン終わりで楽しそうに話していた。賢者は水戸黄門の喋り方だった。賢者は高齢者だ。

「そうですね。最終的には勇者の私が勝つでしょうけど、今日のところは少し休んでHP回復させてください。久しぶりですから飲みながら思い出話でもしましょうよ。魔王なんですから美味い酒くらいありますよね。」

 上司も笑顔で頷く。水戸黄門の真似をしていた時と変わらない笑顔だ。
 ホッとして装備を外す。会議室の癖でパイプ椅子の上に置いていく。
 上司が隅から傘立てを出してきた。

「剣、これに立てるといいよ。丁度ぴったりなんだ。最近のオフィス用品は本当にすごいよな。」


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