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それでもありがとう白血球 (みんな直ちに健康診断を受けろ!)

やっとロサンゼルスに帰ってきた。長かった。

というのもこの夏私は2度日本に帰国していて、その間申し訳程度にロスで過ごした1ヶ月を逆に「1ヶ月ロスに帰ってたんだよね〜」くらいの顔で日本の8月の酷暑の中をだらだらと歩いていた。全然そんな予定じゃなかったんだけどなぁ。

ずっとバタバタとしていていろんなことを振り返る余裕がなかったのだけど、実はこの夏自分にとってものすごいことが起きているのでは!?という感覚が長い間五臓を沸々と刺激していて、ロサンゼルスに帰ってきた今、それは確信に近いものになった。
それらの奇怪な事実ではなく、それらを振り返ったときの漠然とした、でも確かな感謝を残しておきたい。


6月半ば。
帰るつもりなど毛頭なかったのだけれど、1週間とんぼ返りをすることに。
フライト前日が誕生日だったこともあって、身体に残る久しぶりのお酒に気づかないふりをしながらパンパンの顔で遅刻気味に飛行機に滑り込む。23にもなってどうしていつもこうギリギリなんだろう。
1週間の滞在では、諸用を済ませ、毎日のように人と会った。
楽しかったという以上に、疲れたなぁという記憶。帰国の前からやることに追われてろくに眠らない日々が続いていたし、1週間ではゆっくりする暇もなかった。天然気圧計の如く気圧に敏感な人間が、どうしてこの最も気圧が低くジメジメとする時期に、しかもタイトなスケジュールで帰って来てしまったのだろう、と本気で後悔した。久しぶりにみんなに会うのにぜんっぜん本調子じゃねえ!今すぐロスに帰って出直したい!
来年帰る時は元気200%キレッキレで!と誓いながら、渋滞する記憶を整理する余裕のないまま慌ただしく東京を去った。

そんな誓いを鼻で笑うかのように、ロスに帰って間もなく母親からの連絡。
「白血球数が異常だって、また帰って来なさい」
日本で受けた健康診断の結果、白血球が異常に多いから一ヶ月以内に精密検査に来てくださいとのこと。うぉ〜さらっと受けた検診でまんまとひっかかってしまった〜(まんまととかそういうもんじゃないけど〜)
また来年ね〜!とか言ってバイバイしたばっかりだし、泣いてくれた人たちもいたっていうのに一体どんな顔して帰れば良いんだ〜、と、あの涙を返せ一揆が起こるんじゃないかと震えた。

保険適用外で高額であってもロスで精密検査するとか、とりあえず年末まで知らないふりをするとかいろいろ考えたけれど、親が進んでフライト取ってくれるというので身を任せることにした。親を心配させたまま過ごすというのは非常に生き心地が悪いから。夏の予定を全部キャンセルして、予定外の、でもいつもどおりの日本の8月のことを考えた。・・・悪くない。正直めっちゃ楽しみになってきた。

もう一度日本に帰るのかもしれないということを、実は東京を去る前からなんとなく感じていた。
いろんな夢がそう言っていたし、起きていても、唐突に頭をよぎる脈絡のないイメージが未来の記憶に似たリアリティをもって日本の夏を映し出していた。あるいは東京の友人とバイバイ〜と手を振り合った時に何回か、あれ、この人たちとすぐ会うな、と感じたり。
それは日本に帰ったから無意識に日本のことを考えてしまっているとか、その人たちと会いたいが故に再会を予感してしまうのとはなんとなく違っていたから、白血球に導かれるように本当に帰ることになった時には「やっぱりそうか〜」と諸々が一気に腑に落ちたものだ。よかった、あれはリハーサルだったのね。

そして奇妙なハーフタイムのような7月をロスで過ごす。
その1ヶ月は人生の中で最も不思議な1ヶ月と言っていい。おもしろいことばかり起こった。怪しくしか伝わらないから怪しいままにしておくが、自分自身を新しい境地にもっていく努力を始めた私は、あらゆるものから次々と発せられるメッセージのような淡い光源に触れようと必死だった。端的に言えば「自分や自分を取り巻く世界について、今まで見ようとしてこなかったたくさんのことがわかり始めた」ということになるだろうか。再び日本に帰ることが自分にとって大きなことであるという思いは確信になった。

そして相変わらず体調が悪い!なんだろう、検査結果を知ったから余計にかもしれないし、仕事でもプライベートでもメンタルボロボロだったのもあるし、疲れすぎて寝られないくらい毎日鬼のように疲れる。これは増兵した白血球たちと緊急会議をひらいてちゃんと休戦協定を結ばなくてはいけない!このままじゃ白血球に殺される!

だから白血球に聞いてみた。
何を伝えようとしているのか、再び帰る日本はどんな旅になるのか。
知り合いたちのいろんな力も借りた。(みんな私の白血球と会話しようとしてるの面白いなと思いながらその頃から白血球のことが愛くるしく思えてきた)

状況としては良くないはずなのに、すごくいいイメージしかやってこない。全部が全部そういう結果だった。私の心もそう言っていた。身体的にはどこかが悪そうな感覚はあったものの、さして大事にはならないと直感的に悟った。今も思ってるけど。

それ以上に得るものの方が多いだろう。人生における新しいフェーズに突入する予感。多くのものに気づき、行動し、道が拓ける予感。
実際の状況とは不釣り合いなくらいポジティブな予感だったけれど、それは開き直りでもなんでもなく、本当にそのとおり現実となって一生ものの気づきに溢れる夏をプレゼントしてくれることになった。

日本での夏、テイク2はゆっくり約1ヶ月。
それはもう最初から最後まで、腑に落ちることの連続だった。いろんなことがいろんな形で腑に落ち続け、もはや重力がおかしい。なぜそんなに落ちる。

これをしないとやっぱり夏は終われないよね!的な数々の夏の諸行は、もはや儀式のようでもあった。
灼熱のコンクリートを走らせる車の感覚や、もったりとした夜道を漂う感情や、何度も繰り返し聴く音楽や、火照った身体で海に飛び込む瞬間の永遠や、日焼けで痛い腕や、ホームで汗が胸をつたっていく感覚や、繁華街の妙に浮ついた空気や、畳の上に散らばるトランプや、青い芝生でボールを蹴る匂いや、夜の公園を劈く心地よい沈黙や、、、しょうもないことでケラケラと笑い合いながら過ぎていく、大切な人たちとの日々。
曲がりなりにも毎年謳歌してきた夏の思い出の集積が、時の重みとともに今と絡み合って、それはそれは幸せだった。

それは数ヶ月間に及ぶ答え合わせみたいなものだったな、と思う。
言葉にすると大したことではないのかもしれないし、問いも答えも私にしかわからない。きっと説明しても伝えられるものではない。
でも人生の気づきって大方そういうものでしょう?
日々の暮らしの中で勝手に自分で見つけてしまった宙ぶらりんの問いを長いことポケットの中でいじくり回し、ふと、なんでもない瞬間にその答えが光って見えた時のパズルがはまったような喜びと快感は、説明することはできてもやっぱり本当の意味では本人にしかわからない。そういう、その人だけにしかわかり得ない気づきの歴史が、学歴や肩書きよりもっと直接的にその人を作っているんだと思う。

でも、そういう私だけの気づきというのも自分一人の力でせっせと回収していけるものではないらしい。

喜びも悲しみも孤独も退屈も自己嫌悪でさえも、すべての感情は「私と他者の境界線上」で生じる、と私は思う。あなたがいるから嬉しい、あなたが悲しいから悲しい、という特定の他者であれ、誰も味方がいなくて孤独だ、誰かと比べてしまうから自分が嫌になる、みたいな不特定な、概念としての「他者」であれ、他者との境界線上に生じた摩擦に反作用するようにして私の感情は規定される。
そしてそれは素晴らしいことだと思う。だってそう考えることは、私は誰かと繋がっている、誰かと作用し合っているということの温かさに常に感謝できることでもあるから。
そこには必ず他者がいる。だから書いている。ありがとうと言いたくて。

この夏、いろんな人がくれた数多くの気づきの中で一番のことは、
愛する人たちと共に生きることそれ自体が人生の目的であり、最上の幸せであるということ。
気づくの遅いしありきたりだし、いや、気づいてたことだけど、実際にそういう生き方をするのは難しいよね、という話かな。
若さ故か、そういう心のものさしをあってないもののように無視して、自分はどう生きるべきか、何者になれるかということばかりに必死に頭と身体を使ってきた。そうして自分が見たい景色を追いかけてずいぶん遠くまでやってきた今だから、余計に思う。やっぱり私は私の愛する人たちの近くにいたい。それは必ずしも物理的な距離ではなく、愛する人たちと共に生きることそれ自体が人生の目的であっていいんだと思えるようになったということ。自分の目標や夢よりも、大切な人たちと笑い合う時間を愛でていたい。それだけで幸せです、そのために生きてますって胸張って言っていいんだ、と思えた。
場所や時間が離れても、心からは遠ざけなくていいんだな。それは強さではないんだな。過去も未来もあの人やこの人への思いも全部ひっくるめた今を、なるべく大きく深く愛していけたらなと思う。無理をした過去のいろんな記憶に許されるようにして、人生の目的が変わった。日々の景色が変わった。そんな夏だった。

そんな風に気づかせてくれた、すべての人にありがとうと言いたい。
あなたの人生の一部になれたことが本当に嬉しいし、私の人生にあなたがいてくれることが本当に幸せです!と。これから出会う人がいて、もう会えない人もいて、でも今ちゃんと言葉を届けられる人がちゃんといる。だからちゃんと言葉にしたいと思いました。

そして、そもそもそんな夏へと私を導いてくれた白血球よ、一番に、どうもありがとう。
まだどうなるか微妙だけど、おかげで随分いろんなことが予定外だけど、それでも心からありがとう。

最後に、みなさん、ちゃんと定期的に健康診断受けましょう。何度でも言うけど、若いとか忙しいとか海外にいるとか関係なくちゃんと!時間を作って!受けましょう!健康第一!!
あ〜これを一番に言うべきだった!

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