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レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「今まで考えたこともなかったような経験につながる場」(Smith College・円子ちとせ)

HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、アメリカの大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。

HLABでは、本場の実際の留学生活をより深く知っていただくために、動画版「留学体験記」を配信するサイト 『Living on Campus』(https://h-lab.co/campus/)を設立しました。留学希望の方はもちろん、海外大の学習環境や日常を覗いてみたい方はこの記事とともにご一読ください。

今回は、インドの全寮制高校(UWC Mahindra College)を経て、Smith Collegeに留学している円子ちとせさんによる寄稿です。

はじめまして。Smith College 一年の円子ちとせ(まるこ ちとせ)です。

16歳までは横浜生まれ横浜育ちの根っからのハマっ子でしたが、高校2年の夏から、経団連さんが奨学金の支給・生徒の派遣を行なっているUWCという留学プログラムに参加させていただいた関係で高校最後の2年間をインドで過ごし、かれこれ留学生活三年目になります。おかげさまで、ナンや、汁っぽいカレーなども含め右手だけで食事ができる程度には、インド文化に染まり、電車や人が少々遅れても気にしない忍耐力がつきました。

UWC Mahindra College(高校)の卒業式での写真。(筆者は写真右)

大学では物理学を専攻予定ですが、数学、論理学、哲学、芸術など他にも興味のある分野が多岐にわたるので二重専攻に挑戦するべきか、副専攻を取るべきか、はたまた二重専攻、副専攻にこだわらず色々な分野の面白そうな授業をつまみ食いするべきか、というアメリカの大学ならではの贅沢な悩みを抱えています。

授業の他にはアルティメットフリスビーのチームに参加したり、物理学科の教授の宇宙が始まってから10^(-46)の宇宙の状態について研究に参加させてもらい、そのシミュレーションを走らせながらパソコンとにらめっこをしたりしています。

といった感じで、私の大学やインドでの生活については延々と語れてしまうのですが、今回はその中でも私の大学、Smith College での寮生活に焦点を当ててお話ししたいと思います。

寮の仕組み

スミスでは全校生徒が2500人程度であるのに対し、およそ40のハウス(寮)があります。ハウスごとにコミュニティと文化が存在するのはもちろん、エリアごとにも色々と特徴があります。私の独断と偏見による代表的な3エリアの特徴がこちらです。

Quad: パーティーや人との交流が盛んな人が集まることで有名なエリア。ただし、教室のあるエリアまで10-15分ほど歩いてかかる。
Green Street: 教室、図書館、ジム、運動場などに近いエリア。ダウンタウンへも比較的近くてとても便利な印象。比較的古い寮が多い。
Elm Street: 一人部屋の多い寮があり、ダウンタウンから最もアクセスの良いエリア。その他にも、ベジタリアンやビーガンなどに対応した食堂が集中しており、教室までの距離もそこまで遠くない印象

どのように寮が決まるかというと、入学前に30項目ほど(どのエリアに住みたいか?朝は何時頃に起きるか?などなど)のアンケートに回答し、それを元にハウス、部屋が割り当てられます。私は朝出来るだけ遅くまで寝てたいという、何にも代えがたい願望から教室から近いGreen Street を熱望し、結果Seelye Hallという多くの講義が行われる建物から20mにある、Hubbard と呼ばれるハウスを割り当てられました。2年生以降は同じ寮に止まる場合は、ルームメイトと部屋割りの希望ができ、出る場合にもどの寮に移りたいかおおよそ希望通りの寮に行けるという仕組みになっています。

教室から近いGreen Streetにある、Hubbardという寮(ハウス)

このように、大まかな寮の仕組みは他の大学と似通っていますが、実はスミスでは年度始めの最初の一ヶ月以降は、希望さえすれば部屋・寮を変えることができます。寮を変える理由はルームメイトとのトラブル、寮の文化が合わないといった理由や新しい人と知り合いたいなどと人によって様々です。このシステムには賛否両論があると思いますが、私は妥協せずに自分の住み良い環境(立地、コミュニティ)を追求できる素晴らしいしシステムだと思います。

住んでいる部屋の内装

自分の寮が優れていると思うところ

まず一つ目にあげられるのが、立地の良さだと思います。前述した通り、私の寮は教室からもダウンタウンからも近く非常に便利なのに加え、寮の建物の中に食堂が併設されているため、先日のような-25度の寒波が来ても、ご飯を食べに外を歩く必要はありません。

寮の建物内に食堂があるため、寒波が来ても外に出る必要がない。

また、これは私の寮というよりも学校自体の話になってしまうのですが、Five college consortium と呼ばれ、近くに提携している大学が合計で5つあり、それぞれの大学までの無料バスが出ていることなどから、近くの大学の施設を利用したり、それぞれの大学で開催される学会やコミュニティイベントに参加できたりと、色々な機会に恵まれています。

二つ目にあげられるのは、「ハウスティー」と呼ばれるイベントです。これは、Smithの伝統の一つにもあげられるイベントで、毎週金曜日にハウスメイトたちとお茶とお菓子をつまみながら談笑するというイベントです。他のイベントに比べ、参加率が比較的高めなので普段は合わない人も含め、色々な人と話せ、ハウスメイトたちと絆を深められる貴重なイベントです。ここでの話題は授業や教授の下馬評といったことから、「合意の伴うキャナビリズムは倫理的にありかなしか?」などといった突拍子もないような内容まで多岐に渡り、非常に興味深いです。

寮の文化

パーティーのような派手な形のイベントはないものの、ハウスでのコミュニティを大事にしている印象を受けます。毎週水曜に開催されるスタディブレークでは、ボードゲームやカードゲームを遊んだり、誰かがワークショップを企画して開催したりします。先週のスタディーブレークでは、「紙を三つ折りにして、3人で回すことで変なマスコットキャラクターを創ろう」という一風変わったワークショップが開催されました。このように、私の寮にはのんびりと平和なひと時を楽しむ文化があるような気がします。

ハウスでカードゲーム大会をしている様子

「紙を三つ折りにして、3人で回すことで変なマスコットキャラクターを創ろう」と一風変わったワークショップが開催されました。こちらはその完成作品です。

寮や大学の文化として感じること

リベラルな地域として知られる、マサチューセッツ州にあることもあり、非常にリベラル思想の強い文化であると感じています。また、女子大やLGBTQの割合の高いこともあり、性差別や人種差別といったことに対する問題意識は非常に強いと感じています。

例えば、ちょうど昨年の夏季休業中に黒人生徒が誤まってキャンパス警察に不審者として通報されてしまうという事件がありました。それを受けて今年のConvocation と呼ばれる入学式のような公式なセレモニーでは、有志の生徒たちが横断幕などを掲げ "Black lives matter (黒人の命も大切だ)"と叫びながら、大学側への抗議を始め、周りの生徒も呼応してスローガンを叫び、セレモニーが中止に追い込まれたことを鮮明に覚えています。

また、「彼氏がトランプ支持者だったから別れた」というようなジョークを話してその場にいる全員が笑うくらい、反トランプの立場をとる人が大多数です。個人的には、政治的立場の多様性に欠けるのではないかと疑問に思うことがあります(決してトランプ大統領を支持するわけではありませんが)が、LGBTQや人種差別などの問題に疎い環境で今まで過ごしてきた私にとっては、こういった思想を身をもって学ぶことができる良い機会だと捉えています。

こうした政治的思想の文化は大学外でも有名なので、そういった文化を好んで選んで生徒が入学してくることによって、こうした土壌が形成されているのではないかと思います。

それ以外の面では、のんびりと協力的な文化があると思います。総合大学と比べて、生徒数が少ない一方で、機会にはとても恵まれている環境なので、基本的になんでも「やりたい!」と声を挙げればやらしてもらえます。例えば、まだ一年生であるにも関わらず、秋学期に「研究をやってみたいです!」という内容のメールを3人の教授に送ったところ、3人ともオフィスに招いて丁寧に説明してくださりました。また、多くの教授が宿題をお互いに助け合ってすることを推奨しているので、生徒間でもお互いに助け合う文化が根強いように感じられます。

私にとっての寮生活

寮生活は、自分の視野を広げてくれる、教室とは一味違った「学びの場」だと私は思っています。授業や課外活動で得る交流関係は同じ授業や活動を行なっているように、似た様な興味を持ちがちです。しかし、寮生活では食と住という人間にとって必要不可欠なことを共にすることによって普段は知り合えないような人と交流することができ、想像以上に多くの学びがあります。

例えば、同じハウスに住むことをきっかけに仲良くなった友人たちの専攻は、数学、英語、歴史、工学、演劇、生化学、言語学、映画などと非常に多岐にわたります。実際に、ガメランという名前を聞いたこともなかったインドネシアのドラムの授業をとってみたり、近くにあるアマースト大学まで無料の絵画教室にいってみたらヌードモデルがいてびっくりしたりと、寮生活を通じて知り合った友人の勧めをきっかけに、今まで考えたこともなかったようなことを経験することができました。

こうして、自分とは異なる価値観を持った人々と交流することをきっかけに、自分が今まで見てこなかった世界を知ることができることが寮生活の醍醐味ではないでしょうか。


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