仙台遠征で2万歩歩いた話
【仙台遠征のついで観光を記録しているだけの雑文】
仙台遠征に行ってきた。
とあるロックバンドを追いかけ回すようになって随分経つ。追いかけ回すといっても、大抵のライブは東京名古屋大阪、または彼らの本拠地秋田県で行われるので、全国津々浦々を飛び回っているというほどではない。関西人でありながら異様に秋田空港に詳しくなっただけである。そろそろ空港ログインボーナスが貯まっても良いと思う。
そんな彼らが、久しぶりに仙台でワンマンライブを行うことになった。
ライブがあるなら遠征する。シンプルな話である。
ただ、彼らの仙台が久々だということは、私の仙台も久々だということだ。
そんなわけで、ライブ前という限られた時間ではあるが仙台を楽しむことを決意した。
2023年秋の仙台遠征記、開幕である。
朝一の飛行機で仙台空港に降り立った。えらく混んでいるなと思ったら、どうやら大口のライブと重なっていたらしい。私が乗った便だけでなく、その日は終日満席というとんでもない混雑であった。道理で宿選びに苦労させられたわけである。
空港から電車で仙台駅へ。更にホテルへ向かい、荷物を預けて身軽になる。それにしても仙台駅周辺、なんて複雑な構造なのだろう。歩道橋や地下道で立体的に入り組んでいて、渡りたい道が絶妙に渡れない。おまけにGoogleマップの指示した道が通り抜け禁止だったりする。地図で見ると単純な道のりなのに、変に回り道をさせられてしまった。のちにこの立体構造に泣かされることになるのだが、このときの私はまだ知らない。
仙台といえば牛タンである。目をつけていたお店が開くまでにはまだ時間があったのだが、場所を確認しておこうと思い向かってみた。すると自動発券機が既に受付を開始している。ラッキー。運良く1桁台を手に入れた。整理番号1桁。バンドファンにとっても夢のような数字である。
開店までの間、駅近くの展望台に行ってみた。あいにくの曇り空だったが、まっすぐ遠くまで見渡すことができて楽しかった。
ショッピングモールをひやかしているうちに開店時間が近づいたので、再度牛タン屋さんへ向かう。その頃にはなんと50組待ちになっていて二度見した。先に発券した自分、グッジョブすぎる。
タンはさっくりと歯切れが良くて美味しかったし、大ぶりの柔らかいお肉が2つも入ったテールスープは想定外の伏兵だった。牛タン定食、ごちそうさま。
食後の腹ごなしに歩くことにした。向かうは駅の東側、榴岡天満宮である。
遠征先に神社があればお詣りすることにしている。御朱印を集めているからなのだが、遠征先の土地の神様と縁を結んでおきたい、という理由もある。遠征先の神様にちゃんとご挨拶をしておくと、またその場所に来られるような気がするのだ。遠征を続けるための、ライブに参戦しつづけるための、いわば願掛けである。
更に言えば、私はもともと教育関係の仕事を長くしていた身でもあった。学問の神様には、少しばかり思い入れがある。
5円玉でご挨拶をする。
天満宮で願うことはいつも決まっている。すべての受験生の努力が正当に報われますように、だ。
御朱印を頂くため窓口へ伺うと、番号札の代わりに掌サイズの木札を手渡された。将棋の駒のような形で、月桂樹の絵が描かれている。きっといろんな種類があるのだろう。お洒落である。
御朱印は、見開きいっぱいの立派なものだった。あとで神社のHPを見たところ、「御朱印の揮毫をご希望の方は……」と書いてあり、なるほどこれは揮毫と呼ぶに相応しい、と深く頷いた。
なんだか昔のことを思い出して、しばらく感傷に浸っていた。
隣の榴岡公園を越えて資料館に行くつもりだったのだが、遠足と思しきこどもたちで混雑していたので遠慮することにした。楽しみを次回に残しておくのも悪くない。
さて、次である。
ひょうたん揚げを食べにいくことにした。なんでも、かまぼこ入りのアメリカンドッグのようなB級グルメらしい。面白そうである。天満宮からは歩いて30分ほど掛かるのだが、そのくらいの距離なら苦にしない。
商店街を眺めながら散歩のつもりで歩いていると、途中で大道芸に遭遇した。なんと、日光さる軍団からやってきた猿まわしである。お姉さんと猿くんのコンビだ。運が良い。
20分ほどのショーを最前列で楽しんだ。猿くんが賢くて可愛かったのはもちろんなのだが、お姉さんの話術もさすがの面白さだった。どんどん観衆を煽ってくれるので場が盛り上がり楽しかった。良いものを見た。
満足したところでひょうたん揚げである。ほんのりと甘くてかまぼこもふわふわで、思っていた以上に美味しかった。これはハマりそうだ。かまぼこの概念が変わった。
あたりが出るともう1本貰えるらしいのだが、はずれだった。残念。また来なければ。
もぐもぐしながらGoogleマップを眺める。仙台駅に戻ってお土産を物色しようかなと思っていたのだが、途中で仙台朝市を通れることに気付いたので更に足を伸ばしてみることにした。
仙台朝市。朝市と銘打っているが、生鮮食品の商店街である。
美味しそうな魚や野菜に目移りする。夜がライブでなければお刺身を買ってホテルで飲んでいたかもしれない。いや、お酒には弱いのだが。
地元関西では見たことのない魚介類も並んでいた。その中のひとつがこちらである。
もうかの星。モウカザメというサメの心臓だそうだ。
レバ刺しに似た風味だそうだが、生憎レバ刺しも経験が無い。「ここですぐ食べられるよ」「食べたことないならチャレンジしないと!」という威勢の良いお兄さんお姉さんにつられてまんまとお買い上げした。
塩と胡麻油を混ぜたタレにつけて、ひとくち。
「……! おいしい!」
赤身の歯応え。食べたことはないが、馬刺しってこんな味がするんだろうな、と思った。ごはんかお酒が欲しい。
「勧めてもらわなかったらスルーしてました、ありがとうございます!」
「お姉さんが『これなんですか』って訊いてくれたからだよ!」
関西から来たと言うと、お兄さんは朗らかな笑顔で、今度自分も大阪に行くのだと教えてくれた。ハーレーのイベントだそうだ。遠征仲間である。
思わぬ珍味を味わいつつ、市場を散策して駅へ向かう。タンを食べたり心臓を食べたり、なかなか食に攻めた1日である。
途中、お団子屋さんを見つけたので1パック購入した。ずんだ、黒ごま、くるみの3本入りだ。1本は夜食に、残りは明日の朝食代わりである。
ところで、ライブが始まるのは大体「晩ごはんの時間」だ。だからライブの日は、夕方頃に早めの夕食を摂ることにしている。
秋の仙台といえばこれである。はらこ飯。
鮭と一緒に炊き込んだごはんに、鮭とイクラをトッピングした丼である。ふっくらと柔らかい鮭にぷちぷち弾けるイクラ、幸せである。
お腹を満たしたところでホテルにチェックイン。
必要最低限といった印象のシンプルでコンパクトなホテルだったが、清潔でお洒落だった。機会があればまた泊まりたい。
身支度を整えていよいよライブに向かう――のだが、遂に事件が起きた。
ホテルは駅の西側、ライブハウスは駅の東側。仙台駅を通り抜けていけば良いなと気軽に考えていたのだが。
迷った。
昼間に一度通ったはずのコンコースにどうしても辿り着けない。地下を通ればどこかに出られるのではと思ったのだが、新幹線改札に阻まれて東に抜けられない。
困り果て、半べそをかきながら地下街で道を訊いた。
「駅の東側に抜けたいんですがどうしたら良いですか……」
和菓子屋さんのおばさまは、気の毒そうな顔をしながら丁寧に教えてくださった。慣れた調子だったのでよく訊かれるのだろう、と思った。
結局最短ルートは2階に上がることだった。地下ならどこの出口にでも繋がっているだろうと思ったのはとんだ勘違いだったらしい。梅田なら地下一択なのにと涙する。
無事にコンコースに出て駅を横断し、ライブハウスに到着した。気がついたらiPhoneの歩数計が2万歩を指していた。
ライブは大盛り上がりで終演した。仙台でのワンマンは10年ぶりだったそうである。
翌日の帰路は昼前の飛行機を取っていた。早めにチェックアウトして空港に向かう。わらび餅入りのずんだシェイクを飲み、お土産を物色する。ずんだ餅と喜久福と、昼食用に牛タン弁当を買った。
かまぼこを買おうかどうかぎりぎりまで悩んだのだが、やめた。実は2週間後にも仙台遠征の予定があるのだ。ガチ勢ここに極まれり。そろそろバンドメンバーに呆れられているような気がする。
かまぼこと萩の月は、次回にとっておこう。楽しみがまだあるというのは、まことに良いことである。
それでは仙台、また来月。
終演!
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