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インターネットと子ども

 現代社会における子どもの生活環境として、スマホやインターネット、テレビなどの電子メディアは無視できない。メディアとは一般的には伝達のための手段・ツールといった意味であるが、より究極的には、人間が生きる上での基本的な空間をつくりだす「媒質」である。媒質とは、力や波動などの物理変化を伝える役割をするものを指す言葉であり、音は空気という媒質が存在してはじめて伝わっていく。このような意味で考えれば、現代社会では電子メディアが媒質となって独自の時間的な空間が構成されており、それが人々の日常生活となって、そこでの人間関係や自己認識を大きく決めている。
   例えば、スマホはごく親密な間柄での閉じられたコミュニケーションを可能にした。今では多くの中学生や高校生がSNSやメールでやりとりしているが、そこにはやりとりをしている相手だけとの閉じられた空間が成立している。このような空間は、自宅に固定電話が1台あるだけの時代には考えられなかった事態である。

  日本では1960年代になるとテレビが一般家庭に急速に普及した。テレビの普及の影響について、N・ポストマンという方がテレビが子ども期という年齢区分を消滅させたと指摘した。この人によれば、それまでの活字メディア主体の社会では、文字能力を身につけた大人だけが情報にふれることができ、子どもは大人からそれを教えてもらうしかなかった。そしてそれは大人と子どもの間を区分して、両者のあいだには教える・教えられるという上下関係を生み出した。しかしテレビが普及することにより、誰しもが情報にアクセスすることが可能になり、大人と子どもの基本的な関係のあり方が変化して、子ども期は消失していくとポストマンは指摘した。まさに媒質の変化が大人と子どもの関係を変えたのである。
   さらに、インターネットの発達により、子どもが多様な情報にアクセスすることがテレビ以上に容易になった。インターネットでは、自分の欲しい情報が瞬時に検索できる。インターネット環境下では、センシティブな情報やさまざまな不道徳な行為に関する情報に、子どもたちはかつてないほど容易にふれることができるようになった。

  現在の子どもにとって最も重要なアイテムのひとつはスマホである。ただし、中高校生にとってのスマホとは、通話よりももっぱらメールやSNSからのメッセージを送受信するためのアイテムであり、あるいは写真や動画を撮ったり、ゲームをしたり、音楽をダウンロードしたりといった多機能型の携帯電話という小道具である。スマホとはメディアであるとともに、遊び道具でもある。

  専門家によれば、スマホを通じて若者たちがごく親しい友だちや彼氏彼女など特定の相手とひんぱんにコミュニケーションしていることを、フルタイム・コミュニティという概念で説明している。つまりスマホを通じて若者たちは、相手といつも一緒にいるような親密な心理的共同体を形成しているというのだ。ただし中高校生について言えば、スマホによるつながりの他に学校の教室や部活動などでも友だちとつながっている。その意味では現在の彼らの生活は、学校においても帰宅後も「友だちと常に接続」状態に置かれているのかもしれない。
   スマホやパソコンを通じて、多くの子どもがネット空間上で積極的に自己顕示欲を満たすことを行なっている。例えば、専門家の調査では、調査対象となった高校生の4割以上が毎日の出来事や感じたこと考えたことを書きつづるブログ・掲示板や自己紹介のためのプロフをつくっていた。
   なお、SNS・ブログ利用は高校生女子が抜きんでており、先の調査では自分のブログやSNSアカウントをもつものが8割を超えていた。また、このことは偏差値による学校タイプで大きく異なっており、進学校にくらべて進路多様校ではSNSアカウントやブログをつくっている生徒が多い。そのリスクはときどき指摘されるところであるが、むしろここではメディアの変化が自己顕示欲の満たすためのあり方や子ども同士の関係を変化させていることを指摘しておきたいと思う。

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