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読書日記その540 「近藤勇白書(上)」

試衛館時代〜新選組結成〜芹沢鴨静粛〜池田屋事件〜禁門の変

狂瀾怒濤の風雲うずまく幕末。おのれの正義をつらぬきながら一心不乱にかけぬけた若者集団「新選組」の局長、近藤勇のものがたりだ。新選組といえば土方歳三、沖田総司、斎藤一や永倉新八がよく描かれるが、局長である近藤勇はなぜか影がうすくなる。本書はそんな近藤勇を中心に描かれた数すくない作品だ。

池波先生の描く近藤勇。それは厳しさと優しさの両方をかねそなえた人間味あふれる姿で、とても魅力的だ。それもそうだろう。最盛期では200人を超えるほどの大勢力の頂点にたった男だ。並大抵の男ではつとまらない。

どこか臆病で慎重な面があるかと思えば、飯田金十郎との真剣での勝負では、一歩もひかずに圧倒してしまう。これには沖田総司も感嘆し、いざという時はこれほど頼りになる男はいないと、尊敬の念をいだくようになる。

近藤の優しさは芹沢暗殺のときにもあらわれる。芹沢鴨の一派にひきこまれていく永倉新八。土方は、永倉もふくめた芹沢一派を暗殺しようとするが、近藤は試衛館時代からの同士である永倉を死なすわけにはいかないと、永倉の袖をひいて自分のそばから離れないようにする。ここに冷淡な土方とは対照的な、人間味あふれる近藤が描かれている。

また池田屋事件では、そこには底しれぬ豪胆さをもつ近藤がいる。30人ほどの長州藩士に対して、新選組は近藤隊の10人。当初の情報では、もうひとつの四国屋のほうに敵が多いということだった。そのため、四国屋を襲撃する土方隊のほうに人数をおいたのだ。ところがフタを開けてみれば長州藩士全員が池田屋に。

このような状況ではおそらく多くの人が、土方隊と合流してからのほうがいいと考えるだろう。しかし現代のようにケータイで連絡というわけにはいかない。近藤は躊躇することなく、このわずかな手数で踏みこむことを決断する。そして先頭に立って猛虎のように斬りこむのだ。

組織の長に欠かせない資質に、「決断力」「行動力」がある。近藤にはその資質が抜きんでていることがうかがえる。やはり他の隊士からみたら、近藤のこのような性質が、彼を局長として認めるところなのだろう。よって新選組局長は近藤勇をおいて他にいないのだ。そしていざという時にはこれほど頼りになる男はいないであろう。

ともあれ、この池田屋事件の壮絶な斬りあいの躍動感あふれる文章は、まさに池波先生の真骨頂!晩年の永倉の回顧録も交えて描かれているのは、まさに時代の表舞台に疾風のごとく躍りでてきた若者たちの姿だ。いやはや、知命をすぎたおっちゃんには読んでてなかなかに興奮をおぼえる。

冷徹で鬼の副長とも呼ばれた土方とは対照的に、温良優順でありながら、いざという時にはもっとも頼れる男、近藤勇。

めっちゃいいがなぁ〜、局長!

ワイ、局長に一生ついてきますッッ!

そして下巻へ。


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