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これで外国語が面白くなる!多言語のはなし

基本的に人類が苦手だから、異民族はもっと苦手。だが多言語に手を出す。
−−なぜか?
ひとえに、母国語にない表現と概念を輸入するためである。
だから、世界中に友達ができる!とか、現地の人と話せる!とかは、実はどうでもいい。

現状、母国語だけで十分生きていけるし多言語なんて面倒くさい、と思う。勉強すればするほどそう思う。言語なんて学べば学ぶほど分からなくなる。できればやりたくない。
だけど、日本語なら長々と言葉を重ねたり、それでも表現できなかったりする事象が、他言語では一語で表せたりできるのだから、言語化スペシャリストを標榜する身としてはどうして手を出さずにいられようか。
多言語にハマる理由はどうやらそれだけらしい。
なお、語学習得の才能はないもよう。

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閑話休題。前置きが長くなってしまったが、本題に戻ろう。

1.母国語にはない概念の輸入とは?

簡単な例をあげよう。
「耳から音声情報を得る」動作について、考えてみる。
日本語では、この動作を表す言葉は「きく」という単語しかない。しかし、英語では通常この動作をlisten, hear, askなどに区別する。
もちろん、日本語にも傾聴などlistenに相当する言葉はある。ただ、これも「きく」という動作を細かく説明しているだけであって、英語の世界観では、日本語ではひとまとめにしている“耳で音をとらえる動作”に対し、意志の有無で違う動作として扱うのである。(意志を大事にする英語らしいといえばそうなのかもしれない。)

言語によって細分化する分野とあまり区別しない分野は様々であり、上記のようなことは頻繁に発生する...というよりもそれが「言葉が違う」という状態であり、言語間距離が遠いほど、翻訳した場合にはほとんど原文のもつニュアンスが失われていることも少なくない。言語が違うと、見ている世界観が基本的に全く違うと思っていた方がよく、翻訳物は別の作品だと思った方がいい場合もある。

単語数の多さは興味や必要性に比例するから、例えば遊牧民族の多いところでは家畜に関する単語が多くなり、日本語にはない動詞がいっぱいあったり、成長段階や状況によって細かく名前が変わったりする。多言語学習でつまづくのは、こういった自文化では区別しないものを区別する場合にその感覚を体感で理解できないときだ。その言語を学ぶまではそれを区別するという発想そのものがなく、辞書や文法解説書を読んで理解はできでも体得するのは難しい。ただ、だからこそ、体得できたとき世界がぐっと広がるのである。

2.人称代名詞の迷宮

日本語に対して英語は人称代名詞が極端に少ない。対象がハッキリすればそれでいい、というスタンスであり、人称代名詞からは気持ちや関係は読み取れない。
ロシア語も基本的には英語に近い考え方をする。ところが、youだけは2種類に分かれる。親しい人へのyou(Tы)と、そうでない相手へのyou(Вы)があるのだ。
ロシア語は主語によって動詞も変化するから、主語を省略して誤魔化そうとしても、Вы扱いかТы扱いかはうやむやにできず、この2つはかなり意識的に使い分けることになる。そして、「相手をВыと呼ぶかТыと呼ぶかを悩む」、「相手にТыまたはВыと呼ばれて喜ぶ/不快になる」という事態が起こる。
相手をВыと呼ぶかТыとするか、相手にВыと呼ばれるかТыと呼ばれるか…。それに悩むことが物語の要素になったりする世界なのだ。

その点、日本語は迷ったら省略してしまえばいいから楽だ。
とはいえ、日本語の人称代名詞の多さは異常である。
君、あなた、貴方、お前、あんた、自分、手前、...etc。人称の違いだけで、ある程度の人物像や関係性が分かる優れものだから仕方ないのかもしれない。でも、それぞれの人称代名詞の違いを習得するのはさぞ大変だろうなと思いながら、今日も人と会話しながら密かにВыとТыの使い分けを考えているほかるである。

3.最も理解できないもの:挨拶

誰しも外国語を学び始めるときに最初に覚えるのは挨拶ではなかろうか。
しかし、この挨拶ひとつとっても、というよりも日常的に使う言葉の方が謎は深く、分かったつもりで分かっていないことが多々ある。
おはようございますとgood morning!が同じ意味ではなかったり、ずっといい天気のタイでは「いい天気ですね〜」みたいな会話のスタートができなかったりするのが良い例である。挨拶は、一番難しい。

とはいえ、good morningのように「良い」+〇〇(時間帯を表す言葉)」で完成する言語も多い。これは簡単だ、と思うかもしれない(確かに日本語のさよならの意味を説明するよりは簡単だ)。ただし、この場合、この"時間"の感覚は、和訳した感覚とは違う場合があるから要注意だったりする。

英語では「良い朝」「良い午後」「良い夕方」「良い夜」となり、
朝:日の出〜正午
午後:正午〜夕方
夕方:日没〜就寝
夜:就寝〜日の出

ロシア語では「良い朝」「良い昼」「良い晩」「良い夜」の挨拶があり、
朝:日の出〜正午
昼:午後
晩:夕方〜真夜中
夜:真夜中〜日の出
となるようだ。

「良い+時間帯」系の挨拶は、「いつ働いて、いつ遊ぶか」といったような、それぞれの文化の生活サイクルと密接しており、それを含めて理解するには途方もなく長い道のりになるが、Poco a Poco、急がず焦らず、広い世界へ参ろうではないか。


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他言語といいつつ、結局ロシア語中心の話になってしまった。
他の言語についてももっと語れるように精進したい。


退職理由にเบื่อแล้ว(ブア・レーオ※)と書ける世界を目指して ほかる 

※タイ語で「飽きてしまった、うんざりだ、もうダメだ、絶望した」というニュアンスをもつ言葉。

最後までお読みいただきありがとうございます♪