原尞が死んでいた

今頃になって
原尞が死んだことを知った。
今年23年5月4日、
死んで半年が経っていた。
身元不明の遺体を
半年間も放っておいた、
そんな気持ちになった。

原尞が遺した長篇の
ハードボイルド作品は5冊。
『そして夜は蘇る』
『私が殺した少女』
『さらば長き眠り』
『愚か者死すべし』
『それまでの明日』

いずれも私立探偵沢崎が
事件を解決する物語。
30年間にわずか5冊、
いずれも読み応えがあった。
沢崎は名字しか明かさない、
寡黙なタフガイである。
次はどんな事件になるのか。

原尞は推理作家になる前は
ジャズピアニストだった。
それだけでいかしてるのに、
チャンドラー作品を愛読し、
試しに書けば直木賞である。
賞と人気に浮つくこともなく、
じっくりと骨太の作品を書いた。

作家としての有り様が
まさにハードボイルドだった。
次回作は2030年頃かと
思っていたのに死んじまった。
ファンを裏切る突然の死もまた
ハードボイルドだからか。
それにしても突然すぎる。

作家が死ねば
主人公も一緒に死んでしまう。
原尞が死んで沢崎も死んだ。
どうせ死ぬならきちんと
殺されて欲しかった。
病死はいかんぜよ。
未完の遺作は遺ってないものか。
チャンドラーの
『プードル・スプリングス物語』のように。