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『自省録』は私たちの人生の錨となってくれる一冊|齋藤孝『図解 自省録』より

第16代ローマ皇帝マルクス・アウレリウス(西暦121~180年)は、5賢帝のひとりであり、プラトンのいう理想の国家君主「哲人王」にもたとえられる人物。彼は、日々の思索と内省をメモのような散文として書き残しました。のちに『自省録』としてまとめられたストア哲学の薫り高い約500の断章から80篇を選び、齋藤孝先生がわかりやすく解説した新刊図解 自省録(2023年12月26日発売、ウェッジ刊)より、その一部を転載します。

図解 自省録』齋藤孝 著(ウェッジ)
2022年12月26日発売

いまの時代は、毎日の生活を送るにも、ストレスが増えています。気候変動の影響も大きくなり、各地で戦争が起き、また生成AIも出てくるなど、世の中もどんどん変化していく。「どこか生きにくい、自分の心が保ちにくい」と感じている方も多いのではと思います。

そうしたとき、マルクス・アウレリウス・アントニヌス(以下マルクスと略)の『自省録』は、ちょうど船の「錨」にあたるものとなります。激しい風が吹いたり波が荒れたりしても、錨を下していれば、船は漂わずに一定の位置に停泊できます。現代の私たちにとって、『自省録』とは、人生の錨となる本なのです。

そのわけは、ふたつあります。

ひとつは、『自省録』に記されている考え方が、「常に自分の内面と対話して、自分自身をしっかり保つ」という思想で貫かれている点です。そして「外部にわずらわされずに自分を保ち、理性の力を信じよう」というメッセージが、各所に込められています。

こうした信条を、マルクスは繰り返し説いています。私たちはそれを何度も読んでいるうちに、心持ちが次第にしっかりと、強くなってくる。「自分の中に、理性という存在があるのだ」と、感じることができるようになります。そこが、素晴らしいところです。

ふたつめは、マルクスと私たちの共通点です。

古代ローマ帝国の五賢帝の最後、マルクス・アウレリウスが生きた時代は、周囲の民族が国境を越えて侵入しはじめ、それを防ぐため戦争が絶えませんでした。

ほんとうは哲学者になりたかったマルクスは、戦乱や政務など、現実の厳しい環境の中、自分の理想と現実のあいだで、引き裂かれる日々を送っていたのです。

厳しい日々にあってもマルクスは、自分の信じる哲学に忠実な生き方をしたいと願っていました。そうした願いは『自省録』の中にも、しばしば読み取ることができます。

実は、マルクスの置かれたこうした状態は、いまの私たちにも、共通するものがあるのではないでしょうか。

ほんとうにやりたいことがある。でも、いま目の前にある仕事、課されている役目を果たしていかなくてはならない。騒然とした世の中、いろいろと思いどおりに行かない人生の中で、どのように自分を保ったらよいのか、どのようにして人生を意味あるものとするか。

こうした切実な思いに、『自省録』はいろいろなかたちで、応えてくれると思います。

マルクスは、ストア哲学*を、生きるためのよりどころとしていました。そして、ただ考えるだけでなく、その考え方を実際の生活に活かしつつ、実践的に哲学を生きた人です。ですから、『自省録』はストア哲学の、よき実践例ともなっているのです。

*ストア哲学:前3世紀から2世紀にかけて500年以上、ギリシャ、ローマで大きな影響力をもった哲学の学派。「自然に従って生きる」ことを、最も大切で根本的な生き方と考える。

さらにストア哲学だけでなく、そこにはマルクス自身の人生観も込められています。「人生ははかない。一瞬である」といった、自身の人生経験からくる感慨が、この『自省録』独特の、魂に訴えてくる表現となって結実しています。

また、考え方の筋道だけでなく、ちょっとした表現や言葉遣いにも、マルクスの息遣いが感じられるような、温かさや魅力があります。彼が自分に向かって語りかけた言葉ですから、私たちはそれを自分たちに語りかけられた言葉として、素直に読むことができるのです。

このように哲学的な思考を、自分自身の体験とすり合わせて深め、自己を形作っていった人物、それがマルクス・アウレリウス・アントニヌスであり、そのつぶやきが、『自省録』なのです。

この本では、数多いマルクスの言葉の中から、日々の生活や人生を考えさせる、印象的な箇所をセレクトしてみました。元の文章では、複雑でわかりにくい表現もありますが、マルクスの考えたこと、いいたいことを、なるべくシンプルなかたちで取り上げて、現代の私たちに届く言葉、メッセージとして再構成したのが、この本です。

各項目を読み進めていくと、「あ、これは前の項目と重なるな」と思われることもあると思います。

マルクス・アウレリウス・アントニヌスの思考は、すべてが有機的につながっています。しっかりとした幹が思考にあります。

この「思考の一貫性」を、読み進めながら、身に落としこんでいってもらえれば、日々のふとした瞬間に、『自省録』の思考が助けになってくれると私は信じています。

齋藤孝先生の新刊『図解 自省録』では、原文の現代語訳を抜粋して掲げたうえで、その内容を図解とともにわかりやすく解説しています。この機会に、時代を超えて読み継がれてきた『自省録』の考え方を吸収してみてはいかがでしょうか?

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齋藤 孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授。1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て現職。専門は、教育学、身体論、コミュニケーション論。『書ける人だけが手にするもの』(SB新書)、『声に出して読みたい日本語 音読テキスト③ 歎異抄』(草思社)、『図解 歎異抄 たよる、まかせる、おもいきる』(ウェッジ)など著書多数。

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