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光源よ〜連城三紀彦『瓦斯灯』(1983)

 2021年12月28日、連城三紀彦の子猫にまつわるエッセイについて感想を書いた。
 訂正したい。
 1985年頃にこの作家の名前を初めて聞いたと書いたが、これは間違い。もっと早く、1980年、81年頃だった。
 その2年は、当方の大学3、4年次に当たる。ゼミの友人から、「『暗色コメディ』と『変調二人羽織』が凄い」と、聞かされたのだった。
 聞き流したから、そのうち忘れてしまったのだと思う。40年も経って、ふと場面が甦った。
 ところで、『変調二人羽織』を含む愛読した講談社版単行本の装画・装釘は、村上昂という人の手による。独特の耽美的な絵を見れば、「あぁ」と思い出す年配の方々もいるはず。画伯は2022年に、100歳で逝去している。ごく最近である。
 装いが印象的なそれら講談社本は全5冊。全て数十年前に手放してしまったが、近年、古書店などで見つけたものをぼちぼちと買い直しつつある。とりあえず、『密やかな喪服』『瓦斯灯』『夕萩心中』の3冊が手元にある。
 いずれも中短編集で力作揃い。昭和時代にしか現れないと思わせる作品群である。『戻り川心中』『変調二人羽織』も手に入れたい。
 再入手済みの『瓦斯灯』は、偶然ながら連城氏の署名入りである。氏の文章を彷彿させる流麗な文字が、和服姿の女の子の挿画横に添えられている。右手に花枝を持つその少女は、言うまでもなく村上昂氏の造形である。
 連城氏もすでに他界。本を開く度に、「連城三紀彦」の縦書きサインが、我が眼球に迫って来るような。
 『瓦斯灯』は愛の物語である。男女の相思を巡って純心、諦め、裏切り、疑い、誤解が錯綜。長きに渡る時間軸において、瓦斯灯のイメージが性愛をぼんやり浮かび上がらせている。
 かつて、街を、そして内に秘めた愛に苦しむ男女を照らしていた灯り。夜景に「数珠のように」連なっていた光源は何処へ。
 それでも、女は「火」を見続けるのである。
 
 
 
 
 
 
 

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