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著…貴志祐介『青の炎』

 「大切な家族を守りたい」

 それは多くの人が抱く願いですよね?

 けれど、この小説の主人公はその願いを叶えるため、罪を犯します。

 そして…。

 ※注意
 以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。



 この小説の主人公は、男子高校生・秀一。

 彼は、大切な家族を守ろうとして、人を殺してしまいました。

 自分が犯人だと露見すれば、ネットなどで自分だけでなく家族まで晒し者にされる…。

 彼にはそれが分かっていたので、計画を練り、完全犯罪を目論みます。

 しかし、完全犯罪など存在しません。

 驕った彼の犯行はどんどんボロが出て、すぐに警察は彼を疑い始めます。

 明日には警察へ行って全てを白状しなければならない…という瀬戸際になった時。

 彼は悪夢を見ました。

 マスコミが自宅まで押し寄せ、家族へマイクを向け、容赦なくフラッシュを焚き、ネット上では自宅の住所や電話番号や家族構成などが暴露される…という悪夢を。

 夢から覚めた後、彼はある重大な決断をしました。

 そして…。

 …。



 続きが気になる方は、是非読んで確かめてください。

 ずっと前に書かれた作品なのに、今読んでも、肩をわし掴みにされて大きく揺さぶられるような眩暈を覚えます。

 …正直言って、読んでいて気持ちの良い小説ではありません。

 誰も幸せにならないから。

 彼の友人が語った、

 「瞋恚(しんい)は、三毒の一つなんだよ」

 「一度火をつけてしまうと、瞋(いか)りの炎は際限なく燃え広がり、やがては、自分自身をも焼き尽くすことになる」

(著…貴志祐介『青の炎』 単行本版P266から引用)


 という話が、この小説のタイトルと繋がっています。

 その瞋りの青い炎に自分や周りの人が焼かれることが、わたしにもこの先全くないと言えるかどうか…。

 この小説を読んでいると、そんな想像もして、じわじわと怖くなってきました。

 加害者になるのも、被害者になるのも、他人事ではないのだ…と。

 …この小説の主人公は、家族を守るためだったとはいえ、人殺しです。

 本来なら、同情の余地はありません。

 彼を追い込んだのは、まさしく彼。

 けれど…、彼が殺人を犯すに至った不幸な境遇や、周りの大人たちが彼を孤立させた状況が、なんだか現実の犯罪を目の当たりにしているようで、非常に考えさせられます。

 少なくとも彼には、殺人以外の選択肢が無かった。

 周りの大人たちは誰も救いの手を差し伸べなかった。

 彼だけが悪いのか?

 周りの人々は、彼やその家族のためにもっと何か行動出来なかったのか?

 どうすれば、彼は人を殺すことなく、家族と一緒に暮らせたのだろうか?

 …と。



 〈こういう方におすすめ〉
 犯罪に手を染める人間心理と社会問題を描いた小説を読みたい方。

 〈読書所要時間の目安〉
 3時間くらい。

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