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著…江戸川乱歩『黒蜥蜴と怪人二十面相』

 妖艶な殺人鬼『黒蜥蜴』の美しくも恐ろしい物語と、『怪人二十面相』のドキドキワクワクの冒険譚を収録した文庫本。


 ※注意
 以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。


 左腕に黒蜥蜴の入墨をいれ、黒ずくめにドレスアップし、宝石を身につけ、まるで薔薇が咲き誇るかのように赤い唇をした女が、

 「不意打ちなんて卑怯なまねはしたくないのよ。だから、いつだって予告なしに泥棒をしたことはないわ。ちゃんと予告して、先方に充分警戒させておいて、対等に戦うのでなくっちゃ、おもしろくない。物をとるということよりも、その戦いに値打ちがあるんだもの」

(著…江戸川乱歩『黒蜥蜴と怪人二十面相』から引用)

 と言って、私立探偵・明智小五郎に挑む…。

 この設定を聞いただけでもワクワクしますよね!

 黒蜥蜴が変装の名手なのも素敵。

 また、『黒蜥蜴』の作中に人間椅子が出てくるのも、乱歩ファンとしては思わずニヤリとしてしちゃいます。

 黒蜥蜴が所有している美術館の妖しさ満点の雰囲気も堪りません。

 この美術館に展示されているのは、黒蜥蜴が蒐集した、宝石、名画、仏像、大理石像、古代工芸品、そして…美しい男女の剥製!

 黒蜥蜴は美しい人間を捕まえては、永遠に年を取らないお人形に変えてしまうのです。

 黒蜥蜴が、拐ってきたばかりの美しいお嬢さんを檻の中の美しい男に見せて、

 「どこの動物園へ行って見ても、猛獣の檻には大てい牡と牝とがお揃いでいるものだわ。あたし、もう先から、あんたにお嫁さんをお世話しなけりゃと思って、いろいろ心がけていたのよ。そして、きょうやっと、その花嫁さんをお連れ申したってわけなの」

(著…江戸川乱歩『黒蜥蜴と怪人二十面相』から引用)


 といかにも楽しそうに言い放つシーンは、読んでいてゾッとするのですが、江戸川乱歩ワールドの真骨頂でもあります。

 また、『怪人二十面相』の世界も、まさに江戸川乱歩ならでは。

 作中に小林少年や少年探偵団が出てくることも見所の一つなのですが、何と言ってもまず、怪人二十面相のキャラクター設定が素晴らしいです。

 誰がどんなに近寄って眺めたとしても、その正体を見破れない。

 いくつもの全く異なる顔を持つ人物。

 誰も怪人二十面相の本当の顔を知らない…。

 黒蜥蜴と同様、前もって盗みの予告状を出すのが特徴。

 ただし、黒蜥蜴と違って、怪人二十面相は血が嫌い。

 人を傷つけたり殺したりはしない…。

 かといって、そこはやはり盗人なのですから、怪人二十面相が善人というはずもなく、怪人二十面相は盗みの被害者にこんな手紙をよこしたりします。

 「昨夜はダイヤ六顆確かに頂戴しました。持ち帰って、見れば見るほど見事な宝石、家宝として大切に保存します。しかし、お礼はお礼として、少しお恨があるのです。何者かが庭に罠を仕掛けて置いて、僕の足に全治十日間の傷を負わせたことです。僕は損害を賠償してもらう権利があります」

(著…江戸川乱歩『黒蜥蜴と怪人二十面相』から引用)


 …と。

 何それ!?

 こっ、これはモンスターペアレントとかモンスターカスタマーならぬ、モンスター怪盗!?

 人から物を盗んでおいて、その被害者に対して「賠償してもらう権利があります」だなんて、盗人猛々しいにも程がありますね!

 賠償する相手が逆ですよ!

 …ところが、今の世の中、こうした訳わからん苦情もどきを言うモンスター某が数えきれませんよね。

 苦情としての正当性が全くない言いがかりを声高に主張する、頭のおかしなクレーマーの多いこと多いこと…。

 もし江戸川乱歩が今の世の中の嘆かわしいさまを見たら、何とおっしゃるでしょうか?


 〈こういう方におすすめ〉
 江戸川乱歩作品のめくるめく変態ワールドを堪能したい方。

 〈読書所要時間の目安〉
 3時間くらい。


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