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著…吉村昭『羆嵐』

 肉食獣にとって人間は「食べ物」なのだ…と、思い知らされる本。

 ノンフィクションと呼ぶべきか小説と呼ぶべきか分かりませんが、物凄い臨場感。

 この本を読むと、自分が今まさに三毛別羆事件の現場に居合わせて、生態系における圧倒的強者と対峙しているかのような恐怖を覚えます。

 かなり残酷な描写が多いので、心臓が弱い方にはおすすめしません。

 クマの前では、どんな人間も無力。

 人間には、鋭い牙も、爪も、凄まじい顎の力も、腕力も、巨体も、足の速さも無いので、生身の人間はクマに全く太刀打ち出来ません。

 武器があれば、少しはクマに抵抗することが出来るけれど。

 武器を扱う優れた技術と経験を持った人間でも、一瞬でも隙を見せればたちまちクマの餌食。

 人間の血肉の味を知ってしまったクマなら尚更、獰猛。

 この三毛別羆事件で、人々は懸命にヒグマに立ち向かおうとしましたが、

「みんな逃げたのだろうか」
「今、中でクマが食ってる」
(P69から引用)

 という会話からも分かるように、今まさに仲間が喰われているのに成すすべがない悔しさ、恐怖、絶望の深さははかり知れません…。

 また、家の中にヒグマがいて、その家に火をつければおそらくヒグマは焼け死ぬだろうけれど、家の中でまだ生き残っている者まで焼け死んでしまうだろう、と決断を迷う極限状態に陥った人々の気持ちを想像するとゾッとします。

 結局、家に火をつけることは出来ず、空へ向けて発砲してその音に驚いたヒグマが外に飛び出してきたところを一斉射撃しよう、と人々は決断したのですが…。

 そうして銃を構えている間にも、ヒグマが人骨を噛み砕く音が聴こえてきたそうです。

 しかもヒグマが物凄い速さで飛び出していったため一斉射撃もかなわず…。

 家の中からは、失神している子どもや老婆が保護されましたが、殺されたのが誰なのか分からないほど無残な遺体も発見されたそうです。

 もし自分がこの場にいて、火をつけるか否か選択しなければならない立場にあったらどう決断しただろうか…? と自分に問いながらわたしはこの本を読みました。

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