見出し画像

ジレンマを超えていけるか(映画「MINAMATA-ミナマタ-」を観て)

映画を観て改めて驚くのは、これだけの加害行為を続けてきたチッソという会社は、まだ生き残り続けていること(名前を変えて3,000名以上の従業員が在籍している)、そして政府要人が「水俣病は克服した」というメッセージを発していることだ。

もちろん僕自身が「水俣病」に関して、当事者意識を持てていたかというとそんなことはなく、かなりの昔の、遠くの場所で起こった出来事──歴史の教科書で習うもの──という程度の認識しかなかった。

恥ずべきことだと、今は思う。

なぜなら、全ての出来事は時空間を超えて繋がっているものだからだ。

チッソという会社が、自身の加害行為を無視し続けて事業を行なってきたこと。それは「経済」というお題目のために、多くの企業が、事業活動を通じて生じた不利益を無視してきたことと通底している。ハラスメント、不正会計、下請け企業への圧力、環境破壊、知性の破壊、社会の分断……。事業を通じて「こんなことが実現しました!」というPRに躍起になりながら、負の側面に関しては隠蔽している(あるいは正当化している)。

僕だって、加害行為に加担していると言えなくもない。

チッソの社長・ノジマ・ジュンイチ(演:國村隼さん)は、フォトジャーナリストのユージン・スミス(演:ジョニー・デップさん)に問い掛ける。

あなたも無縁ではいられないはずだ

化学の進歩によって、人間はかなり多くの便益を享受してきた。

ユージン・スミスが関わる写真もそうだ。化学の進歩がなければ、写真を撮ることもできない。現像だってコストが高いままになって、仕事に差し障り出ることも多いわけで。

*

だが、そんなジレンマはユージン・スミスだけに限らない。役者を通じて、観る側にも問い掛けている。

*

観る側に、そんな自省の機会を与えてくれるのは、優れた芸術作品の成せる技だ。

小説、映画、演劇、コメディ、アート、ファッション、デザイン……

そのスタイルは様々あるが、映画「MINAMATA-ミナマタ-」は、間違いなく社会の不条理に一石を投じる素晴らしい作品だと言える。

お金に困窮し、家族にそっぽを向かれ、おまけにアルコールに依存している。そんなフォトジャーナリストが再生するためには、自身を強烈に動かすミッションが必要だった。

そのミッションは、鮮烈な社会問題を孕んでいたが、そこに全力で取り組もうとする姿勢が周囲を、社会を動かしていく。

結果的に、彼はMINAMATAに関わったことが遠因となり、亡くなってしまう。そこだけみたら不幸かもしれない。

だが、人間の幸不幸は、一面的な結果だけで測れるものではない。ミッションに立ち向かい、難しいジレンマを乗り越えようとする。その生き様にも心を打たれる。

そして忘れていけないのが、今なお、そのジレンマを乗り越えようと懸命になっている市井の人々の存在だ。彼らに光が当たりますように。それは巡り巡って、僕たちにも却ってくる希望なのだと思うのです。

──

#映画
#映画レビュー
#映画感想文
#MINAMATA
#ミナマタ
#アンドリュー・レヴィタス
#ジョニー・デップ
#真田広之
#國村隼
#美波

この記事が参加している募集

映画感想文

記事をお読みいただき、ありがとうございます。 サポートいただくのも嬉しいですが、noteを感想付きでシェアいただけるのも感激してしまいます。