ことり

マイペースでオタクな人間です。文学が好き。 中原中也周辺の本をよく読みます。

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最近の記事

伊達六十二万石の宿 湯元不忘閣

3ヶ月前、家族旅行で宮城県の青根温泉へ行ってきた。 宿泊したのは「湯元 不忘閣」と呼ばれる風情あふれる温泉宿だ。仙台藩初代藩主である伊達政宗がこの地を訪れ、感銘し「不忘」と名付けたのが由来とされている。この温泉宿は芥川龍之介や川端康成、与謝野晶子・寛夫妻らも訪れた。(宿泊すれば女将さんの案内で宝物殿を見学することが可能で、川端康成や与謝野夫妻の直筆を見ることも出来る) 歴史を感じる建物に感動し、四季をテーマに旬の食材をふんだんに使用した会席料理に舌鼓を打ったが、何よりも心

    • 中也と熊

      みなさんは「熊」と聞いてどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。 私は黒くて、体が大きくて、強いというイメージがある。 ヒグマは街に出てくればニュースに取り上げられ、比較的おとなしい性格だといわれているツキノワグマであっても人的被害が全くない訳ではない。そのようなことから熊は怖い生き物というイメージが強い。 一方で可愛らしいイメージもある。「くまのプーさん」「リラックマ」「くまモン」などざっと挙げるだけでも熊をモチーフにしたキャラクターが沢山いる。 では「中原中也と

      • 11年前の記憶

        11年前、私は小学生だった。 あの頃はピアノ教室に通っていて、毎週金曜日がレッスン日だったから、金曜日というのは非常に覚えている。あの時間、私はピアノ教室に向かう前に手慣らしに一曲弾いていた。突然ぐぉーっとした長い揺れ。小さな揺れだったが、今までに経験したことのないものだった。 その後母と相談した上でピアノ教室に向かったが、椅子に座っている間も居心地の悪い揺れは続いた。 その時先生は何も言わなかった。今思うと幼い私に配慮していたのだろう。この揺れの恐ろしさを知ったのは家に

        • 安原さんの「ものを見る眼」についてー『美を求める心』より

          安原喜弘さんと小林秀雄さんは中原中也を語る上で欠かせない人物である。安原さんは中也が一番孤独な時期である「魂の動乱期」に近くで支え、『山羊の歌』の出版へ向けて尽力した人物である。そして小林さんは「奇怪な三角関係」に陥ったものの詩の本質を理解し、中也から『在りし日の歌』の原稿を託された人物である。安原さん、そして小林さんとの間にはそれほど大きな繋がりは無かったようにみえるが、安原さんが書いた文章に興味深いものがあった。 『私には君はなにしてるんだというから、京都の大学で美学を

        伊達六十二万石の宿 湯元不忘閣

          「ほんのよもやま話 作家対談集」

          「ほんのよもやま話 作家対談集」(文藝春秋) 瀧井朝世 編 この本は46組の現代で活躍されている作家さんたちがお互いにおすすめの本を紹介しながら、色々な話を聞くことができるというコンセプトの本です。現代の作家さんにあまり詳しくない私でも「この方はこの本が好きなんだ!気が合いそうだからこの方の作品を読んでみようかな」という気持ちになりました。現代の作家さんが好きな方はもちろん、あまり詳しくない方にも楽しむことができる1冊だと思います。 私がこの本を読むきっかけになったのは、

          「ほんのよもやま話 作家対談集」

          中原中也の交友録

          2021年2月17日(水)〜2022年2月13日(日)の間、 中原中也記念館(山口県 湯田温泉)にて「友情」をテーマに中原中也とその友人たちについて紹介する展示が開催されています。私は中也さんの詩が大好きなのですが、小林秀雄・大岡昇平・安原喜弘(以下人物名・敬称略)といった友人たちとの関係も大好きです。 そんな訳で彼らの「友情」に惹かれた一人として筆を執ってみることにしました。稚拙な文章ですが、少しでも興味を持っていただけたら幸いです。 (幾つかの文献で書かれている内容が

          中原中也の交友録

          大岡昇平『俘虜記』を読む

          お久しぶりです。気がつくと3ヶ月ぶりの投稿となりました。その間はさまざまなジャンルの本を読みながら日々を過ごしていました。最近読み終えた本は大岡昇平さんの『俘虜記』です。この本が執筆されるきっかけとなったお気に入りのエピソードをご紹介します。 比島(フィリピン)から復員してきた大岡さんに対して小林秀雄さんが 「よく帰ってきたね、助かってよかったなあ。ほんとによかった。ほんとによかった。」 と言って再会を喜び、大岡さんに従軍記を書くように勧めます。そして 「他人の事なん

          大岡昇平『俘虜記』を読む

          有島武郎「小さき者へ」を読む

          この方の記事、凄いです! 曽祖父がどうやら有島家との交流があったそうで、興味津々に読ませていただきました。今後も調査を進めていくそうです。陰ながら応援しております。 という訳で 今回はそんな有島家の一人、有島武郎の『小さき者へ』の読書感想文を書こうと思う。 有島武郎について 有島武郎は北海道にゆかりのある人物。東京生まれだが、札幌農学校へ進学し、留学したのち東北帝国農科大学(現・北海道大学)にて教職に就く。ニセコ町には「有島記念館」があり、札幌市の芸術の森では有島武郎

          有島武郎「小さき者へ」を読む

          山羊と中也とヴェルレーヌ

          複刻版『白痴群 第5号』を読んでいると、中也さんが訳したヴェルレーヌの『ポーヴル・レリアン』という文章がありました。 これはポール・ヴェルレーヌの自伝のようなものです。ヴェルレーヌは中也さんが好きなフランスの詩人です。 『中原中也の手紙』でも安原さんは 「特に初期の頃、時に彼は自ら『ポーヴル・レリアン』の名を以て己を呼びさえもした。」 と語っています。 (注:レリアンとヴェルレーヌは同一人物。『ポーヴル・レリアン』はポール・ヴェルレーヌの綴りを入れ替えたものだと言わ

          山羊と中也とヴェルレーヌ

          『中原中也の手紙』を読む

          今日(5月19日)は中原中也の友人、安原喜弘さんのお誕生日です。 1907年4月29日生まれの中也と1908年5月19日生まれの安原さん。 山口出身の中也と東京育ちの安原さん。 150cm足らずだった中也と168cmの安原さん。 男兄弟の長男である中也と歳の離れた妹がいる次男の安原さん。 人と徹底的に議論したがる中也と控えめで争いごとが苦手な安原さん。 どこか対称的な印象のある二人。 そんな二人がなぜ磁石のように引きつけあったのか。 安原喜弘さんが書いた『中原中

          『中原中也の手紙』を読む

          太宰治の「女生徒」を読む

           この話は太宰ファンの女子生徒が自身の日記を太宰に送り、太宰がそれを基にして作った物語であるというのを聞いたことがある。最初はいかにも乙女チックな文章が綴られているのだが、途中から太宰の人生観のようなものが見受けられた。私は太宰治についてあまり詳しくないので、太宰が実際にどのような人生観を持っていたか分からない。しかし、女子生徒の何気ない日常を描いた小説から垣間見える太宰の人生観は、興味深かった。  檀一雄の「小説 太宰治」には「女生徒」について書かれた文章がある。当時出征

          太宰治の「女生徒」を読む

          私が文豪オタクになるまでの道のり

           今回は私が文豪オタクになるまでの道のりを語ろうと思う。私はあまり本を読まない子どもだった。それでも好きな本はあり、宮沢賢治(以下敬略称)の『銀河鉄道の夜』がお気に入りであった。宮沢賢治は私にとって一番身近な文豪であった。小学生の頃に「クラムボン」を読んだ衝撃は今でも覚えているし「雨ニモマケズ」を暗誦して発表したことも覚えている。当時の私は青色が好きで宇宙や鉱物に興味を持つ子どもだった。だからそれらの要素が詰まった宮沢賢治の世界観は私の感性にぴったりと当てはまったのだろう。と

          私が文豪オタクになるまでの道のり