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【詩】“祈り”

かつて“祈り”は生き物だった
苦難に藻掻く人々の前に現れては
奇跡を振り撒き
邪気を退け
傷を癒やした

しかしある時
人びとは
“祈り”の
力を求め
締め上げ
血を抜き
身を洗い
毛を炙り
皮を剥ぎ
腹を裂き
腸を啜り
斧で断ち
肉を切り
鍋で茹で
喰らった

“祈り”の力を得たと言う人達は崇められ
大病が流行ると呆気なく死んでしまった

奇跡は
この苦しみは
私たちの命は
残された人々は血眼で他の“祈り”を探した

それでも代わりの“祈り”は見つからなかった

見つからぬまま年月が過ぎ
人々は探すことを諦め
人の形をした偶像に縋り
いつからか手を合わせようになった

それでも代わりの“祈り”は現れなかった

そしていつしか
誰も“祈り”の姿を知る者はいなくなり
“祈り”は願いという形のない“行為”となった


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