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「家庭養育優先原則」とは?虐待で親から離れた子どもたちに新たな家庭を。

児童養護施設は、様々な事情で親に育てられない子どもたちが生活している場所です。その多くは、篤志家たちが終戦直後に私財を投じて戦災孤児のために提供した施設でしたが、施設に入る子どもたちの特徴は時代とともに変化してきました。終戦から80年近くが経過し、最近は圧倒的に虐待を受けた子どもが増えています。

施設から家庭養育原則への転換

親による養育が難しい約45,000人の子どもたちのほとんどは、児童養護施設や乳児院での生活を送ってきました。政策が大きく転換されたのは、2016年の児童福祉法改正により、家庭養育を優先する原則が確立されてからです。

大切なのは「子どもの最善の利益」です。施設を運営する方々は大変な努力を積み重ねてこられましたが、施設内で子どもと大人が一対一の関係を構築するのは難しく、子供の情緒や対人関係に問題が生じる愛着障害の問題が指摘されてきました。里親や特別養子縁組を通じて信頼できる大人との関係を築くことができれば、個々の子どもに後の人生で良い影響を与えます。

多くの先進国では、施設から里親への移行が進んでいます。オーストラリアでは児童の8割以上、多くの欧米諸国でも5割以上の子どもが里親に育てられています。日本と同様に施設が主流だった韓国も10年前に大きく方針転換を行い、里親委託率が上昇しています。

今後も特別な能力を持った里親でないと養育が難しい子どもについては施設の必要性が残りますが、日本でも養子縁組や里親制度を最優先にする考え方が厚生労働省から示されています。世界の流れから遅れて日本でも政策の転換が行われたのですが、実態がついてきていません。

進まない里親委託

現状の里親委託率は3歳未満25%、学童期以降22%となっており(令和3年度)、乳幼児75%、学童期以降50%という国の目標に遠く及ばない水準にとどまっています。地方分権が進んだため、国がどんなに要請しても自治体の取り組みが進まなければ里親委託は進みません。

福岡市、さいたま市、静岡市などの政令市では、首長の積極的な姿勢や児童相談所と里親の連携が功を奏し、里親委託率が向上しています。福岡市が高い委託率を達成している理由の1つは、親との間で誓約書を交わす取り組みがあるからです。誓約書には、「養育の方法について児童相談所の判断を尊重する」旨の記載があり、親が里親を拒否することが難しくなっています。私は新たに誕生したこども家庭庁に、こうした先進的な事例を全国展開するよう要請を続けてきました。

皆さんは親権という言葉を聞いたことがあると思います。私は、親権は権利より義務の側面の方が強いと考えています。育てられなくなった子どもを手放す時に、再び養育する時のことを意識して施設を選ぶ親が多くいますが、現実には子どもにほとんど会いに来ないケースも存在します。子どもの最善の利益を考え、児童相談所が積極的に介入して里親を探す努力が不足しています。

政治家の役割とは?

昨年4月にこども家庭庁が設立されたことで、国がこれらの問題に正面から取り組む体制ができました。私が取り組みだした10年ほど前と比較すると、この問題に取り組む政治家も増えました。設立を提案した超党派の「児童虐待から子どもを守る議員連盟」にはお馴染みの顔触れが集まるようになりました。私は票にも金にもならないことこそ、政治家の本当の仕事だと思っています。どんな経済的、社会的環境に生まれても子どもが等しくチャンスをつかむことができる社会の実現を目指して、これからも頑張りたいと思います。


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