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自由だけど縛りもある。早稲田が新たに取り組むシニア向け教育は、生涯教育の”雛形”を作り出せるか。

「人生100年時代」の学びはどうあるべきかは、今後さらに加熱していくテーマです。今回、目に止まったのは、早稲田大学の社会に向けた教育拠点「WASEDA NEO」の新たなシニア向け教育プログラム。この教育プログラムを見ていると、やはりというか、18歳に向けた教育と根っこのところから違うものなのだと、あらためて実感しました。

取り上げるのは、50歳以上のプレシニア・シニア世代向け講座「早稲田Life Redesign Collage(LRC)」。このプログラムの概要を記事から引用すると、下記のようなものになります。

講座は、受講者のキャリア棚卸しと今後の人生設計に役立つ「Life Redesign 科目群」(必修6科目)と、Social Issues(社会課題)、Liberal Arts(教養)、 Communication(表現・伝承)の3カテゴリーで構成する専門科目群、修了後の自身のライフデザインと関連付けて選択する5つのゼミナールを用意。さらに受講者は同大学が提供している公開講座「オープンカレッジ」(年間約2000講座)から希望の科目を無制限に受講することができる。

ステーキレストランやハンバーグレストランで、メインディッシュを一つ選んで、スープやサラダ、パンといった他の料理はバイキング形式で好きなように取ることができる店があります。今回の、LRCはまさにこれの教育プログラム版という印象を受けました。

こういったスタイルの教育プログラムができるのは、日本の大学だとけっこう限られるように思います。コース料理であれば、作り込まれた数皿があればそれで1食として成立します。しかし、バイキングは、さまざまな料理を大量に用意しておかないといけないのと同時に、一つひとつの料理の完成度も求められます。早稲田大学のオープンカレッジは、全国でもトップレベルの規模を誇り、このバイキング形式の学びに質、量とも応えられるわけです。少し余談になりますが、以前、オープンカレッジの受講生を取材したときに、「生きた書店の新書コーナー」とオープンカレッジを表現されていたのが印象的でした。これは、新書の著者としても活躍する研究者たちが、まだ書籍化されていない専門分野の最新の話を、その人の言葉で語ってくれる、という意味合いです。たくさんの研究者、知識人、文化人から、他では聞けないような話を直接聞かせてもらえる、やっぱりこれって大学の公開講座の大きな魅力だと思います。

話を戻しますが、今回、LRCを見て、社会人、とくにシニア向けの学びと、このステーキレストラン形式(?)の学び方は、非常に相性がいいように思いました。18歳であれば、そもそも学部選択の段階でテーマが大きくは絞られ、そのテーマについて初歩の初歩から徐々に深めていきます。実際のニーズはどうかわからないのですが、18歳に向けた教育、もしくは大学教育というのは、体系的に学び、専門を深めていくというのが前提としてあります。これって、専門性を活かして、卒後のキャリアを積んでいくというのが暗黙の了解としてあるからこそ、そうなっているんだと思うんですね。実際は、全員が研究者になるわけじゃないし、仕事に直結しない分野を専攻する学生もいます。だけどそうであっても、これからの長い人生を生きるための武器をつくる、そういう視点が18歳向けの大学教育には、受け手、届け手、ともに共通してあります。

では、シニアの学びに、そういった武器をつくるという視点があるのかというと、答えは半分イエスで、半分ノーです。もっと、あけすけに言ってしまうと、大学によって、人によって、まちまちです。つまり、18歳が共通認識している大学教育のあり方というのはあるけれど、シニアにはそれがない。おそらく、この共通認識のなさというのが、シニア向け教育プログラムの最大の難しさなのだと思います。

こういう状況を踏まえると、LRCがやろうとしている、軸となる科目群は用意しつつも、そこにアラカルトな学びで好きなように肉付けできるというスタイルは、非常にいい落としどころなのではないでしょうか。すべてが自由であれば、大学教育から遠ざかっていったり、面識がなかったりするシニア層には荷が重い。かといって、学び方がしっかりと決まっていたら、そのプログラムと自分のニーズがマッチする一握りの人の琴線にしか触れない。LRCは、人によってまちまちなシニア層を、うまく吸収するにはどうしたらいいかを、しっかり考えたプログラムなように感じました。

他大学もこのスタイルで……とできるといいのですが、この学びの土台を支えているのは、年間約2000講座を開講するオープンカレッジです。それを思うと、なかなかマネしにくいのが、このプログラムの(早稲田にとっての)強みであり、(生涯教育を広めるうえでの)弱みでもあります。なにはともあれ、今後、各大学のシニア向け教育をさらに活性化させるために、多くの人に支持される基本スタイル(共通認識)みたいなものができてくるといいように思います。そういうのができると、改善やバリエーションづくりというのが、より意識的に、また計画的に、できるようになる。早稲田のLRCがその雛形づくりに寄与するものになればと、プログラム内容を見ながらふつふつと思いました。

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