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【絵本】人の優しさに触れほっこりする『アライバル』

文字のない絵本が好きだ。

なぜかというと、文字がないことで絵に没頭し、想像力を働かせ、言葉になる前のいろんな感情を楽しめるからだと思う。

特に、プログラミングで論理的思考をして疲れと時は、脳にとって最高の癒しとなる。

個人的なベストは『アンジュール: ある犬の物語』だが、今回、お気に入りの絵本が一つ加わった。

それはオーストラリアの作家ショーン・タンの『アライバル』だ。

不思議な世界を舞台に、移住の話をベースに、未知との遭遇や、新しい人々とのふれあい、家族愛が描かれている。

ページをめくるワクワク感がたまらない作品だ。

ストーリーはシンプルで、ある一人の男が、住むことができなくなったしまった故郷をあとにし、一人で移住先に向かう話だ。

彼は新しい環境で、家族を迎え入れるために、宿や仕事探しなどを行う。

本書の魅力は、その**「斬新な世界観」**にある。

主人公が住んでいる世界はモンスターと共存している世界で、どんなところにもモンスターたちがひょっこりと顔を出すほど、モンスターがありふれた世界だ。

また文字から建物まで、現実の世界には存在しない世界が描かれており、物語が進むにつれて、その世界を探索している気持ちになる。

そんな「斬新な世界観」によって、どんな展開になるのか、先の展開がまったく読めないため、ページを繰るたびにドキドキ感とワクワク感が増していく。

第二の魅力は**「細かい感情表現」**だ。

異文化への戸惑いや、言葉が通じない土地での不安や緊張感など、文字がないぶん、登場するキャラクターの表情から、さまざまな感情を読み取ることができる。

緻密な絵と圧倒的なボリューム(128ページもある)で描写されており、絵本でありながら壮大な物語をリアルに追体験することが可能だ。

過去の思い出として表現するためか、画風は温かいセピア色に統一されており、ノスタルジーを感じる。

著者紹介

著者のショーン・タン(Shaun Tan)は、オーストラリアのイラストレイター、絵本作家、映像作家だ。

1974年に西オーストラリア州フリーマントルで生まれ、パース北部の郊外で育った。

西オーストラリア大学に進学し、美術と英文学を修め、数年間フリーランスとして働いたのち、2007年よりビクトリア州メルボルンを拠点に活動している。

彼の父親はマレーシアからの移民で、そのバックグラウンドが作風にも影響を与えている。

彼の描いた『ロスト・シング』は2010年に短編アニメーションとして映像化され、なんとアカデミー短編アニメ賞受賞を受賞した。

今回紹介する『アライバル』は、彼の「大人向けの絵本作品」の代表作として知られている。

おわりに

絵だけで綴られる世界は壮大であり、線密な絵によって登場する人びとの細かい感情まで伝わり、まるでファンタジーのサイレント映画を見ているようだ。

セピア色に統一された深みのある絵と、重層的な物語が、読後の余韻を大きくしている。

思えば、本書で描かれる「未知との遭遇」というテーマは、移民に限った話ではなく、進学や就職、転居など、新しい環境に身をおくすべての人に寄り添っている。

そして、親切で優しい異国の地の人々が穏やかな感情を運んでくれ、何度でも繰り返し鑑賞したい作品だ。

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