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2019年に書いた短編小説たちをまとめて紹介していく。

プロフィールにもあるように、僕は生きる中での痛みや葛藤を創作に昇華して癒されたいと思っているので、憂鬱な話や暗い話が多いです。

2019年は新たに短歌を始めた夏以降ずっと短歌ばかり作っていましたが、小説もそこそこ書いています。

(実は夏以降も小説を書いていましたが、筆が乗らず書き終えたあと自分で読み返すとつまらなかったので、没にしたものが二作あります)

長編小説は書いてません。いちばん長いので8900字の『空絶』になります。


書いた理由とかあらすじとかはいいから、とりあえず一番重要なやつだけ教えて!」という方へは、こちらを推します。

(もしすでに読まれている方へは、次点で『空絶』を推します)


それでは、ひとつずつ紹介していきます。


ベスト・フレンド・エンド(約4900字・10分)


――誰もが足早にアスファルトの上を歩み去っていく。
2011年の親友との別れ

僕は毒親育ちなので、けっこう荒れた学生生活を送っていました。とくに高校~大学あたり。

荒れたといっても不良的なやつではなく、むしろ表面上は優等生だったけど心の中は荒廃していたといった感じのやつです。誰かといっしょに居ても、居なくてもいつも寂しかったですね……。

そんな孤独を編み上げた一編。


桜がその花を咲かせていたことを、夏になれば人々は忘れてしまう。
誰もが足早に、アスファルトの上を歩み去っていく。

そんな2011年7月の頃、わたしは親友に別れを告げた。
そうせざるを得なかった。

今こうして誰もいない自宅の畳の上に寝転んで天井を眺めていても、自然とその顔が脳裏に浮かび上がってくる。そのことがまたわたしを脆くする。

彼女とのたくさんの思い出が、時系列を無視して胸に去来する。そのことがまたわたしを弱くする。



空絶(8900字・17分)


――病的な程の白き世界を彷徨した先に、見出したものとは。

この『空絶』は、自分が小説を書き始めたばかりの頃の作品のリメイクです。

初期の頃は精神世界的というか、非現実的なものを中心に書いていました。それしか書けませんでした。書いている自分自身が、現世と冥界のはざまに生きていました。

その時期の作品の文章は澱んでいるし荒れているけど、精神的に特殊な状態に居たためか、今では出来ないような発想がたくさん含まれています。

なのでユニークなところはそのままに、表現として失敗している箇所や過不足がある箇所を修正して、リメイクしました。


「アサクラジュリさん、次のお部屋へどうぞ」
受付の女性の無機質な声が白い部屋に響いた。同時にその七音が私の名だと気がついた。

兎にも角にも次の部屋へ進むことになっている。なら行くだけだ。

二つの扉を見た瞬間、どちらかを選択しなければならないと思った。
たぶん誰だってそう思うだろう。私だけが思い違いをしているわけではないはず。

私はここに来るまでに傷つきすぎていた。
残された力を振り絞って、どこかにあるはずの安住の地へとたどり着きたい。そこに行けさえすれば、きっと私の欠点の幾分かは解決されて、ささやかな安寧が待っているはずだから。



一本のアンダーライン(6300字・12分)


たった一本のアンダーラインの引き方に表れる、究極的な内面の反映

この小説の着想は、これまでにすごく嫌な下線の引き方と、すごく優しい下線の引き方を目にしたことがあって、大きな差を感じたことです。

前者はネット上での出来事で、歪んだ願望・嘘・見下し・劣等感・嫉妬などを混ぜて煮込んだような強調でした。

読み手を害している存在を称賛し、苦しむ人の感じ方を否定していて、しかもそれを隠そうと複雑にしているところがすごく嫌でした。トロイの木馬みたいで。

後者は短い手書きのメッセージでの下線(黄緑色)だったのですが、少しのことですごく気持ちが伝わるんだなと感じ入りました。筆跡も書いてある内容も好きだし、ここまで柔らかい親密さを込められるものかと嬉しくなりました。

これらの差が、一本のアンダーラインの引き方に表れる人間性の反映だと感じられました。


インクのしみのように曖昧な雲が空に浮かんでいた朝、私の家の小さな郵便受けに二通の手紙が投函された。差出人は二人とも、高校時代からの旧友。それらの手紙には、ひと目でわかる違いがあった。一本のアンダーラインだ。

一通目の手紙の「あなたのためを思って言っています」の文字の下には、赤色のマーカーで線が引かれていた。二通目の手紙の「いつもありがとう。これからもよろしく」の文字の下にも、水色のマーカーで線が引かれていた。

この違いを、私は偶然の結果だと思えなかった。二年間かけて組み上げる長大なジグソーパズルの、最後の一ピースが埋められたときに浮かび上がる絵のような、必然的な結末に思えた。



白木屋のフリースタイル・ダンジョン(5400字・10分)


不器用な魂がぶつかり合う、僕ら二人のMCバトル in 白木屋

ペンネーム(Haruki-UC)にも脚韻を入れるくらい、僕は韻を踏むのが好きです。

HIPHOPも好きです。フリースタイルダンジョンも毎週見てますし、音源も日常的にしっかり聴いています。

というわけで、ラップの小説を書きました。書いていて楽しかったです。

本作の登場人物は、実は結構な割合で学生時代の親友がモデルになっています。こう書くだけで、どこかしみじみしてきます。

何故かと言うと、小説の中だけではなく、本当に僕らは苦しい時代を経験してきたから。

あの頃抱えていた問題の全てが解決したわけでもなければ、「自分はいま幸せだ!」ともなかなか言えないけれど、その一部を小説という形にしたためて公開できたことを嬉しく感じます。


――ラップにおけるフリースタイル・バトル。
ビート上に即興の歌詞を乗せてラップし合い、そのスキルを競う戦い。
今はフリースタイル・ダンジョンという番組が有名なので、詳しく説明する必要はないだろう。

バトルの会場は、白木屋で予約したあくまで普通の個室(カラオケ付)だ。
なぜ人が見ている外でやらないかというと、僕と奴はまだ初めて三か月の初心者ラッパーだし、なんていうかさ、恥ずかしいじゃん。

今回はまゆに審査員の役を務めてもらうように頼んだ。まゆは初め渋ったものの、僕らの熱意に負けて了承してくれた。まゆは不愛想だしマイペースだけど、悪い奴ではないのだ。

三者三様の闇と病みを抱えた三人が、いまここ(白木屋のカラオケ付個室)に集結し、不器用な魂の会話を開始する――。



3分で読める掌編集『遍在するこの人』(4作)


現代人の奇妙な生態、損なわれてしまったもの

3分で読める(1000~2000字程度)のショートショート集。明るい話はほぼない。
それぞれの内容は独立しているのでどこからでも読めます。

現代人の奇妙な生態、損なわれてしまったもの。雑踏にかき消された叫び、届かなかった想い。
無為に失われた若さ、叶わなかった願い。どうしようもなく壊れた敗者、修復不能な関係性。




紹介は以上です。ありがとうございました。

(そういや、書いたけどネット上には投稿してないのが他にもいくつかあったな……また後々)

2020年はどうなるのか。
それは現時点ではわからない。すべてはGod Knows.

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