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なぜ人事データが集まらないのか

こんにちは。HRMOS WorkTech研究所の友部です。

人事でデータを活用するためのツールとして採用・労務・タレントマネジメントなど各種機能に対応した人事システムがあり、人事で利用されている方も多いでしょう。一方で、そういったシステムの導入に人的リソースや金銭的コストなどを投資したにも関わらず、「期待以上のデータ活用ができていない、時には期待通りでさえない」と感じている方もいらっしゃるかと思います。

人事システムの得手不得手や、その機能が会社の課題と合致しないことが、期待通りのデータ活用ができない理由の一つです。しかし、それ以前にデータ活用ができない理由として大きいのが、

(活用できる)データが集まっていない

というものです。今回のnoteでは、なぜ人事データが集まらないのか、について書いてみます。


人事データ収集に従業員の負担は避けられない

人事でデータを活用するためには、データを収集する、整備するなど、データ運用の体制を整えることが特に重要になります。とにかく、「頑張ってデータを集める」、しかありません。しかし、集めることに苦労している人事の方は多いと思います。誰かが頑張るしかないですが、どう頑張るにしても従業員の方々の負担は避けられないです。なぜなのか、まずは人事データの集め方について考えてみます。

人事データの集め方

まずは、人事データはどうやって集めるのか、について考えます。人事には限らず、データの集めるにあたって気にしなければならないものは、

  • 何を集めるか

  • どうやって集めるか

  • 誰が集めるか

などがあります。「何を集めるか」については何を目的にデータ活用をするのか、に紐づいて決まります。「どうやって集めるか」ですが、人事では「自動で集めるか、手動で集めるか」が論点になるでしょう。「誰が集めるか」については、「人事か、従業員か」が論点になります。

データ収集は自動か、手動か

人事領域に限らず、分析を行うためにデータを集める必要があります。データの集め方としては、システムで自動で収集するか、それとも人間が手で入力するか、のどちらかとなります。

アプリやwebサービスなどでは、利用しているユーザーの行動ログを自動的に取得することができます。Google AnalyticsのようなWeb分析ツールはそのわかりやすい例です。事前にどういったログを取得するのか、システムにどう組み込むのかさえ決めてしまえば、自動的に大量のログを収集することができます。

一方で、人事ではそうはいきません。従業員の方々にセンサーをつけて位置情報を自動取得したり、防犯カメラ等の動画情報から動きを取得するなどもできますが、プライバシーやコストの面からこういった行動データの取得を人事業務のために行っている会社はそう多くないでしょう。

そのため人事では、手動でデータを取得する、という場面が多くなります。

データを入力するのは人事か、従業員か

となると、次は誰が人事データを入力するのか、という話になります。

人事業務で必要なものは、もちろん人事が頑張って入力することになります。「頑張る」というのも、人事の人的リソースを使うこともあれば、金銭的コストを払うこともあると思います。

例えば、従業員の履歴書や職務経歴書から、タレントマネジメントに用いるデータ(職歴や学歴、スキルなど)を抽出したい、というのであれば、手作業でシステムへのデータ入力を行ったり、OCRソフトなどコストをかけてデータ入力を行う、などするかと思います。

最近ではChatGPTなどの生成AIを使って、テキストデータから経歴データを抽出する、ということなどもできるので、そういった最先端ツールを利用する、という選択肢もあります。

しかし、従業員自身のより詳細なデータについては人事で入力するには限界があります。入社時に履歴書や職務経歴書を従業員から受け取っていたとしても、そこからわかる従業員の情報はごく一部にすぎません。結局は、必要なデータは従業員の方の協力を得なければならない、ということです。

従業員からデータを引き出す方法

従業員の方からデータを引き出す方法は、以下のようになります。

  • 面談などでヒアリングし、結果をデータとして人事が入力する

  • アンケートなどで従業員から収集する

  • 従業員が人事システムなどに直接入力する

面談などでヒアリングし、結果をデータとして人事が入力する」ですが、例えば退職面談など行い、退職の要因分析を行う際などによく使われる手段です。従業員は直接データなどに触れる必要はなく、そこの作業負担は人事が持つ、という形です。

アンケートなどで従業員から収集する」という方法ですが、こちらは、エンゲージメントサーベイや組織状況を知るためのアンケートなど行う際によく使われる手段です。「アンケート」という物自体、日常生活に近い手段であるので、実施や回答のハードルも低く、ポピュラーな手段だと思います。

最後に、「従業員が人事システムなどに直接入力する」という方法です。人事システムなどデータ収集や活用に特化したシステムに対し従業員に直接入力してもらう、といったやり方もよく使う手段でしょう。

なぜ人事データが集まらないのか

人事データを収集するためには、従業員の方々の協力が不可欠です。しかし、従業員の方々が協力してくれず、人事データが集まらないとき、考えられる要因は以下の3つだと思います。

  • データ収集の目的が不明確である

  • 人事に対する信頼がない

  • 従業員にとってメリットが見えない

データ収集の目的が不明確である

「なぜそのデータを集めるのか」ということがわからないことには、従業員も協力することができません。人事としては「何となく気になるから」といって網羅的にデータを欲してしまう気持ちもわかりますが、人や組織を表す情報・データは多種多様にあるためキリがありません。目的が明確になることで、どのデータから取得するか、という優先順位付け・取捨選択の判断材料にもなります。

従業員のサーベイ疲れ」という言葉があります。これは単純にサーベイの回数や設問数が多いと従業員から上がる声です。これは、サーベイに答えるために時間や体力を使うので疲れる、という意味だけではなく、「無駄なことをやらされている徒労感」も含まれると思います。目的を明確にして、意味のあるサーベイである、と感じてもらうことで、協力してもらえる可能性が上がります。また、集められたサーベイ結果を従業員にフィードバックすることで、きちんと目的に向けて活用している、ということを示し、意味あるサーベイと感じてもらうことも重要です。

サーベイについてはこちらのnoteでも書かせてもらっています。

人事に対する信頼がない

そもそもこのデータを預けるに足る信頼が人事にあるか、ということも従業員に協力を得るためには重要です。データ収集においてもっとも警戒するのは、目的外のことに利用されてしまう、というものです。特に、評価と紐付けられるのではないか、ということや、誰に開示されるかわからず意図しない人に開示されることがないのか、などが不安を煽るポイントとなるでしょう。これらが明確になっておらず、従業員の想定外の使い方をしていることがわかった場合、直接の関係者でなくとも人事の信頼はなくなるでしょう。そうすると、ますます人事にデータを預ける、ということに非協力的になってしまいます。

また、人事を介してデータを収集する場合、例えば「面談などでヒアリングし、結果をデータとして人事が入力する」や「アンケートなどで従業員から収集する」など行おうとしても、人事との信頼関係が弱いとどこまで正直に答えてくれるのか、そもそも回答すらしてくれない可能性が高くなり、正確なデータを集める、ということが難しくなってしまいます。

従業員にとってメリットが見えない

あとは、従業員にとって即座にわかりやすい、直接的なメリットが見えない、というのもデータ収集に協力してもらえない理由になります。

データ収集の目的自体は将来的なパフォーマンス向上につながるものなので、直接的にはわかりづらいものの、間接的には従業員にもメリットがあるものです。しかし、即座に理解しやすい直接的なメリットがないと収集が捗らないことがあります。

例えば、エンゲージメントサーベイなどでは、すぐに結果が共有され会社として何をするかが発表されれば、従業員にとってはわかりやすいメリットとなるでしょう。また、収集したデータを何らかの形で従業員自身が活用できる状況であれば、それも直接的なメリットになります。

こういったメリットがなくても、データ収集を従業員に業務命令としてやらせる、という手段もあります。しかし、その場合質の良いデータではなくなる可能性も出てきます。

従業員の目線で行動ができているか

いずれにしても、こういったデータ収集のことを話す時、人事に従業員の目線が欠けているように感じます。人事に限らず事業やサービスにおける分析でも、ユーザー目線に立てるか、ということが重要です。ユーザー目線に立つことによって、課題や仮説が見えてくる、というのがあるからです。

人事も同じで、ユーザー=従業員としての目線で、データ収集の手段を見ることができるか、ということが大切です。しかし、人事自身も本来従業員の一人であるにも関わらず、その視点を持たずに施策を回してしまう、という場面があります。人事自身ですら、そのサーベイにちゃんと答えないのに、従業員が答えてくれるわけがありません。データ収集の施策を回す際にも、もし従業員の立場だったらそれをやるか、やらないか、ということを頭の片隅に置きながら、行動していただけると幸いです。

もちろん、データさえあればなんとかなる、というわけではありません。有効なデータ活用を阻む「壁」となる課題はまだまだありますので、こちらのnoteを参照していただけると幸いです。

データ活用やAIの活用が人事の中でもホットトピックになっていますが、データがなければそれ以前の問題です。活用のためのツールがいくら合っても、データを集める手段として従業員とのコミュニケーションが取れていないと、有効なデータ活用はできないでしょう。

人事データの活用、人事関連の指標の開発、分析の考え方など、HRMOS WorkTech研究所へのご相談やnoteへのリクエストがあれば、引き続きお気軽にお申し付けください!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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