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国家財政と家計簿と自治体財政の違い

少し前にニューズウィークでMMTの特集がありました。

特集:日本人が知るべきMMT 2019年7月23日号(7/17発売)
https://www.newsweekjapan.jp/magazine/243906.php

MMTについては以前、個人的にも取り上げましたが、

有名どころの経済学者や金融界の重要人物の間でも意見が両極端に分かれていて、素人からしたら「経済学内で意見まとめてから出してこいや」と言いたくなるくらいなのですが、国家財政、特に自国通貨を自国で発行できる政府のやり繰りと、収入の範囲内で賄わないといけない企業や家計のやり繰りとは全く異なるということはなんとなく分かります。

もちろん、借金せずにやっていけるのであれば国家であろうと企業であろうと家計であろうと万々歳です。しかし、企業や家計だって借金することは一般的です。

住宅ローンを使わずに家を買う人がどれほどいるでしょうか。大半の人はローンを利用して購入しているはずです。

国土交通省 住宅市場動向調査報告書
https://mymo-ibank.com/money/2553

こちらのデータによると、戸建てやマンション・新築や中古によって違いはあれど、ローンを使用する人は5割〜8割くらいいるそうです。無回答も結構あるので実際のところはもっと割合は高いでしょう。

家、特に新築は購入直後に資産価値がいきなりぐっと下がります。その一方でローン残高は少しずつしか減りませんから、その差額は純粋な負債となります。いざという時の保険がありますが、それは資産とは言えないでしょう。自動車も似たような者です。家計においても借金は珍しくありません。

企業でも借金は当たり前です。無借金経営の企業が持てはやされますが、それだけ無借金の企業が少ないことの裏返しです。また、レバレッジをかけて資金を調達して企業を大きくしていくことは経営学的にはおかしい話ではありません。その一方で内部留保を抱えすぎているという批判もあります。金額が多すぎるのは問題ですが、だからといって内部留保を減らしてしまうといざという時に不利な条件で融資あるいは債権による調達をしないといけなくなります。大企業に対して内部留保を吐き出せという主張と、日本政府には借金するなという主張を行う人って結構重なっている気がしますがそれはまあ置いておきましょう。

企業や家計においても借金は珍しいことではありません。限度の問題とも言えます。そしてその限度はどこから来るのか、という話ですが、もちろん収入の最大値です。家計における収入はその家庭内での働き手の収入ですが、生涯収入と生涯消費の差額が元利合計のローンの限度でしょう。企業は多角化や新事業などで収入が大幅に増える可能性もありますが、常識の範囲内でしか借りられません。常識の範囲内でしか貸し手が貸してくれないからです。

その一方で、自国通貨を自国で発行できる国家の収入は事実上無限大です。もうこの時点で国家財政と企業財務・家計簿を同一視するのは無理があります。経営が傾いた企業を建て直すことや家計を正常化することと、国家財政を建て直すことはまるっきり違う方法とプロセスが必要となるわけです。

もちろん共通点はあるでしょうけれど、倒産寸前の大企業を建て直したという触れ込みで国政に参与してもその成功体験が上手く行くとは限りません。足かせになるとも限りませんが、同じ理屈で動いている組織ではないは注意すべきでしょう。

むしろ、企業経営に近いのは国家よりも地方自治体の方ではないでしょうか。地方自治体は国家と似ている部分がありますが決定的に違うのは通貨発行権がないことです。この点は企業と同じで、債務返済の原資は税収以外には基本的には存在しません。自治体所有の土地などを売却することでも収入は得られますが限りがあります。

自国通貨だからといって際限なく発行し続ける国家はこれまで存在していませんでした。従来の経済理論から言ってそんなことをしてしまうと国家財政もその国の市場経済も破綻するはずだからです。そしてその理論に対して真っ向から挑み、インフレにさえ気をつけていればどれだけ政府債務を増やしてもいいから景気対策をするべし、というのがMMT(現代貨幣理論)です。

MMTが正しいかどうかなんて私には分かりませんが、否定するにしてもあくまで経済学的観点から行うべきであって、一般庶民の家計簿と比べるような説明で否定されても逆にあまりピンとこないな、という感じです。一般人は自分で通貨を作り出せませんし、そもそも際限なく借金することも出来ませんから。MMTを否定するにしても同じ舞台で否定しないとかえって賛成派の主張の方を後押しする逆効果が生まれるんじゃないですかね。

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