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音楽ストリーミングで分配される現代、そして書籍におけるストリーミングという未来

今、音楽を聴くとなったら若い人はYouTubeやAppleMusicやSpotifyなどの有料無料のストリーミングサービスを選択しているのだと思いますが、そういった時代の流れには必ず批判も集まります。CDが売れない時代になったとは言いますが、しかし、そもそもCDが売れていた時代というのが一時的だっただけの話とも言えます。

CDの売上の盛衰を見てみましょう。
一般社団法人日本レコード協会のデータです。

音楽ソフト 種類別生産金額推移(1952年~)
https://www.riaj.or.jp/g/data/annual/ms_m.html

金額ベースですがこれによると、1984年にCD販売開始され、その4年後の1988年にはレコードの過去最高金額を上回っています。バブル景気のまっただ中だったこともありますが、あっという間に音楽を「CDで聴く」時代になったわけです。

その後、1998年(確か宇多田ヒカルがデビューした頃ですね)をピークに長期低落傾向がずっと続いています。つまり、CD売上が右肩上がりだったのはわずか10年間です。

音楽ソフト 種類別生産数量推移(1929年~)
https://www.riaj.or.jp/g/data/annual/ms_n.html

レコードが長い期間をかけて少しずつ増えていったのはプレーヤーの普及に時間がかかったからですが、CDの「息の短さ」がやはり目に付いてしまいます。

CDで音楽を聴く、という行為が当たり前だったという思い込みが今の音楽業界にもあるような気がしてなりませんが、後世には音楽CDというのは1980年代後半から2000年代後半くらいまで流行していた視聴形態という見方をされるのではないでしょうか。

そして、CDよりもさらに短いダウンロードサービスの瞬間的な普及を経て、今のストリーミングサービスが世界中で定着しつつあるわけですが、消費者がお金を払っても対象音楽を手元に残せない、ということで不満に思う消費者もいますし、大きなお金が動かなくなったと嘆く業界人もいることでしょう。

金銭的なことだけいうと、ストリーミングサービスはCDを大量に売る、あるいは買う人にとっては不満の残る形態であることは間違いないと思います。しかし、見方を変えてみると、聴いた分だけお金がミュージシャンに渡るということは、聴きたくなる曲を作った人にそれだけ分配されやすくなるということですから、再生回数という形で消費者が曲を評価する仕組みになっている、ということになるのではないでしょうか。

言い換えると、CDの売上そのものはそのCD収録曲を評価することにはならないのではないか、ということです。

今も昔もCDを買うパターンとして、一秒も聴かずに買う指名買いの場合もあれば、メディアやネットで聴いて気に入ったので買ってみた、という場合もあると思います。ただ、一曲だけ入ったCDというのは稀です。CDの中に入っている曲全てを常に同じ回数だけ聴くという人も稀だと思います。好きな曲だけリピートして聴きますし、あるいはカセットテープ、ミニディスク、今ならiTunesのプレイリストなどに編集して聴くことも多いはずです。そうなると、CDの売上を収録曲数で按分した金額と、ある一つの曲の再生回数とのバランスが合わないというわけです。買ったはいいが結局あまり聴かなかった、という場合でも、何百回と聴きまくっても配分されるお金は同じです。

また、前述の指名買いの場合、その収録曲に満足してお金を払うのではなく、ミュージシャンの過去の音楽に対して評価しているから買うわけですので、評価と分配のタイミングがずれていることになります。

一方、ストリーミングサービスであれば再生回数に応じてその曲の提供者にお金が回ります。曲の再生回数と売上のバランスが一致します。指名買いによるタイミングのズレもありません(正確には初めて聴くときには評価と分配のタイミングがずれることになりますが金額の絶対値としてはCDよりも遙かに小さいはずです)。

そういったわけで、曲に対する消費者のシビアな評価としてはCD売上よりもストリーミングサービス再生回数の方が正確だと個人的には思っています。音楽業界の人はどうなんでしょうね。曲の評価よりも儲かった方が良い、というのであれば話は別ですが。

さらに話は音楽業界だけではありません。AmazonのKindleUnlimitedサービスや、ドコモのdマガジンなどでは、書籍をサブスクリプションサービスとして提供しています。詳細な分配方法は分かりませんが、ユーザーのダウンロード回数だけではなく、ページ毎(リフロー型電子書籍ならもっと細かいですが)での表示回数によって非常に細かい単位で著者や出版社に分配されているはずです。

音楽に比べると本をストリーミング的に読む習慣はまだまだ根付いていませんし、今後もどれくらい根付くか分かりませんが、音楽業界で起きた変化が出版業界では無関係だと断言するのも難しいでしょう。日本では共に再販制度による法的規制・保護がかかっている業界でもあります。CDショップが大きく数を減らしているように書店も大きく数を減らしているという点も似通っています。

音楽や書籍を所有せずに読みたいときに読みたい分だけ読み、それに対して消費者がお金を払い、再生・表示回数に応じて提供者に分配される、という仕組みが当たり前になる時代がもうすぐそこまで来ているのかも知れません。そうだとしたら、その流れは誰にも止められないでしょう。

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