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春、水、夜、花        (スピリチュアルリテラシーと地上の女神たち)


春姫 「理想化と、こき下ろし」

そのパーティーでは、多くの大人たちが彼女に群がった。そして彼女を欲しがった。

彼女を称賛し、愛で、親しみの言葉を掛けた。中にはハグをする者や、前世でご縁があったと名乗り出る者すらいた。

華奢で仔猫みたいな躯体。舌足らずで無防備な喋り方は、ピロートークを交わすかの様。男も女も、彼女から受け入れられたことが誇らしい。

彼女は能力者である祖母譲りの霊視能力クレアボヤンスを持つ。

その”姫君”の名は春姫はるき

この業界の大人たちは、まだ若い彼女を、まるで自分の教え子のように目を細めて歓迎した。

だが暗転するのも早かった。春姫がどこの派閥にも所属しないどころか、慣例に倣わない独自の手法で既に注目されていると知るや否や彼らは掌を返した。

「あれは駄目な3世」「世間のなんたるかを知らない」「エナジーヴァンパイアだ」「低級霊が憑いている」「恥をかかされた」

そう噂し、界隈から排除しようとした。あれだけ虜になっていたのが嘘の様に。

まるで「理想化とこき下ろし」だった。

水鏡 「背景になりたい」

水鏡みずきは、そのパーティーでなるべく人から声を掛けられません様にと願っていた。

水鏡には躁うつの波がまだあり、パーティーの様な非日常で盛り上がったまま意気投合してしまうと、その繋がりはうつ転した際に苦労すると知っていた。

電話に出ることが出来ず、メールを開くことすら怖くなり、勿論集まりにも参加出来ない。既に数人の友人知人をそれで失っていた。

一旦近付いたがために嫌われるくらいなら、はじめから当たり障りのない関係でいたいのだ。

「私は背景になりたい。普通の人を演じ、社会に溶け込んで、主役になりたい人をそっと応援したい」

応援は偽善ではなく、陰徳を積んでいれば自分のささやかな願いがいつか叶うかもしれないと信じているからだ。

夜 「柔らかな異端」

そのパーティーの参加者で最も若かったのは、春姫ではなくよるという女の子だった。

夜というのは本名で、それにより幼少から苦しめられてきた。苦労したのは名前だけじゃない。かなり珍しいといわれる青色染料アレルギーを持っていたことで、内向的な夜はからかいの対象になりがちだった。

ー 人は、異質のものを排除したがるから仕方ない?

ー こちらから愛を差し出しても、奪われるだけ奪われて返ってこないことも多いわ。

ー 私は引き立て役に過ぎないのかしら。

夜は青色染料を避けるため、モノクロでイラストを描き続けていたが、それすらもからかいの材料となっていた。

夜は想った。黒い絵を描きながら。

ー よくスピリチュアルで謳われている「自分で設定して生まれたきた」というのは少し乱暴だと思う。そう想いたい人は想えばいいし、そうでないと感じる人はそうでないと感じていい。自分が心穏やかになり、人に優しくなれる方を選べばよいのでは・・・。

夜は異端児であったが、それは人を脅かすものではなく、包括的で柔らかな感性に満ちていて、夜という光のようだった。

夜 「手招きする世界と、反転」

夜は型にはまれないからこそ、web上で独自の発信を始めた。創作、エッセイ、絵、写真など諸々。これらの活動はオフラインの知り合いには伝えておらず、読者0からのスタートだ。

続けた先で導かれたのは、絵師の世界だった。しかしそこでも既存の流れに馴染めず、難儀した。「まあ、どうせ悩むなら好きな世界で」と自らの信念に基づいた発信を続けていると、・・・いつの間にか自分を取り巻く環境が反転していたことに気付く。

現代社会に生きていくうえで煩わしかった彼女の個性たちが、そのまま魅力となっていたのだ。訳も分からぬままあてがわれた名前さえギフトとなった。暗い怖いと否定されたモノクロのイラストが高く評価された。

勿論簡単な世界ではない、単価も安く辞めていく者は多い。しかし絵師の仕事は、時間差であっても、差し出した愛が心地よく巡る可能性を示してくれた。

夜は、今まで目立たない様に隠していた才能たちを、少しずつ開き始めた。だけど、ずっと閉じ込められていた才能たちは、拗ねていたり眠ったままだったりと、急には動き始めることが出来ない。

底冷えする夕暮れ、カラスが何もないはずの上空で群がり、けたたましく鳴き始めた。不気味だ不吉だと眉をひそめる者たちとは対照的に、夜はその様子から自然の勇ましさと祝福を感じた。

「何を躊躇っているの。だてに夜を背負ってきた訳じゃあないでしょう」と。

郵便ポストを開くと、封蝋で閉じられたクラシカルな郵便物が届いていた。パーティーの招待状だった。

春姫  「振られたら悪霊、一晩で消した記事」

「振られたら、掌返して悪霊扱い。そんな業界は古い」

「霊や前世のせいにしてお金儲けするだけでなく、もっと大事なことあるでしょう?皆が選ばれし者なのだから」

「自分らしさを活かして生きること・働くことが出来る世界があっていい」

「取り込もうとするんじゃなくて、尊重しあえる人と繋がりたい」

これらは春姫が投稿し、一晩で消してしまった記事の内容だが、水鏡も夜も見ていた。

春姫は論争に興味はなく、新しい道を創ることにエネルギーを使おうとしていた。それは水鏡も夜も同様だった。人を変えるのではなく新たなフィールドを創造するのだ。

水鏡  「偽ツインソウルは自ら別れる。想像と現実を擦り合わせ結晶化せよ」

水鏡は、イマジネーションの中で膨らんだストーリィを、少し遅れて現実世界にも”現さざるを得ない”ことがしばしばある。

ひといちばい豊かな想像力のために、想いがありありと膨らみ過ぎて、現実の方を合わせていく必要に迫られるのだ。

それは所謂、引き寄せの一種らしい。だけど恋愛に関してはいつまで経っても整合性が取れない。

偽ツインソウルから日に日に突き放されていることを感じて誤魔化せなくなり、こちらから別れを切り出さなくては精神的に崩壊してしまうと思った。

元々おかしな関係を結んだのはこちらで、怒る筋合いもなく、人知れず悲しんでばかりだった頃はまだいい。

このところ彼の後ろ姿を見ていると、持っているグラスで殴ってしまうのではないかという強迫観念に苛まれる。「自分が恐ろしい、こっちを現実化してはいけない!」

あの晩は雨で、帰りは珍しく送ってくれるとのことだったが、車中、彼の露骨なまでの沈黙に”わなわな”してしまう。赤信号で停車したのをGOサインに、既に脳内で繰り返し描いていた別れの言葉を吐き出した。

「私、最近転職したんです。いい職場で、好きな人も出来ました。すみませんが、もう会いません」

一方的に伝えて車から降りた。家まで歩いたら30分はあるだろうけど、あの空気に耐えることが出来なかったし、相手の冷たいであろう返事を聴くエネルギーもなかった。滅茶苦茶だと分かってはいたが、最低限、相手を悪霊にはしていないからきっと落第ではない。

帰り道は幸い真っ直ぐの国道沿いで、雨も降っていたので傘で顔を隠せる、泣きながら帰宅できた。

部屋に戻るとパソコンを開き、女友達にメールした。「なぜだか分からないけれど、好きでした。転職するしSNSももう辞めるつもり。だから伝えておきたくて。ありがとう。返信不要」

職場には、体調不良でしばらく入れません、と送信した。主にパソコンのお仕事で在宅勤務だった。体調不良はずっと前から本当だったし、そもそもまともに働けないから在宅の仕事を選んだ。

どこまでが本当で、どこからが本当だろう?本当と本当の間に挟まれた作り話は、砂糖と脂肪と添加物で出来た甘いクリームに似ていて甘美だ。

夜な夜な過食した。躁なのかうつなのかも、分からない。皆から嫌われた後、消えてしまえばいい。SNSも終わり、今の仕事も辞める。これで少しは整合性が取れるだろう。ねえ、神様。

「その朝、夜から」

水鏡は過食に疲れ切った深夜に眠り、外が明るくなって目覚めると、携帯に知らない番号2つから着信があることに気付く。職場か、偽ツイン・・・それはない、職場か。いたずらかもしれないけれど。

メールボックスを一通り確認する。未読メールは、夜からのものばかりだった。

「私も好きです。ごめんけど」
「今は生きていてくれたら、それでいいから。いや、ごめん、幸せじゃないとつらいですね」
「元気になったらでいいから、連絡ください」
「心配で、共通の知り合いに電話番号を聞いてしまいました。四花さんと春姫さんです。ごめんなさい」

四花は、水鏡の従姉妹いとこだ。以前はこの業界にも顔を出していたが、最近あまり見かけず、新しい番号を登録していなかった。

ー 見慣れない番号からの着信は、四花さんと夜か。それにしても夜ちゃんは謝ってばかり。私と似ているかな。それも失礼か。ごめんね。

春姫が起床し、メールチェックをすると、夜から「水鏡さんの携帯番号知りませんか?」と届いていた。「おはよう。返信が遅れてご免なさい。実は私も知りたいのよ。でも何かあったの?」と返信した。

四花 「慮り」

四花しかは夫と子供を送り出した後、水鏡からのメールが届いていることを確認し、一安心した。

水鏡より先に結婚して母親になった四花は、誰よりも「勝ち組」であることを内心分かっていた。だからこそ、静かに暮らした。もっとも勝ち組という言葉は安っぽく感じ、それ程好きではなかったが。

水鏡を慮り、殆どこちらから連絡していない。先に離れていったのは水鏡だが、嫌いにはなれず、実は匿名で水鏡のSNSを応援している。

こんなこと意味がないだろうと思うときもあったが、水鏡が綴るエッセイに、時々いとこわたしが登場する。もしかして、彼女も読まれていることをどこか勘づいているのではないか。では私が匿名のまま小説を書いたら、水鏡は気付くのかしら。

スーパーへ向かういつもの道、落ちた桜の花びらは美しく、写真をカシャ、と撮った。

統合

夜にも朝が来て、気温は上がり春が手招きし、水鏡は落花を浮かべる。全てはもうすぐ、カチリと嵌る。



あとがき

私が以前投稿した春姫と水鏡の物語は、平成時代の体験をもとにした創作でした。

その物語は、今現在の仲間と重なって、ぴかぴかカラフルに色を放ち始めました。水鏡は思い出を浄化しながら、水鏡以外はひとりでに動き出す様に。

友人とのやり取りの中で降りてくるヴィジョンたちを綴った下書き、それは途切れ途切れで拙くて、でもこの世に早く生まれたがっていました。

私は小説の技法など分かりませんので、あちこちおかしな箇所があるかと思います。ですが、人々の「個性や魅力ゆえの苦労、苦労ゆえの逞しさと慈愛」のといったものを、少しでも拾ってみたくて。スピリチュアル・リーディング(ヴィジョン・リーディング)や夢占いみたいに曖昧さと可能性を楽しみながら書かせていただきました。

インスピレーションをいただきました、りりちゃん、鹿子さん、禧螺ちゃん、そして皆様へ、感謝を込めて。

画像撮影 : 虎馬鹿子様。誠にありがとうございました!

(他にも創作の下書きは眠っているのですが、それはまたゆっくりと)



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