見出し画像

「孤立する都市、つながる街」保井美樹編著

本著の特徴的な主張は下記に集約されると思います。

  • 都市における「孤独」や「孤立」の問題が顕在化している。

  • 例えば、ひきこもり問題、不登校問題など、既存の社会的枠組みから取り残された方々を引き受ける社会的な受け皿がない。

  • それだけではなく、「アウェイ育児」や「孤独死」など見えない社会的排除の構造も存在している。

  • この問題に対応する制度的な支援(公的支援)は今後も充実させていく必要がある一方、相談のハードルの高さやそもそも知らなかったりする課題もある。

  • 地縁組織の力も衰えている中で、個人を中心とした小さな共感の場と活動を積み重ねていくしかない。

  • その中で、「社会創造資本」という考え方が重要になる。(本書の一番言いたいこと)

  • 社会創造資本とは、この社会的共通資本をより良く運営し、社会に必要な価値を創造する新たな資本のことである。

  • 経済学者:宇沢弘文の提唱していた「社会的共通資本(自然資本、都市インフラ、制度資本の3つ)」を踏まえて、この社会的共通資本が機能するにはには、管理運営において市民の主体的な関与があることが前提である。

  • 一方で、こうしたことが重要であることは理解されながらも、社会的に具現化されていないのは、この「社会的管理・運営」のあり方をアップデートする必要がある。

  • それには2つの方向性がある①どんなときも、誰にも取り残されない安心への取り組み」②「まだ取り組みの重要性が共有されていない課題」への対応である。

    • ①については、課題が特定のエリアや特定の層に限定されており、社会的要請が見えづらく、行政サービスや市場サービスにもなりにくい分野(ex.社会的孤立、事前災害対応)。

    • ②過去の常識にとらわれているとニーズが可視化されづらく、サービス化に一定の時間が要する分野(ex.地域による自然エネルギー活用、病児保育、認知症を抱えながらの職場づくり)

  • こうしたことを考えると、行政や営利企業によるサービス形成を待つだけではよくなるとは考えにくく、社会的共通資本を機能させる新しい資本の考え方=社会創造資本のあり方を考える必要がある。

  • それには、5つの要素が考えられる。①社会に向かう個人②緩やかな紐帯③官民私連携④信頼交換⑤対話・実践文化である。

また、筆者は、社会を支える存在として「世帯から個人」の変換も重要であると指摘しています。長く地域コミュニティは世帯を基礎とした繋がりで運営されており、自治会や町内会では世帯ごとの加入が普通であり、今も変わらないところが多く、このことによって、地域ごとの社会的共通資本(道路や水路、ゴミ掃除など)の管理運営がなされてきたという側面がある。

一方で、そうした地縁組織が弱体化しているため、それに変わる新しい地域運営の考え方がある。地域運営組織、地域共生社会における包括的支援体制、エリアマネジメントなどはその例である。これらに共通するのは、世帯が中心となった地縁団体とは異なる、人と人の緩やかなつながりを比較的小さなつながりを創出することである。

そして、社会創造資本の5つの要素の1つである「社会に向かう個人」について、意欲と能力のある個人を「公の担い手」として育てること、を提案している。

さらに、③官民私の連携について、市民の声として可視化する「私」の力、都市の資源を活用しながら事業として都市の新しい姿を作り出す「民」の力、そしてこれらの力をインパクトのある変化に昇華させる「官」の力が重要である。

こうした社会創造資本を機能させるための地方自治体の役割を大きく、公共サービスのプロバイダーだけではなく、イネイブラー(=支えて)として民間で公共的なサービスが提供される環境づくりに注力することが必要である。

<読後感想>
各識者の実践による報告と、編著者である故保井氏がそれを「社会創造資本」というキーワードでまとめ上げる本書は、さながら、最後に伏線回収をする2時間の映画を見ているようでありました。

非常に鋭い時代分析と、巨視的な視点だけではなく、ミクロの動きにも目を配って書かれた本書は、これから「まちづくり」「地域づくり」を実践する者の道標になることは間違いないです。

最後に、アンリ・ルフェーブルの言葉を引用しつつ「都市は実践のみが語られる」という言葉で締めくくり、いやいや!と突っ込ませて終わるところも読後感を高めてくれます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?