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性格のいい人がタイプです(ただしイケメンに限る):評価プロセスにおける性差によるダブルスタンダードの研究

今回はダブルスタンダードに関する研究論文の紹介。論文は以下の通り。

Botelho, T. L., & Abraham, M. (2017) Pursuing Quality: How Search Costs and Uncertainty Magnify Gender-based Double Standards in a Multistage Evaluation Process, Administrative Science Quarterly, 62(4), 698-730.

ダブルスタンダードは "norms defining requirements for the inference of an attribute, such as the level of performance considered necessary to conclude that a person is competent (ある人に能力があると結論づけるうえで必要と考えられるパフォーマンス水準のように、ある特性を持っているか否かを推測するうえで必要とされる規範)" と定義される (Foschi, 2000: 22)。

例えば、女性に対して好みのタイプを聞いたとき、「性格のいい人がタイプです」という答えを得たとする。そして、実際にこの女性がお付き合いしていた男性の写真を見てみると、全員がイケメンだったとする。 この場合、女性は「性格がいい」というその人の特性を評価する際に、「男性がイケメンかどうか」という規範を前提に評価していることになる。

今回の論文は、こうしたダブルスタンダードが生じる条件を明らかにしている。

研究のコンテクストは、株式銘柄の推奨に関する状況である。そして、ダブルスタンダードとして、株式推奨者* が男性か女性か、という点に着目している。すなわち、「この株式推奨者の意見を参考にします(ただし男性に限る)」というダブルスタンダードがどのような時に生じるのかを明らかにしている。

* 特定の株式を推奨する人は一般的に「アナリスト」であるが、論文では "analysts"ではなく "recommenders" と記されていたので、ここではそれに従っている。

研究から分かったことは以下の三つ。

1. 女性の株式推奨者の方が男性よりも推奨銘柄の意見を参考してもらえる可能性が低い。
2. 意見を評価する側の探索コストが高くなると、評価プロセスにおける女性の不利益は大きくなる。
3. 評価プロセスが進むにつれ、女性が被る不利益は消える。

一つずつ説明しよう。

1. 女性の株式推奨者の方が男性よりも推奨銘柄の意見を参考してもらえる可能性が低い。

株式推奨者は株式を「買い増す」こともしくは「売却する」ことを、レポートでもって根拠とともに説明する。いわゆるアナリストレポートである。

著者らは、株式を評価する上で、どのような人のレポートが参考にされているのかに注目するのだが、今回は株式推奨者が男性なのか、それとも女性なのかによって、レポートが読まれる回数に差があるかを検証した。

そして、検証の結果、株式推奨者が女性(正確には女性らしい名前)である場合、レポートが読まれる回数が有意に低かったという。

著者らによれば、例えば "Mary" のような明らかに推奨者が女性であることが分かる名前の場合、"Matthew" のような男性らしい名前の推奨者よりもレポートを読まれる回数が24.8%も低くなるという。

よって、人は株式に関するレポートを読むか否かに関して、(意識的か無意識的かは分からないが)性別によるフィルターをかける傾向にあることが分かる。

2. 意見を評価する側の探索コストが高くなると、評価プロセスにおける女性の不利益は大きくなる。

人は適切な情報に基づいて意思決定をするものだが、情報量が増えすぎると、依拠すべき情報を識別するのに多大な労力が必要となる

この場合、より簡単に情報処理をするために、人はステータスを参照にするようになる。ここで、ステータスには学歴職歴はもちろん、性別も含まれる。

すなわち、人は株式を評価する際に推奨者のレポートを参照にするのだが、レポートの数が多くなる場合、評価をする上での探索コストは高くなる。そこで、人は性別のようなステータスでもって情報を取捨選択するようになる。

分析の結果、当該株式のレポートが多く発行されている場合(高探索コスト)、女性推奨者のレポートが読まれる回数は男性推奨者のレポートが読まれる回数よりも有意に低かった(ただし、10%の有意水準)。一方、当該株式のレポートの発行が少ない場合(低探索コスト)、上記のような性別による有意差は生じていなかった。

このことから、人は探索コストが高い場合、ステータス(ここでは性別)によって情報を取捨選択する傾向があると言え、今回のコンテクストにおいては女性推奨者は高探索コストの場合にレポートを見てもらえないという不利益を被る傾向にあることが示唆された。

3. 評価プロセスが進むにつれ、女性が被る不利益は消える。

ここまで見てきて明らかなように、株式の評価をしようと思った場合、どのレポートを参考にすべきかという株式評価の初期段階においては男女による性差が存在していた。すなわち、女性推奨者の方が男性推奨者よりもレポートを読んでもらえない可能性がある、ということである。しかし、この傾向は評価プロセスが進むとなくなることも今回の研究で明らかになっている。

具体的には、レポートに対する分析の質に対する評価、レポートに記されている目標価格が実現する可能性、そしてレポートに対するフィードバックとしてのコメント数に関しては、男性推奨者と女性推奨者との間で有意差は存在していなかった。

つまり、一度レポートを読んでもらえると、レポートの内容に関する評価に関しては男女差は消えてしまったのである。

筆者らはこの理由を、レポートを実際に読んだあとであれば評価における不確実性が低くなるためであると主張する。

すなわち、レポートを読むか否かの判断をする上で、本当にそのレポートが投資判断に役に立つかがわからない。よって、人は性差のようなステータスを用いてレポートを読むべきか否かを判断する傾向にある。

一方、一度レポートに目を通してしまえば投資判断に関する情報を手に入れることができ、そのレポートの内容が正しいのか否かを人は判断できるようになる(不確実性の低下)。よって、わざわざステータスに頼らなくても、そのレポートの評価ができるようになるのである。

今回の感想

今回の論文の内容は、例えば就職面接を考えてもらえば納得のいく結果といえるだろう。

就職面接の場合、企業は多くのエントリーシートを処理しなくてはならない(高探索コスト)。それゆえ、学歴や性別といったフィルターでもって学生を絞ることになる。

しかし、いったん学生が絞れると、その学生が本当に企業にとってふさわしいかどうかを面接等でじっくりと判断できるようになる(不確実性の低下)。

よって、入り口のところではステータスによる差別がなされる可能性があるものの、それ以降であれば差別的な評価はしにくいのではないか、ということがうかがえる。

企業の採用担当者にとっては、この入り口の差別をいかに少なくするか、ということが重要な課題となるだろう。また、採用担当者が学生の採用において学生からの情報が少ない状況に陥っている場合(不確実性が高い場合)、採用担当者はステータスのようなものに頼って公正な評価ができなくなってしまうかもしれない。

面接において、学生は自分がどんな人物なのかしっかりとアピールする必要があるとともに、採用担当者も学生が一体どのような人物なのか、しっかりと理解することが正しい評価をする上で重要となるのである。

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