第二言語を使うと意思決定のバイアスがかからなくなる
1. はじめに
母国語を話す場合と第二言語を話す場合とで、自分が違う自分じゃないかと思うことがあったりする。
とりわけ自分は日本語と英語を話すわけだが、英語を話しているときの方が直接的で感情的になる傾向がある一方、日本語を話しているときは直接的ではなく、間接的な表現を多用しているように思う。
今回は、人が母国語以外の言語を話すことによって意思決定のバイアスがなくなる、という話。論文は以下のもの。
Keysar, B., Hayakawa, S. L., & An, S. G. (2012) The Foreign-Language Effect: Thinking In A Foreign Tongue Reduces Decision Biases. Psychological Science, 23(6), 661-668.
2. バイアス
バイアスとは意思決定において生じる傾向のことであり、合理的な意思決定を妨げてしまうものである。
例えば、ある社会人の初年度の給与が月額25万円だったとする。これを、「ある社会人は初年度の給与として25万円ももらっている」というのと、「ある社会人は初年度の給与として25万円しかもらっていない」というのとでは同じ25万円でも捉え方が異なってくる。
これをフレーミング効果という。
フレーミングは実社会でもよくつかわれており、例えば「1%割引」と言わずに「100人に1人はタダ」というキャンペーンを行った家電量販店もフレーミングを上手く使った取り組みといえる。
そして、もし普段「1%割引」に魅力を感じない人が「100人に1人はタダ」という文言につられて多くの買い物をしてしまったのであれば、その人の意思決定にはバイアスが生じていたことを意味する。
3. 外国語を使って考えるとバイアスが減る
Keyser らは人の意思決定に言語が影響を与えるのかを実験によって明らかにしている。ここでは先ほどのフレーミング効果がどのようになったのかを説明しよう。
論文では3つの実験について詳細に書かれている。ここでは以下の質問に対する回答の違いを調査している。
質問はノーベル経済学賞受賞者の Kahneman & Tversky (1979) らの論文に記載されているものを修正したものである。
【問題A】新しい危険な病気が発生している。薬なしでは600,000人の人々が死ぬだろう。こうした人々を救うために二つの薬が開発されている。
薬Aの開発を選択すれば200,000人を救うことができる。
薬Bの開発を選べば、3分の1の確率で600,000人を救うことができる一方、3分の2の確率で誰も救われない可能性がある。
あなたはどちらの薬の開発を選びますか?
もう一つの問題は以下の通りである。
【問題B】新しい危険な病気が発生している。薬なしでは600,000人の人々が死ぬだろう。こうした人々を救うために二つの薬が開発されている。
薬Aの開発を選択すれば400,000人が死んでしまう。
薬Bの開発を選べば、3分の1の確率で誰も死なない可能性がある一方、3分の2の確率で600,000人全員が死ぬ可能性がある。
あなたはどちらの薬の開発を選びますか?
もちろん、二つの質問は同じことを言っている。言い回しが違うだけである。しかし、この言い回しの違いが意思決定に大きな影響を与えてしまう。これがフレーミング効果である。
上記の二つの質問において、ネイティブ言語を用いて意思決定をした場合に得られた結果が下記の通りである。
英語ネイティブの人々が英語の文章を読んで回答した場合
問題Aにおいて薬Aを選ぶと答えた人々 77%
問題Bにおいて薬Aを選ぶと答えた人々 47%
この結果から、ネイティブな言語を用いて意思決定をした人々は見事にフレーミング効果の影響を受けていることが分かる。
一方、英語ネイティブの人々が日本語での回答をさせられた場合、薬Aを選ぶ確率は問題A、B問わず、おおよそ40%程度であった。つまり、フレーミング効果が消えてしまったのである。
4. おわりに
著者らは、外国語、いわゆる第二言語を用いることで意思決定をする際に認知的もしくは感情的な距離をとることができるから、という説明をしている。
つまり、第二言語を用いることで一歩引いた立場で意思決定ができるようになる、ということである。
第二言語を習得することの意外なメリットといえる。
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