見出し画像

看護師の離職の原因

離職と組織への定着 (Turnover and retention) に関する研究の歴史は長く、企業のみならず病院といった医療法人を対象とした研究も盛んにおこなわれている。

離職の原因として昔から研究されている要因は、職務満足である。つまり、仕事において不満を持っている人は離職をしやすい、ということである。そして、もう一つの要因は組織コミットメントである。組織コミットメントは、従業員が特定の組織や組織目標に対するアイデンティティを持ち、その組織のメンバーであり続けたいと考える程度を意味する (Porter et al., 1974)。組織コミットメントが高いと、その従業員は自分の所属している組織にとどまりたいと考えるため、離職の可能性は低くなるという。

これらは組織行動論では態度を示す変数としてとらえられている。このほかの態度を示す変数としては、仕事への巻き込み (Job involvement) や内発的・外発的動機づけ、といったものがあげられる。

一方、離職を説明する要因としてもう一つ昔から指摘されているのが、代替的な仕事の存在 (Job alternatives) である (March & Simon, 1993)。つまり、現在の仕事にとって代わる仕事を従業員が認知した場合、離職の可能性が高まるのである。

Nei, Snyder, & Litwiller (2015) はこうした既存研究を踏まえつつ、看護師の離職という現象に対象を絞って、どのような要因が離職と結びついているのかをメタ・アナリシスによって明らかにしている。

この結果、大きく六つの要因が看護師の離職に関係していることが明らかになった。一つ目は個人特性 (Personal characteristics)である。具体的には、年齢の高い看護師の方が若い看護師よりも離職の意図および実際の離職の可能性は低くなるほか、病院への在職期間が長いほど離職意図及び実際の離職の可能性が低くなる。

二つ目は、看護師が担っている役割の状態 (Role states) である。仕事の緊張感や役職における緊張感が高いほど、離職の意図及び実際の離職の可能性は高まることが明らかになっている。また、データの関係で離職意図との関係しか見出されていないものの、仕事と家庭との間にコンフリクトが生じている、すなわち仕事と家庭のバランスをとるのが難しいと感じている看護師ほど離職する意図が高まることが明らかになっている。

三つ目は、仕事そのものの特性 (Job characteristics)である。例えば、仕事の統制 (Job control) や仕事の複雑さ (Job complexity) といった要因は離職の意図及び実際の離職と負の関係にあることが明らかになったほか、報酬(例えば昇進の機会など通常の給与以外の報酬)が高いほど看護師の離職の意図は低下していた。興味深いのが給与と離職の関係である。メタ・リサーチの結果、給与は看護師の離職の意図及び実際の離職と有意な関係が見いだせなかった。よって、給与を高くすることで離職を防ぐことができる、という主張はかなり疑わしいと言える。むしろ、賞与や昇進といった報酬の方が看護師の離職を防ぐうえでは効果的と言えるだろう。

四つ目はグループやリーダーとの関係である。リーダーとの関係は看護師の離職意図及び実際の離職と有意な負の関係があるほか、チームの凝集性もまた看護師の離職意図と負の有意な関係があった。よって、リーダーやグループ内の人間関係と言った要因は、離職に大きな影響を与えるということが明らかになっている。

五つ目は組織や環境への認識 (Organizational/environmental perceptions) である。既存の研究でも示されているように、他の仕事の認知という要因は、看護師の離職意図および実際の離職と正の有意な関係があった。つまり、看護師が他の仕事の機会を認識すると、離職する可能性が高まるのである。このほか、職の不安定さが離職意図と正の有意な関係を持っていたほか、組織風土、組織からの支援、個人と組織との相性といった要因は看護師の離職意図と負の有意な関係を持っていた。

最後に、既存研究で広く研究されてきた態度 (Attiduinal reactions) の要因である。組織コミットメント、仕事への巻き込み、そして職務満足は離職意図及び実際の離職と負の有意な関係を持っていた。一方、内発的・外発的動機づけは看護師の離職意図と負の有意な関係を持っていた。すなわち、こうした態度変数の値が高まるほど、看護師は離職しなくなる可能性がある、ということである。

Nei らはこのメタリサーチの結果をさらに分析し、どの要因が最も看護師の離職に影響力を持っているのかを明らかにしている。分析の結果、最も重要な要因はリーダーとの関係であるという。とりわけ、支援的なリーダーシップが実際の看護師の離職に最も大きな影響を与えていることをパス分析の結果明らかにしており、看護師の離職においては上司の存在が大きな影響を与えることを明らかにしている。

References

March, J. G., & Simon, H. A. (1993) Organizations (2nd edition), Cambridge, Mass ; Oxford: Blackwell Business.
Nei, D., Snyder, L. A., & Litwiller, B. J. (2015) Promoting retention of nurses: A meta-analytic examination of causes of nurse turnover, Health Care Manage Review, 40(3), 237-253.
Porter, L. W., Steers, R. M., Mowday, R. T., & Boulian, P. V. (1974) Organizational commitment, job satisfaction, and turnover among psychiatric technicians, Journal of Applied Psychology, 59(5), 603-609.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?