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【映画観覧記】ロッキー・シリーズ

先月末から今月頭にかけてさらってしまった。
『クリード 過去の逆襲(2023)』をふと見てしまったコトが切っ掛けだ。
クリードシリーズ3作目、ロッキーシリーズ初期の宿敵アポロの隠し子が主人公という本作、
クリードくんは父の影に怯えながらもロッキーの力を借り克服していくスピンオフ作品。
『クリード チャンプを継ぐ男(2015)』で父の存在を知りロッキーに師事してボクシング街道を躍進するクリードが描かれ、
お約束のフィラデルフィア美術館の階段で師弟駆け上がってのガッツポーズには、ファンならずとも歓喜。
『クリード 炎の宿敵(2018)』では、なんと「ロッキー4」のドラゴとその息子が対戦相手、父アポロを殺したドラゴとの確執、ロッキーの苦渋、いかにもアメリカ的なロシアに対するアプローチ、ランボー(乱暴)だなこれは。
そして3作目は、ロッキーさえ現れずクリード引退後の復帰という物語でした。
いいでしょう、ならばスタートから見極めようという試み。


『ロッキー(Rocky)』1976年

監督:ジョン・G・アヴィルドセン
出演者:シルヴェスター・スタローン(脚本)
タリア・シャイア
バート・ヤング

やはりこれに尽きます!
全部の起点、アポロ(チャンピオン)の気まぐれで無名の"イタリアの種馬"ことロッキー・バルモアが対戦相手としてカードを組まれアメリカン・ドリームを叶えるという至ってシンプルな話。
しかしながら、極貧生活を送るロッキーの借金取り立てのバイトや、ジムトレーナーのミッキーとの微妙な関係、そしてなによりもエイドリアンに恋心を寄せ、兄のポーリーに翻弄される憎めないロッキーがいる。
今回改めて、ロッキーの舌足らずで悠長な話し方、不器用で無骨、それに愛嬌さがこの作品の肝だと感じた。
皆さんご存じ、生卵(6個)一気飲み、生肉工場の肉叩き、フィラデルフィア美術館の階段ガッツポーズも、本作。
「ファイナル(2006)」に出てくる不良少女マリーの姿も見られる。
本作がなぜいいのかと問われれば、この時代のトーンだろうか、陰鬱な街並み、汚れ仕事で生計をたて底辺でもがき続けながら腐った生活の中に見つけた恋、辛い特訓を経て一気にボクサーとして花咲く試合へと進み、ボクシングを軸としながらもロッキーという個人の葛藤が、いろんな場面で立ち現れていく様が素晴らしいのだ。
僕はスポーツを見るのが嫌い、特に団体競技は嫌、だからこそなのか拳闘や相撲は好きだ。
あのたった3分のラウンド、闘っている胸の内を探るとその3分に凝縮された物語がフラクタルに迫ってきて、漫画「あしたのジョー」「がんばれ元気」で育った世代の僕は胸がギュッと鷲掴みにされたようになる。
ロッキーは最後のラウンドまで闘う。
この映画はスタローンの生き様とも直結していて、鳴かず飛ばずの役者人生が映画ともダブる。
脚本の売り込み、プロダクションとの交渉、主演も自身が演じ、起死回生を果たす。
エンディングはエイドリア〜ンで抱擁が本作であるが、もうひとつの終わり方、
戦いを終えたロッキーが1人控室に戻ると、そこで待っていたエイドリアンが小さな星条旗を取り出しロッキーに手渡す。そして2人だけで静かに裏口から会場の外に出て行く(wiki)だったという。
その姿はポスターに採用されていて、なにかチャップリンの映画のような趣きだ。

『ロッキー2』1979年

続編、アポロとの再戦。
ボクサー引退、エイドリアンとの結婚に妊娠、細々とした生活への葛藤、お金を稼ぐということは?
様々な紆余曲折を経て再びリングへ向かう。
リングでのパートナーであるトレーナーのミッキー、この関係性は本作の核ともなっている。
ボクサーは独りで闘うがコーナーに戻った時、それを受け止めてくれる大切な盟が必要なのだ。
試合をフルで見せろとは云わない、映画なのだから良いカットで繋いでいくコトが肝心で、壮絶な殴り合いは見事であるが、
「あしたのジョー」をきっと見てるんじゃないかと訝しる。
70年代最後その後のロッキー、監督・脚本・主演も前作で成功したスタローン。
この作品の泥臭さはこれでお終いだ。

『ロッキー3』1982年

ヘビー級チャンピオンとして幾度の防衛を果たし、大金持ちとなって豪邸暮らし、80年代バブリー路線のロッキー。
ハルク・ホーガンとの異種格闘戦は猪木vsアリの試合を思わせ、フィラデルフィア美術館のロッキーステップにはブロンズ像が立つ。
トレーナーのミッキーが逝き、宿敵アポロが脇を固め、ミスター・T扮するクラバーと闘う。
もうこうなると強い奴のインフレ(サルまん)であり、スタローン自体も「ランボー」撮影と重なり、僕個人としてはいたたまれないような気がする。
成功してしまうとこうなってしまうのね、という営利な匂いがする本作であるが、幾分70年代の匂いも残ってる。
ここから、アイ・オブ・ザ・タイガー路線と称ぶのだ。

『ロッキー4/炎の友情』1985年

エキシビションマッチでベガス、JB(ジェームス・ブラウン)がショーで歌い、アポロvsドラゴ、「クリード」へ引き継がれる因縁の試合。
この頃は、お子と大変仲の良いロッキーです。
ソ連で行われるアウェー戦、ロッキーvsドラゴ、ブーイングの中最終ラウンドまで闘うロッキーであった。
エイドリア〜ン!
強い奴のインフレ極まり、当時見ましたが流石に子供心ながらこれはないな、と思った。
東西冷戦のアメリカ目線で語るランボーな作品だ。
80年代ていったい。

『ロッキー5/最後のドラマ』1990年

シリーズ1作目の監督アヴィルドセンを起用してシリーズ最後を飾る。
ロッキー引退後のダメダメ人生のスタート、しかし思ったより良い出来栄えだ。
というよりも、これから続いていく新シリーズのお手本ともなっている。
脳ダメージで引退したロッキーが、新たな白人新鋭ボクサーを育て、我が息子との確執を乗り越え、少しばかり無理やりな展開ではあるが、暗い影が全編漂っていてそのトーンは一作目に戻ったかのようだ。
エイドリア〜ンはこれが最後の出演。日本語吹き替えは、松金よね子。

『ロッキー・ザ・ファイナル(Rocky Balboa)』2006年

まだあった!16年ぶり続編(とはいえ息子や設定が5と繋がってはいないのでリブート作品)
これは下北場末でBARをやっていた時、お客さんのAFさんが出たばかりのDVDを持って観た。
DVD初回特典に勝負ガウンが付いていて、彼はそれを羽織って勝負にでてた(笑)
あっさり死んでしまってるエイドリアン、その影を求め年老いたロッキーは兄のポーリーを連れまわして思い出巡り、
地元レストラン(店名Adrian)で昔の試合を雄弁に語るロッキーの姿に涙、1作目の不良少女マリーが中年でバーテンダー、
なにもかもがもう消失してしまった遠い思ひ出、30年の時間経過がこの映画の錆となっている。
あり得ないもしない再戦、アポロのトレーナーだったデューク、マリーと息子を脇に従えて挑む!
「クリード」へ続く布石と、過去作品のリスペクで彩られる。
この結末も何通りかあるようだが、試合の勝ち負けはあまり意味なく、ひたすらロッキーであり続ける姿を焼き付けておきたい映画だ。

全編を通し、やはりロッキーの舌足らずで鈍間な話し方、不器用な生き方に、その人柄をみる。
愛される理由はそこだ。
アメリカンニューシネマの片隅に咲いた小さな花が、思いもかけずショービジネスの徒花となってしまった80年代、
それでも良くも悪くもスタローンの生き様と重なり、移民の物語は引き継がれてく。
ビル・コンティ「ロッキーのテーマ」はアガる。
ロッキーステップを駆け上がりたくなるってもんでしょ。


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