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灯火を渡していくことで | 大磯訪問記2023

昨年、関東で高齢者福祉に携わっている有志の方々が、私がかつて手掛けていた「 igoku(いごく)」というプロジェクトの聖地巡礼みたいな感じで、我が街:福島県いわき市を訪れてくれました。

その時のツアーの様子は↓こちら




ホーム&アウェイ方式?!

そのツアーメンバーの中に、神奈川県大磯町で介護のケアマネ事業所をされているお二人がいらっしゃっいました。

大磯町の木内さんと岩本さん

お二人から、「大磯で月に一回、お寺で”夜の保健室”という取り組みをしているんですが、是非一度お越しください」とお誘いを何度か頂いていたので、今度はこちらが行く番だ、ホーム&アウェイ方式だということで、7月下旬に行ってきました。


会場である「東光院」がまずステキすぎた!

大磯駅からブラブラ散策がてら、会場である「東光院」さんというお寺まで。楽しいなぁ〜。


Oiso


オオイソ


大磯


会場である「東光院」さんの入口には「暮らしの保健室」のステキな看板があるので、初めて訪れた私でも分かりやすかった。


「東光院」さん、ドドン!


まずは「東光院」さんを簡単に案内していただきました。

THE 本堂

ペットも家族。ペット用のお墓もあります。

「家族」も”血縁”から解き放つ。
こちらは、パートナーと一緒に入れるお墓。

その他にも、写真を撮り忘れてしまいましたが、外から入れるトイレは24時間開いていて、いつでも誰でも利用できますし、生理用ナプキンも無料で常備してありました。

お寺の隣の物件を借り上げて、現在、コミュニティ食堂の準備も進められているとのこと。

また、お寺の車庫に霊柩車がありまして、聞けば、東光院さん自前の霊柩車だそう。

「365日24時間体制で、求められれば病院へも施設へも直接、住職と私(副住職)で、ご遺体を引き取りに伺うんです。だから、今日はノンアルですいませんね」

さわやかな笑顔で、当たり前のように答える副住職。

「おいおいおい、黙って聞いておけば、ちょっと待てよー!」

と心の中で叫んでしまいましたw。

ペットのお墓はある、家族に縛られないパートナー用のお墓もある。
トイレは24時間いつでも誰でも利用できて、生理用ナプキンも無料提供。コミュニティ食堂の準備も進めていて、ご遺族の求めに応じて、自分たちでご遺体を引き取りにも行く。

パッと思いつく限りの課題解決と、「こうだったらいいのになぁ」が全部、既に実装されているじゃないか、この「東光院」さんには。

「スゴい、、、」
「凄すぎる、、」
と5、6発強めのボディブローをこちらは喰らっているんだけど、住職&副住職には「ドヤ」の「ド」の字もないんですよ。

「まぁ私たち、今のお寺的には最新のアップデートしてますよね」的な感じが微塵もカケラもない。そのナチュラルさが、腹に喰らった衝撃を足に効かせ、膝がガクガク震え出しましたw

俺の膝をガクブルさせたお二人。右:大澤暁空住職・左:古井昇空副住職)


いざ、開宴!

この時点で、既にもうお腹いっぱいでしたが、今回訪問したメインはこれからです。「夜の保健室」です。

そもそも、この「保健室」についての説明ですが、毎月2回、誰でも予約なし&無料で健康や介護について専門職に話せる場所として日中開催しているのが「暮らしの保健室・安養」。で、第4土曜日のみ17時から夜バージョンとして「夜の保健室」が開かれています。


お寺に「地下」がありまして、そこが会場です。


会場はこんな感じでステキで、かつこの熱気。
地域の皆さんが一品ずつ持ち寄ってくださるスタイル。

大磯で暮らす方、大磯で介護のお仕事をされている方、民生委員の方など年齢、性別、職種も多様な皆さんがお集まりになられていました。
私も空いてる席に座って、お隣の方とご挨拶しつつ、缶ビールをプシュッと。

すると、「私もイガリっていうんですよ」とお隣の方がおっしゃる。名字的にかなり珍しいので、ここ大磯で同じ「イガリさん」に会えるなんてなんたる偶然と思って、話を聞くと、なんとなんと同郷のご出身。そして、高校の大先輩ということが判明しました。

福島県いわき市から、たまたま大磯のお寺の取り組みを見学に来て、たまたま隣に座った方が、同郷で同じ高校の先輩だなんて、そんなことあります?!

イガリ先輩、皆さんの前で自己紹介のときに「87歳まで、障がいのある方の家のゴミ出しを手伝っておりました。90歳を超えましたが、まだまだ地域のためにお役に立てることがあれば、なんでもやっていきたいと思います」と仰られていて、度肝と脳天を同時に抜かれました。

先ほど、東光院の住職/副住職にボディブローを喰らい、膝がふるえた上に、イガリ先輩に度肝と脳天を抜かれたので、もう満身創痍ですw

俺の度肝と脳天をうち抜いたイガリ先輩


全国から、大磯の熱気とヒントを求めて

イガリ先輩につづき、席の順に簡単な自己紹介が続きます。福島から来た私だけでなく、かなりの方々がこの大磯の取り組みにヒントを求めてお越しになられていることが判明。

北海道、福島、東京、同じ神奈川県内でも川崎市、そして石川県と、本当にさまざまな地域からこの日、大磯の東光院に集まり、出会ったのです。

多様なのは地域だけではありません。
職種もまた多様でした。
医療介護福祉の関係者のみならず、デザイナーや旅行代理店から町役場に転職された方、果ては大磯町の池田東一郎町長までお越しに!

俺がお誘いを受けたように、この日に合わせて、いろいろな方々に大磯サイドがお声がけしたのかなと思って、主催のお二人に聞いてみると、お二人こそがこの多様な集まりに誰よりも驚いていました。


神奈川県中郡の最強ヘルパー!大岩姉さん


これ、スゴいけど、ちょっと凄すぎると思うんですよね。
確かに東光院の取り組みと、この「街の保健室」は超すごいし、超ステキです。だけどそれにしても、取り組みのスゴさを、「集まり」の凄さが上回っているようにも思ったんです。

で、それはきっと、今すでにヒタヒタと忍び寄ってきていて、これから怒涛の大波となってやってくる、さらなる少子高齢化による「担い手不足&多死社会」のすさまじさを、全国の多くの関係者が感じ取り、脅威と恐怖を覚え、それでも乗り越えるべく、よりよい社会を目指すヒントを求めているからなんじゃないかと推察しました。

これから来るであろう未曾有のピンチを、きちんと事前に予知し、そのピンチに指をくわえているだけじゃなく、よりよく対応しようと思っている方々が全国に数多くいる。

そのごくごく一部の方々が、たまたま、私が訪れたのと同じに日に大磯に集まり出会っただけなのではないだろうか。
逆を言えば、これだけ多様な地域と職種の方々が大磯の東光院に集ったということは、同じような危機感と同時に情熱を持っている人が全国に超めちゃくちゃ多くいるということの裏返しなのかもです。

大磯と東光院の取り組みとそのベースにある「情熱」を感じに全国から多くの皆さんが集まった。だけど、その全国から集まった皆さんもまた、大磯&東光院とおなじほどの「情熱」をお持ちだった。
その情熱がこの日、みんなを大磯に集結させたんだということを、俺は肌で知ることができたんです。

この国の医療と介護のこれからは大変なことが予測されていますが、悲観するばかりではないかもです。大変な中にあっても、少しでもよりよくするんだと思っている方々が全国にたくさんいる。そして、その情熱は地下の深いところでつながり、マグマの如く全国各地で今か今かと滞留しているのかもしれません。人類初の急激なピークアウト、乗り越えられるぞ、私たちは!

司馬遼太郎さんのエッセイに「洪庵のたいまつ」という話がありますが、俺も含めて、大磯の熱気と取り組みを体感した人が自分たちの地域に戻り、大磯の話をする/熱気と取り組みの種火を誰かに渡す。

私が仮に、いわきの知り合い5人に大磯の取り組みとパッションの「火」を渡すことができたら。

そして、その5人がまた別の5人に渡してくれたら、、、
1人が5人になり、
5人が25人に、
25人が125人に、
125人が600人に、
600人が3,000人になっていく。

それが、私といわきだけでなく、あの日東光院で出会った全国各地の皆さんがそれぞれの地域で同じように火を渡していってくださったなら。

怪しいネズミ講の話ではなくw、これから来る、人類がいまだ経験したことのない急激な多死社会&担い手不足問題を前に、「誰がどう解決するんだろう」と呆然としてしまいがちですが、よりよい地域を/よりよい暮らしをそれでも目指していくんだという希望と情熱の火を受け取り、誰かに渡していくことで、前向きに立ち向かっていけそうな力強さと明るさを私は感じました。

ステキな人と取り組みと思いを大磯の東光院へ体感しに行ったら、それでだけでなく、全国のステキな皆さんと出会い、これからの進むべき未来への明るさも一緒に感じることができました。

そして、その未来への明るい道筋は、偉い誰かが指をパチっと鳴らして、突然現れる未来ではなく、一人が、また次の一人へとキャンドルの灯火ともしびを渡し移していくような、草の根的に展開されていく未来の明るさなんだと思いました。

それぐらいだったら、俺でもできるし、これをお読みのあたなもできますよね。


翌朝の約束

宴もたけなわというタイミングで90代のステキなレディが話しかけてくださいました。

「あなたは今日はどこにお泊まり?」

「大磯では宿泊するところが確保できなくて、隣駅の平塚のホテルに泊まります」

「あら、それは残念。このお寺に泊まらせてもらって、明日の朝、大磯の海岸で一緒にアオバトを見ましょう。本当に美して、ステキよ。9時頃に待っているわ。それでは、また明日〜」

「え、え、えー。」という私の心の声もむなしく、レディは言い放しのまま、さっとお帰りになられてしまいました。

たらふく飲んだし、明日はゆっくり寝て、それから帰ろうと思ったプランは一瞬で消滅。翌朝、8時にチェックアウトし、再び大磯へ電車で戻り、海岸を目指しました。

アオバトがなにかも、広い大磯の海岸のどこに行けばいいのかもよく分からなかったけど、とりあえず向かってみました。

海岸に着いてみると、カメラや望遠鏡を覗き込む人たちが。
きっとあそこに違いないと近づくと、「アオバト」の説明看板が。


無知で恥ずかしい限りだが、アオバトのこと全然知らなかった。丹沢山地から多い時では、一日に1,000羽ものアオバトが大磯の照ヶ崎海岸に海水を飲みに来るんだそう。

なぜ海水を飲みにくるのかも謎、
そして、すべてのアオバトが照ヶ崎海岸の決まった場所に来るのも謎だそうです。

20分ぐらいいたけど、ひっきりなしに、キレイな黄色の鳥たちが行き来していました。真っ青な大磯の海に、黄色が鮮やかなアオバト。不思議だけど美しい、そんな光景とひとときを味わうことができました。

昨夜のレディには、ついぞ会えなかったけど。

大磯の皆さん、本当にお世話になりました!また伺いますね。



P.S. なんとレディは俺に会えないと言って、東光院さんに行かれて、しばらく待っていてくださったとのこと。東光院さんに寄らずに帰ってしまった、俺のミス。対面はできなかったけど、きっと心は通じ合っていましたよねw


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