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楽食探訪:「ねこまんま」のある大衆食堂。

そのお店の存在は、20年以上前から知っていた。

失礼な言い方だけど、どこにでもある古い大衆食堂だ。

どちらかと言えば、好きなタイプのお店だけど、
場所が家から遠いこともあり、
興味を持つこともなかった。

だけど、何度かお店の前を車で通っていると、
お客さんの出入りを目にすることもあった。

昼前頃だと、多くの人が押し寄せるかのように、
集まって来るのがわかった。

昔からやっていて、お客さんも多いので、
20年経って初めて興味が湧いてきたのだ。

いまは便利な時代で、
ネットでお店のことを調べることができる。

……と、わざわざ書くところが古い人間なのだろう。

検索してみると、予想に反して人気店だったのだ。

口コミは多いが、悪口は少ない。
誉める人が大半だった。

おやおや、これは失敗だ。
何で、20年も放置してしまったのか。

口コミを読んでみると、「中華そば」ファンが多い。
昔ながらの鶏ガラ醤油で、絶賛されている。

地元和歌山のラーメンは、
豚骨醤油が支配していると言っても良い。

他の味を探すのに苦労する地域なのだ。

なので、私は愛する中華そばを諦めていた。

ところが、20年もスルーしていたお店にあったなんて。
これは、行かねば。

他の口コミも見てみると、
驚くべきメニューが存在していた。

こんなものを売るのか? 売れるのか?
単品メニューとして成立するのかと疑ってしまうもの。

メニュー名は「ねこ飯」。

いわゆる“ねこまんま”だ。

美味しいことはわかっていても、
家庭でさえ作ることのないメニューではないか。

それが売られている。
面白い。
勇気ある決断。

これも食べてみなければ。

で、「中華そば」と「ねこ飯」を求めて、
嫁はんと向かった。

11時のオープンと同時に入り、一番乗り。

カウンターの惣菜やメニューをひと通り見たが、
決めていたものを即、注文。

「中華そば2つとねこ飯」。

セルフのお水を取りに行きながら、店内を観察。

厨房は広いが、店内も広い。

お母さんと娘さんの2人でやっているように見えた。

お父さんが亡くなって、苦労しているんだなぁ〜と、
勝手に想像して、涙が出そうになる。

2人でやっているから、
惣菜の種類が少ないのかもしれない。

割と早く、「中華そば」と「ねこ飯」がやって来た。

中華そばの佇まいは、
おぉ〜! と声を上げてしまうほど、
懐かしい姿をしていた。

醤油色のスープの中に、黄色い、やや太めの麺が沈み、
その上にはもやしとねぎとナルト、豚肉が乗っている。

チャーシューではなく、豚肉なのがちょっと気になる。
というより、残念。

正しい姿としては、やはりチャーシューが欲しい。

そこは良しとして、まずスープをすする。

おっ、旨い!
やや甘さを感じるものの、正統派中華そばの味だ。

麺の太さがいい。
ごくごく普通の、固くなく、軟らかくもない麺。

もやしも合う。
ねぎも合う。
ナルトは、赤色優勢の反対タイプ。
まぁ、良しとする。

そして、豚肉。

どうやら、スープと一緒に煮たのではないか
と思われる味になっている。
美味しいけど……。

この豚肉の甘さが、スープに入ってしまっている。

私の好みとしては、この甘さを無くした方が、
スッキリと引き締まった味になると思う。
惜しい。

とは言うものの、鶏ガラ醤油を欲していた私には、
充分に満足できる味だ。

そうだ、忘れるところだった。

この中華そばには、
「おろし玉ねぎ」が別添えされている。
途中で味変するためのもの。

玉ねぎのみじん切りが入っているラーメンは、
テレビで観たことはあったが、体験するのは初めてだ。

途中で入れてみると、「こうなるのかぁ〜」と、
感心してしまった。

味が、かなり引き締まる。

甘いスープがキリリとするので、これもまた旨し。

次に、「ねこ飯」を。

小さな重箱のような容器に入って、フタをしている。
パックの5枚入り味つけ海苔が添えられている。

フタを取ると、ご飯。

当たり前だけど、
中に醤油に浸したおかかが入っているだけなので、
上空から見た姿は、白ご飯だ。

そこに、味つけ海苔を並べてみる。

5枚がピッタリと乗っかるサイズで、
ちょっと面白いと思ってしまう。
どうでもいいことだけど。

海苔と一緒にご飯をすくって、パクッ。

ほら、旨い。

マズいはずはない。
私には食べ慣れた味で、特に感動はないが、
これをメニューにしていることには、
妙な感動がある。

このねこまんまが、中華そばとよく合う。

嫁はんと交互に、バクバク食べてしまう。

中華そばのスープも飲み干してしまった。

いやぁ〜、懐かしき味わいに嬉しくなった。
また来ることになるだろう。

しかし、この20年がもったいない。

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